4章 5. ようやく見つけた手がかり
船着場などで情報収集を終えた俺達は、一旦得た情報を整理する為宿へと戻ってきた。
「さて、それじゃ集めた情報を整理するか」
「うん」
「色々聞けたわね!」
港町の人々は基本皆気のいい人ばかりで、話しかけても気安く返してくれる。
元の世界であんなことしてたら、ほとんど無視される気がするから凄いものだ。
「まず大前提としてだけど、密輸については当然誰も教えてくれなかったな」
「まぁ当たり前よね。悪いことしてるんだから、あったばかりの人間にそうそう簡単に情報を明かすわけもないわ」
「ああ、ただ真っ当な取引についてなら色々と聞けた。基本商品の取引は商会が行っていて、港だからってこの町で大量にばらまいている訳じゃない」
帝国からの品々は珍しいので、ほとんどの物は王都へ流れる。
この町で売られているものは極僅からしい。
ただその代わり港だからか、海鮮系の食料は豊富でドロシーは終始食い歩きをしていたが。
「表の取り引きの場所や手法はだいたい分かった。後はそこから逆に人気のない所を探していけば、運が良ければ密輸の取り引き現場が見たからかもしれないな」
「あー、なるほど。得た情報を逆手にとるのね」
「そういうことだ。上手くいく保証はないけどな」
密輸に関して、正確な情報を手に入れることは出来なかった。
だが、得た情報を頼りに、まだ探っていないところを調べることは出来る。
ここからは魔獣たちにも協力してもらい総出で事に当たれば、何かしらきっかけは見つかるはずだ。
「もしそれがダメだった場合はどうするの?」
「その場合はもう仕方ないから、街の入口全てを見張って、人攫いっぽい奴らが通らないか見張っておくしかないな」
最悪の場合はその手段に出るが、見逃した時はもう取り返しがつかなくなるので、その前に出来るだけのことはしておくという訳だ。
「よし、じゃあ今夜から早速行動開始だ!」
「分かった」
「はーい」
こうして宿で簡単に打ち合わせを済ませた俺達は、夜までの間しばしの休息をとることにした。
――
夜、夕食も済ませ本来なら寝る時間であるこの時に俺達は行動を開始した。
「プルム、ライチ出てきてくれ!」
「!」
「ピイィー!」
俺はまず、モンスターボックスからプルムとライチを呼び出した。
プルムは現在80体ほどに体を分裂出来るので、俺のモンスターリングが能力と合わせて、町中を見張るという作戦だ。
もしプルムが何か怪しいものを発見したら、小刻みに震えることでそれを知らせることにしている。
「じゃあ頼んだぞプルム」
「!(任せて!)」
プルムは俺の作戦通り体を分裂させると、元気よく飛び出して行った。
ただプルムは足はかなり遅いので、遠くへはライチに運んでもらう。
夜ならライチの真っ黒な羽毛は目立たないし、速度もかなり速いのでプルムをあっという間に町中へ配置させることが出来る。
「ライチもプルムを運ぶのを任せたぞ!」
「ピイッ!(了解です!)」
ライチはプルムを数匹背に乗せると、天高く舞い上がり羽ばたいて行った。
やはりあの黒い羽毛は闇夜によく溶け込むので、俺もモンスターリングがなければ一瞬で姿を見失ってしまうだろう。
「私達はこれからどうするの?」
「俺達は一応港へ向かってみよう。朝や昼間と比べて何か変かが出ているかもしれないからな」
「また色々食べていいの?」
「残念ながら夜に出店は出てねーよ。っていうかドロシーのせいで金の減りが早すぎるんだから少しは自重してくれ!」
「ぶー、分かったー」
ドロシーはまた食べ歩きが出来ると思っていたようで、少し不機嫌になりながらも渋々了承してくれた。
というかいい加減ドロシーの食費で金が尽きるのも時間の問題なのだから、自分で狩りをしてきてほしい。
「2人とも、そろそろ行くぞ!」
「うん」
「はーい」
夜中の町を俺達は駆け出した。目指す場所は貿易港。
