5章 2. 伝説の竜は寿命が1万年

 獣人族達が捕らえた帝国の魔法使い達から情報を引き出す間、俺と魔人達はかつて竜王の暮らしていた「竜の島」へとやって来ていた。




「結構速く着いたなー」




「イナリのスピードがなかなかだったからな」




「うぅ、気持ち悪い……」




 イナリの背に乗って1時間程で、俺達は竜の島へと到着した。


 シンリーは海に非常に弱いらしく、船でもないのに船酔いで吐き気を催している。これから帝国に行くというのに大丈夫なのだろうか。




「「「ギャオオオォォォオオ!!」」」




「な、何だいきなり!?」




 シンリーの心配をしていると、突然島の奥からいくつもの咆哮が轟いてき、思わず驚きの声を上げてしまった。




「あー、こりゃ島のドラゴン達だな。普段は大人しいやつばっかなんだけどたぶん大将の体質に反応したんだろ」




「ふふっ、本当に面白い体質ですわね」




「マジかよ……、まだ姿も見えてないのに鋭い感性してるな。ってか面白いってなんだよ!」




 島のドラゴン達は俺の体質に反応したと言うが、その割にはドラゴンの姿など1匹も見えないし、咆哮も結構距離があるように感じた。


 だと言うのに俺の存在に気づけるとは、流石はドラゴンと言うべきだろう。


 それにしても、やはりシーラは口調に似合わず若干口が悪いな。




「早く行こー」




「そうだな、こんなところでちんたらしてたら日が暮れちまうよ」




「うぅ、待って、まだ気分が……」




 ドロシーとガンマは早く島の中へと行きたがっているが、シンリーが未だ体調が優れずしんどそうにしている。




「シンリーはライチの背に乗って移動しろよ。しばらく休んでた方が良さそうだしな」




 シンリー1人を置いていく訳にもいかないので、ライチを呼び出して運んでもらうことにした。


 空の空気でも吸っていればすぐに良くなるだろう。




「あ、ありがとうダーリン、ライチ……」




「ピィー!(お任せ下さい!)」




 シンリーはよろよろとしながらも、ライチの背に乗ると寝転ぶ。これで全員揃って移動出来そうだ。


 一安心した俺は改めて島を見渡してみると、この竜の島はゴツゴツとした岩が多く、草木がほとんどが無かった。


 島は高い壁で覆われており、所々に穴が空いている。あそこから島の内部へ入るようだ。




「大将、この穴を抜けたらドラゴンが待ち構えてるだろうから気をつけろよ!」




 穴を進みながらガンマがそんな忠告をしてきた。




「なんだよ、結構気性の荒いやつが多いのか?」




「いや、そういう訳じゃなくて……」




 なんて話をしていると、いつの間にか出口に到着してしまった。


 ガンマの話はまだ途中だったが、俺は島の内部がどうなっているのかの方が気になってしまい、思わず先走ってしまう。




「おぉー!ここが竜の島の内部、か……、え?」




「「「ギャオオオォォォオオ!」」」




「うおぉぉー!なんだよこいつら!?」




 穴を抜けた先に広がっていた光景は、見渡す限り色とりどりのドラゴン達だった。


 その全てが俺の方を向き、再び咆哮を轟かせると襲い掛かってきたのだ。




「はぁー、言わんこっちゃねぇ……」




「ふふっ、人気者ですわね。羨ましいですわ」




「笑ってないで助けてくれー!」




 四方八方ドラゴンに囲まれた俺は、気づけば全身がヨダレまみれとなりドラゴン達に引っ張りだこにされていた。


 こいつら無駄に力が強いから、気を抜くと大怪我をしそうで本当に怖い。




「クウー!(灯から離れてー!)」




「「「ギャオッ!?」」」




 そんな俺の窮地を救ってくれたのはクウだった。クウはモンスターボックスから飛び出してくると、ワープを使って俺をドラゴンの輪から引きずり出してくれたのだ。


 ドラゴン達は突然俺が居なくなったことに慌てふためいている。




「ふぅ、助かったぜクウ」




「クアッ!(灯は誰にも渡さないからね!)」




 クウは相手が同じドラゴン種だからか、ライバル視していて妙に気合が入っている。


 しかし一時的に離脱出来たとはいえ、こうもドラゴン達に囲まれてしまっては先へ進めない。


