3章 33. こんな騒動とっとと片付けるぞ!

 地下牢を脱出した俺は、一方向に避難する群衆を逆走している最中に、ラビアさんと合流した。


 彼女は今日は街中の警備担当だったらしく、この騒動に避難誘導の役を仰せつかったらしい。


 だが、自分の暮らす区画で事件が起き仲間に被害が出ているかもしれないということで、気が気では無い様子だ。




「ラビアさん、この騒動何が起こってるんだ?」




「詳しくは分からないですが、獣人族の区画で突然魔獣が暴れだしたらしいです」




「魔獣が……、だったら俺ならどうにか出来るかもしれないな」




 詳しい原因はラビアさんも分からないらしいが、魔獣が原因と言うなら俺の体質でどうにか出来るかもしれない。


 ラビアさんの説明では細かいところは分からないが、それでも現場へ向かう以外の選択肢は無いようだ。




「おいラビア!ここはもう大丈夫だから、お前は灯様を案内してやれ!」




「い、いいんですか!?」




「ああ!灯様、皆のことを頼みます!」




 俺とラビアさんが話していると、少し離れた所で避難誘導していたヘイトの父親であるダフネがそう進言してきた。


 実際避難誘導は順調のようだし、ラビアさん自身も妹や仲間のことが心配でかなりそわそわしていたから、その配慮だろう。




「分かりました!」




「ありがとうございますダフネさん!」




 俺とラビアさんはダフネさんの言葉に甘えて、ここを彼に任せて獣人族の区画へと、一心不乱に駆け出した。






















 ――




















 ラビアさんと共に獣人族の区画へと走り出して数分、俺達は現場へと到着した。


 警備隊として毎日街を隅々まで見て回っているラビアさんは裏道や近道を知り尽くしており、かなり時間を短縮出来たのだ。


 だがそれとは裏腹に、俺達が到着した獣人族の区画はほとんどの建物が瓦礫とかし、辺りには静けさが漂っていた。


 どうやらもう既に戦場は、別の場所に移っているらしい。


 事件が解決していないと判断していたのは、この周辺に人影が1つもないからだ。


 もし解決していたなら、すぐさまクウやマイラ達が俺の元へと駆け寄ってくるはず。それが無いということは、クウ達はまだ戦っているということだ。




「皆、一体どこに行ったの……?」




「ちょっと待って、今確認するから」




 仲間の影が1つも無いことで不安げな表情を見せるラビアさんを横目に、俺は左中指に付けているモンスターリングを起動した。


 この指輪を使えば、クウ達の居場所はひと目で分かるのだ。




「でた!クウ達は……、全員街の外に移動してるみたいだ!」




「え、何でそんなこと分かるんですか?」




「その説明は後だ!今はとにかく急いで合流しないと!」




「そ、そうでした!急ぎましょう灯様!」




 ラビアさんは魔道具のことが気になる様子だが、今はその説明をしている時間は無い。


 彼女もはっと目的を思い出したようで、急に焦りだした。


 俺はそんなラビアさんと共に、再びクウ達の元へと走り出す。




「しかし、何で突然街中で魔獣が暴れだしたんだ?」




「分かりません……、漂うその魔獣はそうとう強くて大きいとのことです」




「強くて大きいか。空から竜でも飛んできたとか?」




「その可能性はあるかもです……」




 強くて大きくて突然現れた魔獣と言えば、ドラゴンくらいしか思いつかない。


 あいつらはこの世界を自由気ままに飛び回っているからな。気まぐれに街を襲ってもおかしくはない。




「ですが、それならリーダーがすぐに対処するはずなので、もしかしたら別の何かかも知れないです」




「それもそうだな。魔人何だからドラゴンの1匹や2匹どうってことないか」




