5章 1. 伝説の竜リツ

 騎士団が王国へ帰った後、ナーシサス諸島に残った俺達は、会議室に集合し今後の計画を練っていた。


 現在決まっていることは、俺が帝国へ潜入し囚われている獣人族達の情報を集めること。行き方や同行するメンバー等は決まってはいない。




「さて、クウ達はモンスターボックスに入れて連れていくとして、あとは誰がついてくるんだ?」




「行く」




「当然私もついてくわ!」




 真っ先に名乗りを上げたのは、俺との付き合いももうだいぶ長くなるドロシーとシンリーだ。彼女達がいるなら心強い。


 アホとはいえ、ドロシーは帝国に居たこともあるしな。




「俺もついてくぜ大将」




「わたくしも同行させていただきますわ」




「ガンマとシーラも来てくれるのか。助かるよ」




 ガンマは獣人族のためならついてくるだろうと思っていたが、シーラまで来てくれるというのは少し意外だった。


 彼女は別に獣人族に対し深い関係がある訳でもないので、一緒に行く理由もないと言うのに。




「ふふ、わたくしまでついてくるのが不思議って顔をしてますわね」




「えっ?ま、まあな。シーラにはあまり関わりの深い話じゃないし」




 シーラに思っていたことを読まれ驚いたが、そうなってしまったらもう素直に話すだけだ。




「別に特別な理由は無いですわよ。ただわたくしの託した魔道具を持つ者が今後どうしていくのか、それを見届けたいのですわ」




「なるほどな、まぁなんにしてもシーラがついてきてくれるのは大歓迎だよ」




「微力ながらお力添えさせていただきますわ」




 シーラにはシーラなりの目論見があるらしいが、ともかく魔人が4人もついてきてくれるのは非常に心強い。


 これなら少数で帝国へ乗り込んでも、どうにかなるだろう。




「わ、私も一緒に行きたいです!」




 帝国へ行くメンバーがほぼ決まったかに思えたところで、同行に名乗りを上げるものがいた。ラビアである。




「何を言ってるんだ!獣人族が行けば目立つからだめだという話になっただろうが!」




「でも!灯様達は私達のために頑張るっていうのに、何もしないでなんていられないです!」




「ぐっ、た、確かにそれはそうだが……!」




 ラビアの発言に異を唱えたジェイだったが、彼女の尤もな反論に逆に言いくるめられてしまった。


 確かに彼らの立場からすれば、他人が自分のことを色々としているのに自分が何もしないというのは、辛いものがあるのだろう。


 だが、残念ながらそれは気持ちの問題であって、実際に出来るかどうかとは別問題である。




「灯様!どうか私も同行させて下さい!」




「悪いけどラビア達が同行してくるのは足手まといだ。獣人族が帝国へ行くとどうなるかなんて、ガンマと行った時に嫌というほど学んだはずだろ」




 獣人族達は以前も奴隷となった仲間を救うために帝国へ乗り込んだことがあるが、結局帝国に追いやられ王国へ逃げたのだ。


 あの時はガンマがいたから逃げ切れたが、もし獣人族だけだったら全員死んでいたか奴隷になっていただろう。


 獣人族は遠距離攻撃が得意な帝国の魔法使い達とは相性が悪い。今帝国へ乗り込むのは無謀だろう。




「でも、じっとしてなんかいられないです!」




「別に俺達だって今回獣人族全員を助け出そうとしている訳じゃない。まずは帝国の内情を知るために少数で乗り込むんだ。本格的に獣人族を救うことになったら必ず人手は必要になる。その時までラビア達は力を温存していてくれ」




