3章 34.モンスターピアス

 ユドラの暴走を止める為の戦力は集結した。


 と言っても俺自身は、自分なんかいなくてもどうにかなりそうだと思っている。


 だが、どうにもドロシーやシンリーが俺がいなければ解決出来ないとタンカを切ってしまったらしい。


 正直その期待は重いが、彼女達の信頼を裏切るわけにもいかないので、やれるだけのことはやってみせる。




「ライチ来い!」




「ピイィー!」




 俺はまずユドラの弱点を探す為、機動力の高いライチ呼び、その背に飛び乗った。


 上空からなら何か新たな発見があるかもしれないからな。




「倒し方なら見当はつくんだがな。うーむ、今回は救出が目的だから難しい……」




 ヒュドラ討伐の方法といえば、神話の中でもかなり有名な部類に入る。


 確か英雄ヘラクレスが首を斬ってはすぐさまなさ焼いて、再生させないようにしたんだったな。


 そして最期の首は焼いても無駄だったから、岩の下敷きにしたんだっけか。


 日本の神話では、ヤマタノオロチを須佐ノ男が倒す為に、酒盛りをしたというのもあるな。


 ただ今回は救出だから斬って焼くのは論外だ。岩の下敷きにするという手は使えるかもしらないが、ここは砂漠地帯なのでそうそう手頃な岩が転がってるわけもない。




「バオォォォォオオオオ!」




 俺が作戦を考えている間にも、皆はユドラの攻撃をどうにか凌いでいる。


 手加減しているとはいえ、これだけの面子相手に対等に渡り合えるとは、ユドラも末恐ろしい魔獣だ。




「ともかくどうにか動きを止めて、マイラを首輪まで届けるしか手はなさそうだな。ライチ、マイラを拾うぞ!」




「ピイィー!」




 色々考えたが、動きを封じてその隙にマイラを行かせるしか手は無い。


 ライチに急降下を命じて、流れるようにマイラを拾い上げる。




「マイラ、お前の毒だけがユドラを助ける唯一の手段だ。これからユドラの動きを封じるから、最後はしっかり頼むぞ!」




「ガウッ!」




 マイラの毒だけが頼り。責任は重大だと言うのにマイラは一切気圧されていない。


 兄弟を救う為か、その目にはこれまで見たこともない力が篭もっていた。




「よしまずは……、ドロシー、シンリー!2人でユドラの足を止めてくれ!」




「分かった」




「任せてダーリン!」




 ドロシーとシンリーに先陣を切るように頼むと、2人は地面に手を付き、大量の泥と木の根を地面から噴き出させる。


 泥と根の波はその圧倒的な物量でユドラに回避の間を与えず、足元へと流れ見る見るうちにユドラの動きを拘束してみせた。




「今だライチ!落雷で感電させろ!」




「ピイィー!」




 続いて俺は、素早くライチの背から飛び降りると、雷を撃たせた。


 ライチは落雷を放つ時全身に雷を纏わせるので、離れていなければ俺もやられる。


 それならいっそのこと落下して、ユドラの元まで一直線に向かおうという作戦だ。




 そしてその狙い通り、ライチの雷でユドラは全身を感電させ、痺れて動けなくなっている。


 俺はユドラは首輪目掛け、マイラを抱えて一直線に急降下した。




「今だ、ラスト頼むぞマイラ!」




「ガウガウ!」




 ユドラまであと10mという高さまてま来たところで、俺はマイラを首輪めがけ投げた。


 その時同時にマイラも俺の手を蹴り、さらに加速し首輪まで迫る。




 が、そう思い通りに事態は進まなかった。


 マイラが首輪に尻尾で食らいつく寸前にユドラの感電は解け、強烈な首の薙ぎ払いによりマイラは吹き飛ばされる。




「マイラぁ!」




「バオォォォォオオオオ!」




 さらにユドラの攻撃は止まらない。マイラの方に気を取られていたが、一緒落下した俺も次の標的となっていたのだ。


 もう既にユドラの首の鞭は、俺を狙って放たれている。


 空中にいる以上回避は不可能。チャンスが一転ピンチへと様変わりした。




「ピイッ!」




 だが、俺へと首が届く寸前、ライチが急降下して嘴で俺の襟を咥えて、華麗にかっさらってくれた。


 ライチのお陰で俺は、九死に一生を得たのだ。




「ラ、ライチ!助かった!」




「ピイィー」




 口に加えられながらライチの頭を撫でると、嬉しそうに喉を鳴らした。