未だ密輸に関して何の情報も得れていないが、魔獣ハンターや人攫いなどがいるのだから、必ずどこかに存在するはずだ。
子供達が連れ去られる前に、何としてもそれを見つけ出さなければ。
「わーお、朝とは違って随分と静かね」
港へ到着しての第1声がシンリーのそれだった。
実際朝の慌ただしい喧騒比べたら物音1つ無く、不気味なほど静まり返っている。
「人影も無し」
ドロシーも周囲を見渡すが、特に誰かがいる訳でもなかった。
感覚の鋭い魔人が言うのだから間違いは無い。
ドロシーはアホだから帝国に捕まった経験があるが、平常時ならそんなヘマは100%ありえないのだ。
港の人間は、夜は酒場で飲んでいるか寝ているかの2択なのだろう。
「やっぱ堂々と港で取り引きをする訳もないか。となると酒場あたりが怪しいか?」
裏の取り引きが行われていそうな場所に目星を付けていると、モンスターリングに映っているプルムの分裂体に反応があった。
「おっ、早速プルムから連絡が入ったぞ!」
「速いわね!」
「場所は?」
「えーっと、ここから真反対の港の裏路地だ。行くぞ!」
まさか何の捻りもなく裏路地とかで取り引きをする訳はないと思っていたが、まさかのそのまんまだったことに若干驚きつつも現場へ急ぐ。
俺達は港の西側を見ていたが、反応があったのは東側だった。
真反対で少し距離はあるが、走ればそんなに遠くはない。
ようやく見つけた手がかりなのだから、絶対に逃がすまいと俺達は全速力で向かう。
「あれ?ダーリンあの船見覚えあるわよ!」
「あれは確か、最初に話しかけた帝国船じゃねーか」
辿り着いた場所は、俺達が最初に話しかけた真っ赤な帝国船のすぐそばだった。
「ご主人様、あっちに人がいる」
「ああ、プルムの反応もあそこからする。ここからは慎重に行くぞ」
ドロシーの発見した反応と、プルムの居場所が見事にマッチした。
どうやらまだ取り引きは行われているようだ。
俺達はそいつらにバレないように、シンリーにツルを伸ばしてもらい静かに屋根の上に移動した。
そして上からその現場を見下ろすと、見覚えのある2つの人影が目に入ってきた。
「えぇ、ようやく上手くいきましたよ」
「そうか、かなり時間は掛かったようだが、これだけの量のガキ共がいるならあの方も納得してくれるだろう。よくやったな」
「ははっ、ありがたきお言葉、感謝致します」
1人は最初に俺が話しかけた、帝国船の積み荷の指揮をとっていた男だ。
そしてもう1人は、サラジウムで1度相手をしたことがある人攫いであった。
人攫い連中がこの町に着くには、俺の予想だとまだ時間がかかる。となるとこいつ1人だけ先行して、情報を伝達しに来たのだろう。
その人攫いは男に紙を1枚渡し、それを見た男は不敵な笑みを浮かべている。
会話の内容からしても、恐らくあそこに子供達のリストが記されているのだろう。
サラジウムを出て数日、ようやく俺達は子供達の行方の手がかりを見つけたのだ。
「あの方はもう来られているのでしょうか?」
「まだだ、2週間後には到着予定らしい。それまでにきっちり準備しておくぞ」
「了解しました!」
(あの方?誰かは知らんがいいことを聞いたな。2週間ここに滞在しているなら、奪い返すチャンスは十分あるぞ)
何の話かは知らないが、ともかく2週間もあれば子供達を奪い返す時間は十分だ。
後はこの人攫いのあとをつけて、子供達の居場所まで連れて行ってもらうだけ。
そう思っていたのだが、事はそう上手くは進まなかった。
「くくっ、盗み聞きとは感心しないな。子ネズミ共!」
男は薄紫色に輝く鋭い眼光で、屋根の上にいる俺達を睨みつけてきた。
残念ながらいつの間にか、隠れていたことがバレていたらしい。
どうやらここでの戦闘は、避けられないようだ。
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