5章 15. 皇帝陛下に謁見
「あ、ご主人様おかえりー」
「よお大将、どうだった?」
「こっぴどく叱られたよ」
城の案内が終わった後、俺だけ先輩方に呼び出しをくらい説教を受けた。
その理由は城内で単独行動を取ったことと、後は不用意にメルフィナ王女と接触したことである。
単独行動はともかくメルフィナ王女と出会ったのは本当に偶然なので、そこは怒られても仕方ないと思ったのだが、先輩方にそんな言い訳は通用しなかった。
「それで何か有益な情報は手に入りまして?」
「いやダメだったよ。資料室に入るまではいけたんだが、すぐに王女に見つかっちまったんだ」
「まっ、資料室が見つかっただけ良しとしようじゃねぇか」
俺は素直になれ何も情報を手に入れられなかったことを報告したが、そのことを咎められることは無かった。
こういう時ガンマなら真っ先に突っかかってくるというのに、今日はえらく大人しい。
「なんだ、ガンマの怒ってないのか?」
「ふふっ、ガンマは「灯は頑張ってるんだから誰も文句言うんじゃねーぞ」って、ダーリンがいない間に私達に言ってきたのよ」
「おい!それを言うんじゃねーよ!」
どうやら俺が来る前に、もう事前に彼らの中では結論が出ていたらしい。
さっきは怒られたばかりで少し気持ちが落ち込んでいたが、お陰ですっかり気分が良くなった。
「はははっ!ガンマも意外と優しいとこあるじゃん!」
「てめっ、この野郎!」
「ちょ、冗談だよ。やめろって!」
「うるせぇ!」
さっきまでは和やかな雰囲気だったのに、いつの間にか俺とガンマは追いかけっこを始めていた。だが、たまにはこういうのも悪くない。
彼らや獣人族の期待に応えるためにも、もっと頑張ろうと元気づけられた。
――
訓練が始まって半月が過ぎた頃、少々面倒なことが起き始めた。
俺達5人は、訓練中にうっかり殺さないよう他の魔法使い達を相手する時は、細心の注意を払って手を抜いているのだ。
だが、どうやら俺達は手を抜き過ぎたようで、最近俺達の同期の魔法使い共が調子に乗り始めたのである。
「おい!さっさとしやがれこのトロマが!」
「はぁ、本当に鈍い男だ。見ていて虫酸が走る」
「うるさいな……」
特に俺は、よく先輩方に怒られることが多く、こいつらに1番舐められている。
いくら俺が面倒臭がっても、こいつらは一向にからかうのをやめようとしない。
まぁこういう集団行動では、必ずこういうことが起こることは理解しているので、俺もそう腹を立てたりはしないが。
「ちょっとあんた達!いい加減にしなさいよ!」
「げっ、ちび女かよ!おい行こーぜジード」
「ああ、全く幼女にまで庇われるとは本当に情けない男だ。貴様のような奴がいるからなぜこの高貴な魔法師団に入団出来たのか不思議で仕方ない……」
俺をいじめていた2人、ジードとザリューは妙に長い捨て台詞を吐きながら去っていった。
「あいつら、もういい加減頭にきたわ!」
「落ち着けシンリー。せっかくここまで潜入出来たんだ、今は下手に荒事を立てないためにも堪えてくれ」
「でも……、ダーリンは悔しくないの!?」
「俺だってあいつらのことはムカついてるさ。でもやるべき時は必ず来る。今はそれまで力を温存しておこう」
一時の感情にみを任せ騒動を起こしては、せっかくここまで積み重ねてきたことが全て水の泡となってしまう。
奴らを見返す機会などこの先いくらでも現れるのだろうから、今はこの窮屈な生活を過ごす他ないのだ。
それに、能ある鷹は爪を隠すと言うしそっちの方がかっこいい気がするからな。
「はぁ……、ダーリンがそう言うなら私も我慢するわ」
「悪いなシンリー、苦労をかけるよ」
「いいのよ、でもいざやる時は存分に暴れさせてもらうからね!」
「はは……、程々にな」
