5章 3. 俺が今やるべきこと

 竜の島の内部で伝説の竜リツと出会った俺は、竜王のこと、魔道具のこと、クウのことを教えて貰えることとなった。




「さて、まずは何から話しましょうか……」




 リツは何から話を始めようか悩んでいる様子だった。


 だがそれもすぐにまとまったようで、ゆっくりと口を開く。




「竜王は、その名の通りこの島に生息する全ての竜を支配していたのです。もちろん私も含めて」




「ああ、その辺はシーラからも聞いたな」




「そうでしたか、ではもう少し掘り下げてみましょうか。彼の生きていた時代は魔獣狩りの横行していた時代でしてね、当然この島も格好の的だったのですよ」




 そう言ってリツは竜王の生きていた時代を語りだした。


 その時代は、魔法が発達しだしたことで人間が力を得だした時代らしく、その影響で魔獣狩りも横行したのだという。


 装備の素材、観賞用の標本、力自慢、魔獣を狩る理由ならいくらでもあったらしい。




「竜王はそんな時代を嘆き、世界そのものを憎むようになり、灯の持つ魔道具の開発と魔人の研究に没頭しだしたのです」




「魔道具や魔人の力で、世界に復讐しようとしたのか?」




「いえ、彼はそんな単純な人間ではありません。この世界を見限り、新たな世界を創りだそうとしたのです」




「世界を!?」




 リツの口から語られたのは、衝撃の内容だった。竜王は世界を変えるのではなく、世界そのものを創りだそうとしたのだという。


 そんなことが可能かどうかは分からないが、その発想に至る思考そのものがぶっ飛んでいたみたいだ。




「しかし、彼の研究は時間がかかりすぎたのです。魔道具を完成させ、魔人を生み出すのに成功した頃には、彼はもう年老いて歩くことすら叶わなくなっていました」




「そうだったのか……」




「はい、私と空間竜の力を合わせ時空を超え、魔人の力で世界を創造するという彼の願いは、あと一歩のところで叶わなかったのです」




 竜王の計画ではクウとリツの力を合わせ、別次元へと移動しそこで魔人によって世界を創造するという計画だったらしい。


 内容はぶっ飛びすぎているが、それを実現直前まで仕上げたのだから竜王とは恐ろしい人物だ。




「竜王は最後に魔人5人と私に1つずつ魔道具を託し、この世を去ったのです。私や魔人達が認めたら、その者を後継者として迎え、自分のやり残したことを達成してもらおうと」




「じゃあリツは俺に世界を創造してほしいのか?」




「いえ、それはあくまで竜王の願いであり、それを灯が背負う必要はありません。魔人に認められ魔道具を託されようとも、それをどう使うかはあなた次第ですよ」




 俺はてっきり竜王の跡を継いで、世界を創造してほしいと頼まれるのかと身構えていたので拍子抜けである。


 しかし、過去と現在では人の生き方や価値観が違うとはいえ、帝国という厄介な存在がいるというのも事実。


 もし今後奴らが俺の目的の弊害となるのなら、竜王の跡を継いで世界を創造するのもアリかもしれない。


 ただ俺の目的であるクウの安心して暮らせる場所は、この竜の島が答えなんじゃないかと思う気持ちもあるので、世界を創造する可能性は低いが。




「今は先のことはあまり深く考えず、灯の好きなように生きるべきです。ただ、もし世界を創造する気になった時のために、最後の魔人を探しておくことをオススメしますよ。あの魔人は生半可な気持ちじゃ見つかりませんから」




