4章 29. 新たな力で奴らをねじ伏せる
クウと融合した俺は、右腕が白い毛で覆われ指先には鋭い爪が伸びている。
そして右肩甲骨からは上着を突破って3枚の翼が生えていた。
「お前達、あの化け物を仕留めろ!」
「「「はっ!」」」
あの積み荷を積んでいたリーダーが部下に指示を出して俺に魔法の集中砲火を浴びせてくる。
だが、今の俺ならそんな魔法避けるまでもない。
「甘いな」
俺が軽く右手を振るうと、全ての魔法はワープを通って放った自分自身にカウンターを食らわせる。
俺に魔法を放った魔法使い達は、軒並み自分の魔法によって地に伏せることとなった。
「しかし化け物とは酷いな。ちょっと毛と羽が生えただけだろうが」
「いや、それは化け物要素としては十分なんじゃないかな……」
「おいおい、マリスまでひでーじゃん!」
化け物と言われて少し頭にきたので文句を言ったら、まさかのマリスまで敵に同意してしまった。
もしかして俺が思ってる以上に、外見は化け物じみているのだろうか。
「調子に乗るでないぞ!」
「うわっと!」
そんなふうにマリスと会話をしていたら、筋骨隆々の男自分の船の損傷も無視して拳を振り下ろしてきた。
俺はそれをギリギリで避けたのだが、案の定その拳は彼らの船の床を砕く。
「その余裕な態度、すぐにへし折ってやろう!」
「へっ、かかってこいよマッチョマン」
俺はボクサーのようにサイドステップを踏み、手首を手前に何度も引いて相手を挑発する。
そんな俺の態度にマッチョマンはより一層頭日を昇らせた。
「おいアンドレ!お前はわしの後ろから援護せい!」
「り、了解です!グロウアップアーマー!」
積み荷のリーダーが補助魔法のようなものを唱えた瞬間、マッチョマンは真っ赤な湯気のようなオーラを纏いだした。
あれで身体能力を強化させたのだろう。
「おらよ!よそ見してる暇はねぇぞ!」
「ぐっ、すばしっこい奴だ……!」
マリスはあのかつての敵、黄ラインの男と戦っているようだ。
お互い幹部クラスの魔法使いを相手にしてるため、助力は難しい。
「灯!僕はこいつをやるからそっちは任せたよ!」
「おう、任せとけ!」
マリスとこうして背中合わせで戦うのは、何度目になるだろうか。
マリス達と別れてからそれなりの時間が経過した筈なのに、昨日のことのようにあの戦いの数々が脳裏を駆ける。
「やるぞクウ!俺達の新たな力で奴らをねじ伏せる!」
『クウ!(うん!)」
脳内にクウの声を響かせながら、俺はマッチョマン目掛け駆け出した。
クウのワープは今まで防御をメインに使ってきたが、俺が1番最初に魔法使いと戦った時は攻めにも使ったことがあるのだ。
あの時は何ふり構わずという感じで戦っていたが、今の俺ならこの力を100%使いこなせる自信がある。
「いい覚悟だ小僧!捻り潰してやる!」
「嫌だね」
マッチョマンは強化された身体能力で俺よりも更に速く前に出て、気がついた時には目の前に現れた。
そしてそのまま高速の拳を突き出してくる。
だが、俺にはその拳が見えていたのでワープで逸らし、回避行動を必要としない最短距離で、右腕で攻めに出た。
「ちっ!」
マッチョマンはそんな俺の攻撃を煩わしく思ったのか、左腕でガードの構えをとる。
だが、そんなものは俺の前では何の意味もない。
「甘いな」
「ごふっ!な、なぜ……!?」
マッチョマンの顔を狙っていたはずの俺の右腕は、気づけば奴の横腹を捉えていたのだ。
「クウのワープはな、本来は攻撃面でこそその本領を発揮できるんだよ」
『クアッ!(そうだそうだ!)』
体が震える。
でも別に怖いからとかそういう意味ではない。
クウと一緒ならなんでも出来ると、そんな気持ちが湧き上がってくるのだ。
これが、武者震いという奴だろう。
「やはり空間魔法のインターバルが短過ぎる。これが伝説の竜の力か……!」
「何が伝説じゃ、そんなものわしの拳で叩き潰してやろう!」
