4章 28. また共闘といこうぜ
「貴方様、皆さんの居場所はこの先でよろしいのですか?」
「ああ、この先にクウ達の反応がある!このまま真っ直ぐ頼むぞイナリ!」
「ボアァ!(了解だ!)」
シルバー・シーゲイツのイナリを仲間にした俺は現在、海の魔人と魚人族と共に地上を目指している。
イナリは泳ぐ速さならこの中なら2番目に速いので、全員乗って移動中だ。
恐らく1番速いのは海の魔人なのだろうが、彼女に聞いても笑って誤魔化されてしまうので、真相は分からない。
「この先は獣人族の島じゃな」
「ということはもう島は襲われているか、貴方様のお仲間様が備えて来ているということですかね?」
「恐らくもう戦闘は始まってるよ。さっきからクウとライチの動き方が妙に慌ただしいからな」
「なに!?ならば急がねばならぬな!」
ゲドじいさんは戦うと聞いて相当気合が入ってる様子だ。この中で1番テンションが高い。
人間に対しては思うことが沢山あるのだろうし、同朋に対してはずっと仲間意識は感じていたのだろう。
俺が協力することで少しでも彼らの仲が良くなってくれれば嬉しい。
「よし!さっさと魔法使い共なんか追い払って――」
しかし、そう俺が喋りかけた瞬間、近海で何かが爆発したような衝撃と振動が伝わってきたのだ。
何が起こったかは分からないが、戦いが相当激化しているのはビリビリと伝わってくる。
「今のは……、何か強大な攻撃が海面直撃したようですわ」
「海面からここまで衝撃が響いてきたってことか?」
「えぇ、我々魔人並に強力な一撃でした」
「そりゃ恐ろしいな。出来れば身内の攻撃であって欲しいと願うばかりだが」
「恐らくは敵側ですわね」
魔人並の攻撃と海の魔人は表現したので、身内の誰かの攻撃であって欲しいと願うが、そうそううまい話がある訳でもない。
恐らくあの時造ってたあの船の一撃だろうが、これは戦闘はかなり切迫していそうだ。
「貴方様、海面に出てからはどういう行動を取りますか?」
「取り敢えず俺を地上に上げてくれ。俺は海中じゃあまり役に立たないし、あんたから貰った魔道具を試してみたいからな」
「かしこまりましたわ」
「その後皆は海中から敵にちょっかいをかけるような攻撃をしてくれ。ただもしかしたら船の中にまだ子供達が囚われている可能性もあるから、やり過ぎは厳禁な」
「うむ。了解じゃ」
皆にざっくりとした作戦を指示したところで、海中からでもだんだんと陽の光が見えてきた。
海もだいぶ浅くなってきたし、もう戦場はすぐ側だろう。
「この先に船が2隻見えますわ。もう目の前ですわね」
「本当か?よーし、一気に距離を詰めるぞ!」
「ボアァ!(任せてくれ!)」
まだ俺は何も見えていないが、海の魔人は既に船を2隻目視したらしい。
もう戦闘は目前だから気合を入れ直しておこう。
そう思った時、海の魔人が突然妙なことを言い出した。
「では貴方様は先行して戦闘に参加して下さい。わたくし達もすぐに追いつきますので」
「は?先にってどういうこと――」
「それじゃあ行ってらっしゃいませ!」
「どわあああぁぁぁ!」
どういう意味か聞こうとしたが、それは身をもって理解した。
海の魔人は人1人が通れる程度の細い海流の渦を作り出し、そこに俺は放り込まれたのだ。
渦の中はウォータースライダーのような感覚だが、速さはあれの倍以上でめちゃくちゃ怖い。
渦が強過ぎて景色も全く分からず、今自分がどこにいるのかも分からないでいる。
と、そんなにことを考えていたら俺の体はいつの間にか海上に放り出されていた。
「うわあああぁぁぁ!」
突然青空の元に身を投げ出され、内蔵がふわっとするあの気持ち悪い感覚を味わったかと思うと、次の瞬間には真っ逆さまに落ちてちく。その先にはぼんやりと見覚えのある船があった。