 地上ではドロシーがマイラを受け止めてくれたようで、すでにシンリーの治癒によってマイラは全快している。


 作戦は失敗したが、どうやら被害はゼロに抑えられたようだ。


 だが、今の一連の流れで俺は確信した。


 ユドラの動きを封じマイラを届ける為には、時間が足りない。首輪を破壊するには、後1歩ユドラの攻撃を見切る必要があると。




「くそっ、あと少しなのに……!もう一押しが足りない!」




 クウさえいてくれれば1回攻撃を凌ぐことなど容易なのに、今は魔力不足で戦闘に参加出来ない。


 今いるもの達でどうにかしなければならないんだ。


 そう悩み、地面に拳を叩き悔しがる俺の肩を誰かが叩いてきた。




「よお」




 振り返ると、そこにいたのは溶岩の魔人だった。


 状況は何も良くなっていないはずなのに、彼はなにやらニヤニヤと笑っている。


 何がそんなに楽しいのだろうか。


 そう思っていると、彼は俺に拳を差し出してきた。その手には何かが握られている。




「これは……?」




「そいつは魔道具だよ。モンスターピアスってんだ」




 彼が渡してきたのは、2つの耳飾りだった。猫の耳を逆にした様な、逆三角形のデザインの耳飾りだ。




「小僧……いや、魔獣共の大将、お前のその自らの命をもなげうつその度胸気に入った。それを使え!」




「え、あ、ありがとう……」




 溶岩の魔人は何故か晴れやかな笑顔でそう言っていたが、一体彼の中で俺の評価がどう変わったのかが分からない。


 命をなげうつって言われても、体張るのは今日に始まったことじゃないしな。


 仲間の為に、魔獣達の為に行動するのは今や俺の中では当たり前だから、改めてそこを褒められてもいまいちしっくり来ない。


 俺もだいぶ感覚が狂ってきたのかな。




「あらあら、あんたもようやくダーリンのことを認めたみたいね〜」




「うるせぇ!俺はこの大将の度胸が気に入っただけだよ!」




「照れてる」




「この……!馬鹿にしやがって!」




「今はそんなことしてる場合じゃないでしょ!後にしなさい!」




 自分のことについて考えていると、何故かまた魔人達が喧嘩し始めた。そしてそれをエキドナが止める。


 普段と同じ光景だ。




 そうだ。溶岩の魔人の評価なんて関係ない。


 こんな日常を取り戻す為にも、今はユドラを止めることに全力を注ぐ。ただそれだけだ。




「おい大将、そのピアスは信頼しあってる魔獣の言葉が理解出来るピアスだ!それ使ってとっとと決着付けちまえ!」




「言葉が理解出来る!?す、すげぇ……、何度動物や魔獣の声が理解出来ないかと思ったことか。その夢が今叶うなんて……!」




「感動してねぇでさっさと付けろ!」




 何度も夢にまで見た魔獣の言葉が分かる道具。ソレを今手にしたことで、俺は感動で全身に鳥肌が立ち身震いした。


 が、今はそんな感動している暇はないと、溶岩の魔人に水を差されてしまう。




「あ、ごめんごめん。では早速」




 溶岩の魔人に促されて、俺は早速モンスターピアスを両耳に付けた。


 すると突然、今までなぜ理解出来なかったのかと思えるほどに、魔獣達の思っていること言っていることがら手に取るように分かるようになったのだ。




「ガウガウ!(ほんとに僕らの気持ちが分かるの?)」




「ピイィー!(き、聞こえているんでしょうか?)」




 鳴き声は今までと何も変わらないのに、彼らが何を伝えたいのかがはっきりと分かる。


 なんとも面白い感覚だ。




「ああ、聞こえてるぜマイラにライチ」




「ガウッ!(わあぁ、凄いなー!)」




「ピイィー!(な、なんと幸せなのでしょう!)」




 マイラとライチに言葉が理解出来ると知って、えらく興奮している様子だ。


 しかし、こうして聞くと、魔獣達の個性や性格がより浮き彫りになるな。なかなかに面白い。




「ははっ、これなら今まで以上に濃密な連携が取れそうだぜ。やるぞお前達!」




「ガウガウ!(うん!ユドラを助けるぞ!)」




「ピイィー!(はい!お供致します!)」




 溶岩の魔人から新たな魔道具、モンスターピアスを受け取り魔獣の声が理解出来る様になった。


 今の俺達の連携なら、失敗するビジョンが見えないな。


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