積み荷のリーダーは空間魔法のレベルの高さに驚愕している様子だ。どうせあっちの黄ラインの男から何か聞いたのだろう。
対してめのまえのマッチョマンは、だいぶ苛立ちが溜まってきており、血管がブチ切れそうな程浮き出ている。
もういい歳みたいなんだし、高血圧で倒れるのだけはやめてくれよ。
「うぉら!」
「おっと、そら!」
そこからは俺達とマッチョマンの殴り合いがヒートアップしていく。
と言っても基本的に奴の攻撃は全てそらされ、反対に俺の攻撃は全て意表を突いて全て命中している。
だが、奴の耐久性が想像以上に高かったのか、なかなか致命傷には至れない。
「ふん、所詮は小僧ということじゃな。ぬるい攻撃じゃ!」
「お前が硬すぎるんだよ!」
戦闘に進展はなく膠着状態になってきたなと思っていた瞬間、突然マッチョマンが俺から距離を取り出した。
「ふぅ、このままじゃジリ貧じゃな」
「へっ、ならとっとと国に帰れよ」
「そんな訳にはいかぬよ。わしはここに奴隷を捕まえに来たのじゃからな」
「クズが……!」
マッチョマンは若干息を切らしながらも、未だにおのれの目的を達成させるつもりでいる。
俺はその言葉が頭にきて、つい無鉄砲に真っ直ぐ突っ込んでしまった。
「若いのう」
まだ俺達とマッチョマンとの間には距離があるというのに、奴は拳を突き出してきた。
この距離なら当たるはずもないので俺はワープを使わずにまっすぐ突き進む。
だが、次の瞬間には俺の視界は上下逆転し、宙に身を浮かせていたのだった。
「ごふっ!な、なぜ……」
「ほっほっほ!無鉄砲は勇気ではないぞ!」
地面に落ちて横たわっている俺に、マッチョマンは高笑いを上げながら詰め寄ってくる。
俺は顔面に顔面に何かをくらったらしく、痛みでまだ立ち上がれない。
あの筋肉から奴は近接戦が得意なんだと思っていたが、それは俺の勘違いだった。
奴も立派に魔法使いということだろう。
『ク、クウ!?(灯大丈夫!?)』
「ああ、ちょっと油断しただけだよ。問題ないさ」
マッチョマンはまたある程度距離をあけると拳を突き出してきた。
俺は痛む体に鞭を打ち、地面を転がることでどうにか避ける。
奴の拳は軌道上には何も見えないが、やはり拳を飛ばしているらしい。
俺の避けた先がボロボロに砕け散っているのだが、その様子が奴が最初に床を砕いたのと酷使していた。
「まだまだいくぞぉ!」
「うおっと」
マッチョマンはその後も連続で拳を飛ばしてくるが、どうにか体制を建て直した俺は、身を捻り屈み飛びギリギリで避ける。
来るのは分かっていても何も見えないので、ワープが成功しているかも分からないから避けるしかないのだ。
だが、その回避にも慣れてきた俺は、再びワープを使って攻撃にでる。
「馬鹿が、いい加減こっちも慣れてきておるわ!」
「むっ!」
しかし俺達のワープ攻撃も奴には既に見切られていたようで、俺の不意打ちの拳をしっかりと視野に入れて掴もうとしてきた。
「まだだ!」
だが、俺はそこからワープを重ねがけすることで更に起動を変え、奴の向いている逆側に拳をだし後ろから強襲する。
「がっ!ま、まだこんな小細工を……!」
「へっ、ワープは1回だけなんて誰が決めたんだよ?」
ワープで飛ばした拳をワープで更に飛ばすことで、不意打ちをお見舞した。
ようやく良い一撃が入ったようで、マッチョマンは血反吐を吐いて片膝をつく。
「空間魔法を使いこなしている……!」
「当然だろ、俺はクウとの付き合いが1番長いんだからな」
『クウー!(そうだそうだー!)』
積み荷のリーダーは俺達の戦い方に目を見開いている。
一瞬危ない時もあったが、このままいけば押し切れそうだ。
怒りで顔を歪ませるマッチョマンとは対照的に俺は薄く笑みを浮かべた。
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