目的地は完璧なのだが、やり方がある少々乱暴なところを見ると、海の魔人も立派に魔人であることがよく分かる。
「ふぅ、随分と荒っぽい登場だが、何とか間に合ったかな」
「灯、君はいつも驚かされることばっかりするね……」
マリスは俺の登場に苦笑いを隠せないでいた。魔法使い達に囲まれて披露の色は濃いが、それでもまだまだ余裕はありそうだ。
「なんだこいつは?わしの船の上で随分と生意気な小僧じゃな!」
目の前にいる到底魔法使いとは思えない筋骨隆々の男は、顔に青筋を浮かべながら拳を突き出してくる。
「灯避けて!」
「いや平気さ。クウ、来い!」
「ク、クウー!(あ、灯―!)」
空を飛んで魔法を防いでいるクウに俺はそう呼びかける。
その声を聞いてクウも俺に気づいたようで、歓喜の声を上げていた。
「今更遅いわ!」
「へっ、それはどうかな?」
クウはまだ上空にいるのに、男の拳はもう俺をとらえようと迫っていた。
だが、クウには空間魔法がある。クウはワープを使って一瞬で俺の伸ばす手の先に出現したのだった。
クウも両手を伸ばしてきたので、その手を俺は右手でがっちりと掴む。
そう、あの海の魔人から貰った魔道具の小手で。
「うおぉぉぉ!」
「クウー!」
「な、何だ!?」
クウと俺の手が触れ合った瞬間、眩い程の白い光が俺達を覆い隠す。その光に怯んだのか、男は拳を途中で止め引っ込めた。
その発光にその場にいる全員が瞠目する中、やがて光は収まっていき俺達は姿を現す。
「おお、こうなるのか」
「え……、灯?」
「何不思議そうな顔してんだよマリス」
「いや、だって……」
マリスがそんな不思議そうな理由をする原因は、俺の右腕だろう。
今の俺の右腕は肩までびっしりと白い毛が生え、指先は鋭い爪へと変貌している。そして、肩甲骨辺りからは3枚の翼が生えていたのだ。
その姿はまるで、右腕と肩のみクウが混じっているような、歪な格好である。
「これがモンスターガントレットの力か……。なるほど、こりゃすげぇな」
自分の体の奥底から、力が溢れ出てくるのをはっきりと感じる。
これがモンスターガントレットの能力「融合」だ。
モンスターガントレットは、魔獣1体の能力を右手に宿らせることができ、魔力による身体能力の向上も行える優れものである。
ただし、他の魔道具と同様に魔獣と信頼し合っていなければ使えないという欠点はあるが。
『ク、クウ!?(何これ!?灯が凄く近くにいる気がする!)』
「そりゃそうさ。俺達は融合したんだからな」
『クウー!(灯と一緒になったの!?すごーい!)』
クウは俺と融合した感覚が面白い様でその新感覚にえらく興奮している様子だ。俺も脳内でクウの声が響いていて不思議な感じがする。
だが、別に嫌悪感は一切ない。クウと一体化したことが自然のことのように体に馴染む。
今なら魔力がどういうものなのか、何となく分かる気がする。
「姿が変わったところで、何の意味も――ぐほっ!」
「うん、クウの能力も問題なく使えるな」
筋骨隆々の男が何か言いながら再び殴り掛かってきたので、クウのワープで自分の腹に返してやった。
まさか自分の拳に攻撃されるとは思っていなかった男は、顔を真っ青に染めて蹲ってしまう。
「お前は矛と盾なら矛の方が強いみたいだな」
「な、ごほっ!な、舐めおって……!」
俺の余裕な態度が気に入らないのか、男は青から赤に顔色を変え、目を血走らせて睨みつけてくる。
「灯にはいつも驚かされるけど、今回ばかりはありがたいね」
「へへっ、また共闘といこうぜマリス!」
マリスと一緒に戦うのは、竜の蹄と戦った時以来だから妙にテンションが上がる。
しかも今回はクウの力を借りてはいるが自分自身が戦うのだ。
不謹慎ではあるが、ちょっとワクワクしてる自分がいる。
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