息を巻くシンリーの肩を叩き宥めつつ、俺はその後も彼らに目をつけられながら訓練をこなす。
ちなみにもう1人の合格者であるレナリアという女性は、あいつらのように俺に絡んできたりはしない。
まぁたまに死んだ魚のような目で見られることはあるが。あまり好かれていないのは事実だろう。
そうして残りの訓練期間も経過し、ようやく1ヶ月が経過した。
「お前達、ここまでの訓練ご苦労であった。これで晴れてお前達は我々同様魔法師団の一員だ。これからは危険な任務にも就いてもらうから覚悟しておくように」
「「「はい!」」」
「ではこれから貴様らを能力別に班分けする訳だが、その前にこれから貴様らが仕える皇帝陛下に謁見することになっている。ついてこい」
事前情報もなくいきなり皇帝と面会すると言われ、俺達一同は驚きを隠せないでいた。
と言っても、魔人達は微動だにしていないのだが。
「おいまじかよ、皇帝陛下に会えるなんて夢じゃないか!?」
「落ち着けザリュー、考えてみれば俺達はこれまで過酷な訓練を耐え抜いてきたのだ。皇帝陛下に会えたとしても何もおかしいことは無いさ」
「た、確かに。俺達それだけ力をつけたもんな!」
「ああ、臆せず胸を張っていこう。皇帝陛下に我らが役立つ人材であるとアピールする絶好の機会だ」
ジードの言ってることには共感できる部分もあるのだが、正直その言動に実力が伴っていなくて笑えてくる。
なにせ彼らが辛いと思いながら行ってきた訓練を、俺達は必死に手を抜いてこなしてきたのだから。
「おい、黙っていろ。もう皇帝陛下の御前まですぐだ」
ジード達の話に耳を傾けていたら、いつの間にかもう謁見の間まで来ていたらしい。
部屋に入った俺達は、これまで訓練で受けた作法をもって流れるようにスムーズに整列し頭を垂れる。
1寸のずれもない見事な清冽が決まったところで、遂に皇帝が姿を現した。
頭を下げているので、容姿は分からないが、奥からカリスマ性溢れるオーラの様なものがビリビリと空気を伝い体に突き刺さってくる。
これが皇帝の迫力というわけか。
「皆の者、頭を上げよ」
皇帝の一言が静寂に包まれた謁見の間に響き渡る。
俺達はキールの合図でゆっくりと頭を上げた。
そして皇帝の顔をこの目で見た瞬間、俺はその顔に何か引っ掛かりを覚えたのだ。
(あれ?あの顔、どっかで見たことがある気がする……。どこで見たんだっけか?)
皇帝はメルフィナ王女と同じく煌びやかな銀髪を綺麗に切り揃えており、口元にはダンディーな髭が生えている。
あのじいさん顔にはどうにも見覚えがあるのだが、どこで見たのか思い出せない。
「よく来たの、新たな魔法師団の者達。そなたらの任務はわしやわしの家族を守り、この国をより発展させていくことにある大切な仕事じゃ」
「あ、あれが帝……」
「て、帝国最強の魔法使いか……」
ザリューとジードは皇帝のオーラに完全に飲み込まれ、無意識に言葉が零れている。
普通なら不敬罪に当たるであろう行動にキールも冷や汗を流しているが、皇帝はそんな2人を笑って許してくれた。
「ほっほっほ、わしが最強と呼ばれたのももう過去のことじゃよ。新たな世代はもう出てきておる」
皇帝はそんなことを言いながら、なぜか俺の方を見てニヤリと笑った。
なぜこのタイミングで俺を見るのだろうか。これじゃまるで俺が次の世代の魔法使い見たいじゃないか。
俺は帝国に敵対する存在だというのに、それを知ったら争いになるのだろうな。
「ともあれ、そなたらのこれからの活躍に期待しておるぞ」
「「「はっ!」」」
結局皇帝の狙いはよく分からないまま、彼は謁見の間を去っていった。
こうして皇帝との面会も終了し、いよいよ魔法師団としての任務が始まる。
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