 竜王の暮らしていた場所とか伝説の竜とか、色々気になることがあるというのにどうしたものか。




「あなた達、下がりなさい!」




「えっ、誰の声?」




 ドラゴンの群れをどう切り抜けようかと悩んでいたところ、どこからか謎の声が響いてきた。


 仲間の声ではないし、かといってこの島に人がいるという話も聞いていない。


 ただその声のおかげか先程まで騒ぎ回っていたドラゴン達の鳴き声はピタリと止み、大人しくなった。




「この声はリツのだな」




「元気そうで何よりですわ」




「えっ!?ドラゴンが喋れんの!?」




「ああ、その辺も含めて色々と話を聞いてみればいいさ」




 伝説の竜リツは喋れるという事実に驚愕しながらも、俺達は大人しくなったドラゴン達の間を抜けて先へと進んだ。


 竜の島は巨大な岩の壁に囲まれた内側に、無数の竜が暮らしているようで、その中でも中央の洞穴にリツはいるらしい。


 その洞穴に足を踏み入れると、中は天井に大穴が空いているようで光が差し込んで眩くなっており、そしてその奥にリツの姿はあった。




「ようこそいらっしゃいました。4人の魔人達に、そして人間よ」




 伝説の竜リツは全長30m程の巨大な竜で、全身が純黒の金属のような鱗に覆われていた。


 クウのふわふわな体毛とは似ても似つかない真反対の存在である。




「えーっと、初めまして。俺は灯って言います」




「灯ですね。ここの竜達は普段大人しいのですが、あそこまで騒がしくなったのは久し振りです。あなたにも不思議な体質があるようですね」




「いきなり迷惑を掛けて申し訳ない……」




「謝る必要はありません。私も久し振りに彼のことを思い出せて嬉しかったですので」




 リツは何かに思いを馳せるように、遠くの方を眺めていた。ガンマ曰くリツは竜王と仲が良かったらしいから、竜王のことを思い出したのかもしれない。




「さて、自己紹介がまだでしたね。私は伝説の竜に名を連ねるタイムドラゴンです。私のことはどうかリツとお呼びください」




「分かったよ。それでさっきから気になってたんだけど何でリツは喋れるんだ?別にモンスターピアスの能力が機能しているとも思えないし」




 聞きたいことは色々あるが、取り敢えず率直に気になっていたことをぶつけてみた。


 モンスターピアスで聞こえる魔獣の声は、俺の頭に響いている感じで聞こえてくるものだが、リツの声はハッキリと耳から聞こえてくるのだ。


 だからなぜリツが人の言葉を話せるのか、非常に興味がある。




「私やそこにいる空間竜は寿命が1万年と言われているのです。私自身まだ5千年ほどしか生きていませんので正確なことは言えませんが、竜は千年生きると、この世の言葉を全て理解することが出来ると言われているのですよ」




「寿命が1万年……!」




「1万年と言っても、私達は死ねばまた幼竜となって蘇りますので、死ぬという概念すらないのですがね」




「不死身みたいなものじゃねぇか……!だから人の言葉も話せるのか」




 伝説の竜は寿命が1万年もあり、しかもその上で死んだら再び蘇生するとは、衝撃の事実だ。


 俺はせいぜい80ちょい生きれるくらいだから、そう考えたら桁が違いすぎる。




「えぇ、そういうことです。ちなみにそちらにいる空間竜はまだ100年も生きていませんので、言葉は話せないどころかまだまだ子供ですよ」




「おぉ、クウはまだ子供だったのか。いや、それでも俺より長生きしていることには変わりないのか。なんかショックだな……」




 ずっと子供だと思っていたクウが、自分よりも歳上だということが少しショックだった。


 まぁそれでもまだ子供だということに変わりはないらしいので、別にいいのだが。




「面白い方ですね。では、せっかくここまでいらして来てくれたことですし、その魔道具のことや魔人のことについてお話しましょうか」




「お、お願いします」




「そんな畏まらなくていいのですよ。私はただのドラゴンですから」




「ただのって……、まぁ分かったよ」




 ドラゴンだから表情はよく分からないが、若干笑っているように見えたリツは、こうして過去を語り始めた。

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