「最後の魔人か」




「えぇ、もしその人からも魔道具を託されたのなら、再び私の元へ訪れなさい。私から最後の魔道具をあなたに預けます」




「分かった。頭の片隅に入れておくよ」




 先のことは分からない。もしかしたら俺は世界を創造する決断をするかもしれないし、案外元の世界へ帰ってるかもしれない。


 どういう選択をするかなんて分からないのだから、俺は今出来ることを精一杯するしかない。


 帝国に潜入し、囚われている獣人族達の情報を入手する。


 これが、俺が今やるべきことだ。




「久し振りに竜王と同じ雰囲気を持つ人と話せて楽しかったです。灯のことは個人的にも気に入りましたので、またいつでも遊びにいらして下さいね」




「ああ、もちろんだ」




「それと空間竜……、いえ今はクウでしたか」




「クウ?(なに?)」




「灯のことを守ってあげて下さいね」




「クウー!(うん!任せてよ!)」




 同じ伝説の竜同士、何か通じ合うものがあるのだろう。クウとリツは言葉を交わした後、数秒の間見つめ合ってる。


 こうして竜の島でリツから色々と過去の話を聞いた俺達は、獣人族の島へと戻るのだった。




「もう少しゆっくりしてなくて良かったの?」




「ああ、これが今生の別れってわけでもないしな。また次に会った時にゆっくり話すよ」




 帰り道、ドロシーは俺とリツの話していた時間が思ったよりも短かったことを心配してくれた。


 彼女はこういう時意外と気が利くが、その心配はご無用だ。今は帝国へ行くことの方が優先である。
























 ――
























 ナーシサス諸島の中心の島へ戻ってくると、ラビアとネイアが出迎えてくれた。


 彼女達の表情は晴れやかで、その様子から帝国の連中から情報を引き出すことには成功したらしい。




「お帰りなさい、灯様に魔人様方」




「おう、それでそっちの情報収集はどうだった?顔を見た感じだと上手くいったみたいだが」




「はい、そのことで族長達がお待ちですので、どうぞこちらへ」




 俺が質問すると、ラビアとネイアの笑みはより一層増えた。


 どうやら相当有力な情報が手に入ったのだろう。


 今後の帝国での活動にも関わってくるので、楽しみにしながら会議室へと戻ってきた。




「おぉ!よくぞ戻られた灯殿!」




「ああ、前置きはいいから早速そっちで得た情報を教えてくれるか?」




 族長2人は会議室に入ってきた俺達を満面の笑みで出迎えてくれた。


 その様子からも、相当有力な情報が手に入ったことが伺える。




「うむ、ます囚われている我らの同胞だがな、なんと今は手厚い待遇でもてなされているようなのじゃ!」




「これまで歴史の中で何度も戦争を繰り返してきたが、とうとう人間と和解する日が来たのかもしれんな」




「……は?」




 俺は最初、この2人が何を言っているのか分からなかった。


 いや内容は理解しているのだが、それを本気で言っている意味が分からなかったのだ。


 こいつらはあれだけ人間に苦渋を飲まされてきたというのに、どうしてその結論に至ったのだろうか。


 彼らの考えは到底理解出来なかったが、俺の口から出る言葉はただ一言。




「馬鹿かお前ら!?」




「なっ!馬鹿とはなんじゃ!」




「いや、これは俺も大将に同感だぜ。はぁ、こいつらに情報収集を任せた俺が間違ってた……」




 犬人族の長ガロンは顔を真っ赤にして反論してくるが、ガンマが同意したことで押し黙ってしまった。


 他の魔人達は呆れて声も出ない様子だ。




「取り敢えずあんたら、どうやってその情報聞き出したんだ?」




「そ、それは、我ら獣人族に伝わる最大の罰を与えたのだが……」




「どんなのだよ?」




「奴らを鎖で縛り、目の前で島の再高級食材を貪り食うというものだ。もちろん奴らには水しか与えておらん!これをやられればどんな屈強な獣人族でもすぐに口を割るのでな!」




「ぬるすぎるわ!」




 獣人族の伝統だか何だか知らないが、やることがしょぼ過ぎて怒りすら通り越して呆れてしまった。


 獣人族にとってはそれをやられたら辛いのかもしれないが、人間にここの食材の価値なんて分からないし、まして奴らは捕まってまだ2日目だ。目の前で食事をされても羨ましくもなんともない。




「それで聞き出した情報がそれか?明らかに舐められてるじゃねーかよ」




「ったく、わざわざ俺達を奴隷にするっつって攻めてきた奴らが、そんな優しいわけねーだろうが!」




 俺の反論にガンマも加わることで、獣人族達はグウの音も出ず押し負けてしまう。


 こんなだから獣人族は人間に負けるのだと、俺は心の中で納得した。




「はぁ、情報収集も俺らがやるよ……」




「お前らよく覚えとけよ!これが本当の拷問だからな!」




 こうして、ガックリと肩を落とした俺と妙にやる気に充ちているガンマを先頭に、帝国の魔法使いが囚われている牢へと向かうのだった。


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