「わ、分かりました……」




 ラビアはまだ不満がありそうな雰囲気を出しつつも渋々了承してくれた。


 彼女には随分ときつい言い方をしてしまったが、ここではっきりと告げておかないと後々面倒なことになりかねない。


 彼女達の安全の為にも、ここは身を引いてもらおう。




「ふむ、ではわしらは灯殿達が出発の準備を済ませるまでの間に、捕らえた帝国の連中から情報を引き出すとするかな」




「それは助かるよ。今はちょっとでも帝国の情報が欲しいところだからな」




 犬人族の長ガロンは淡々としながらも、薄い笑みを浮かべながら指の骨を鳴らしだした。


 散々帝国の奴らには苦渋を飲まされてきたのだから、情報を引き出すためとはいえ、そういうことをするのには多少なりとも心躍るのだろう。




「うむ、しかしそれには少々時間が掛かる。それまでの間灯殿達は「竜の島」へ行ってみてはどうだね?」




「竜の島?」




「ああ、このナーシサス諸島の奥地には竜の島と呼ばれる、かつて竜王が暮らしていた島があるのだよ」




「え!?竜王ってこの近くに暮らしてたの!?」




 唐突にジェイの口から、驚きの情報が飛び出してきた。


 ここへ来てまさか竜王と呼ばれる人物の暮らしていた島が判明するとは。


 突然のビッグニュースに俺は驚きを隠せないでいた。




「うむ、我々も滅多に踏み入ることは無いが、そこには今でも伝説の竜が生息しているらしい。詳しいことはそちらの魔人方が知っているだろうがな」




「へぇー、それは興味をそそられるな」




「我々が帝国の情報は引き出しておくから、灯殿達はそちらへ行ってくるといい。空間竜を従えた灯殿なら、何かしらの収穫があるだろう」




「そうさせてもらうよ」




 オレはジェイに促されるまま、竜の島という場所へ向かうことにした。


 ちなみに俺はもうあの長2人への敬語はやめている。昨夜のあんな冤罪じみた親バカ行為をされては、敬う気にもなれないので。




















 ――
























 会議室を出た俺と魔人達は、島の浜辺へとやって来ていた。




「えーっと、確か北西に行けば着くんだったよな?」




「わたくし達がいますから迷う心配はないですわよ」




「そうだったな。竜王の暮らしてた場所なら、お前らの暮らしてた場所でもあるわけか」




 島の場所の説明が曖昧だったのでちょっと不安だったが、出身者が4人もいるので迷うはずも無いだろう。




「よし、それじゃあ竜の島まで頼むぞイナリ!」




 俺はモンスターボックスからイナリを呼び出した。


 ナーシサス諸島は島と島の間はそこまで離れていないとはいえ、竜の島は端の端らしいので移動速度の速いイナリに乗って行くことにする。




「ボアァァァ!(任せろ!)」




 全員が背に乗ると、イナリは勢いよく波を割き海を進みだした。


 船で行けば半日はかかると族長達は言っていたが、これなら1時間もしないうちに辿り着くだろう。




「はぁー、この辺も懐かしいわねー」




「俺はずっとこの辺で暮らしてたからあんまりそんな気はしねぇな」




「覚えてない」




 シンリーはこの近海に覚えがあるようで懐かしんでおり、ドロシーは相変わらず何も覚えていなかった。


 ガンマはずっと獣人族達と暮らしていたので、特にこれといった感情は湧かないようだ。




「シーラもこの辺に来るのは久し振りじゃないのか?」




「えぇ、昔の記憶が蘇ってきますわ。リツ、元気にしてるといいのですが」




「リツ?」




「ああ、大将は知らなかったか。竜王はその名の通り竜に懐かれるやつでな、その中でも空間竜と対となる時間竜のリツと仲が良かったんだよ」




「へぇー、クウの対となる竜か……」




 伝説のドラゴンにして自由自在に空間を操る竜、ディメンションドラゴンのクウ。それと対極に位置する時間竜リツか、是非会ってみたいものだ。




「リツは竜王のことが大好きでしたからね。ちょうど今の貴方様とクウ様の関係のように。ですから竜王に似ておられる貴方様もきっと気に入られますわ」




「ははっ、だといいな」




 まだ見ぬ伝説の竜リツと会うのを楽しみにしながら、俺達は竜の島へと向かうのだった。


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