 この世界ではドラゴンは何百種類もいる。その中でクウは最上位に位置する竜種なのだが、そんな竜に出会えるのはごく稀だ。一生に一度出会えたら奇跡というレベルである。


 だからそれほどのレベルのドラゴンでもない限り、魔人が手こずるなんてことはそうそうあるはずもない。


 そうなると必然的に、溶岩の魔人が容易に手出し出来ない相手だったという可能性の方が高くなる。




「溶岩の魔人ですら手出し出来ない魔獣……。ま、まさか……!」




 走りながら思考をめぐらせているところで、ある1つの結論に俺は辿り着いてしまった。


 考えたくなかった最悪の答え。


 それは、身内の魔獣の誰かが暴れだしたということだ。


 そんな可能性は信じたくない。だが、1度その答えが出てしまったらもう、それ以外はありえないと思えてしまう。




 不安に胸の中わ支配されながら、間違いであってくれと願いながら一心不乱に駆け、俺とラビアさんはとうとう戦場へと辿り着いた。


 そこには俺の想定通り、最悪の結果が待っていたのだった。




「クウ!」




 戦場へ到着すると、俺の存在に真っ先に気づいたのはクウだった。クウはネイアちゃんに抱かれて後衛で待機していた為、最初に気づけたのだ。


 そして次いでクウを抱いているネイアちゃんも、クウにつられて俺達のことに気づく。




「あっ、お姉ちゃんに灯様!来てくれたんですね!」




 ネイアちゃんは俺達のことに気づくと、一目散に駆けてきた。




「ネイア、これは一体どういうことなの!?」




「ええっと、何から話せばいいかな……」




 駆け寄ってきたネイアちゃんの肩に乱暴に手を置いたラビアさんは、走ってきたせいか息も絶え絶えに詰め寄る。


 そんな姉の剣幕にネイアちゃんは若干気圧されながらも、1から事の成り行きを説明してくれた。




「そ、そんなことが起こってたなんて!」




「やはり首輪か、嫌な予感が的中しやがった……!」




 ラビアさんの表情は驚愕に彩られていたが、俺は正直予想はしていた。


 ただ最悪な方の予想だったので、当たって欲しくは無かったのだが。


 しかし、既に事は起きているのだから仕方ない。泣き言を言う前にまずは事態の収拾のために動かねば。




「教えてくれてありがとうなネイアちゃん。クウのことはもうしばらく任せたぞ!」




「は、はい!任せて下さい!」




「私も行ってくるわ!」




 俺はネイアちゃんに礼を言いクウのことを任せると、戦場へと駆け出す。そしてそのすぐ後をラビアさんも続いた。


 クウのことも気がかりだが、今は戦ってる皆の所へ合流しなければならない。


 クウ自身も疲労は溜まっているようだが、まだまだ元気そうだったので、そう心配はいらないだろう。


 念の為回復薬もネイアちゃんに渡しておいたし。




「皆すまん、遅くなった!」




「ダーリン!待ってたわよ!」




「ご主人様、遅すぎ」




「悪い悪い、こっちも色々あったんだよ」




 首輪をはめられ暴走しているユドラの元へ駆けつけると、ドロシーとシンリーが俺の存在に気づいて声をかけてきた。


 その声を聞いて他の面々も、俺達の方へと目を向けだす。




「ようやく来たな。泥と森があれだけ絶賛してたんだ。お手並み拝見といこうか」




 溶岩の魔人は冷淡な表情で、そんなことを呟いていた。


 その視線は何かを試すような熱意が込められており、若干緊張する。


 ドロシーとシンリーめ、一体溶岩の魔人に何を吹き込みやがったんだ。




「灯ちゃんお願い!ヒュドラちゃんを助けて!」




「分かってるよエキドナ、ユドラのことは俺達に任せてくれ」




 溶岩の魔人の発言を気にしていると、エキドナが懇願するような視線を向けながら擦り寄ってきた。


 以前にマイラが攫われたこともあってか、実の子供があんな目に合わされて、さぞ心配なのだろう。


 俺はそんな不安を取り除く為、自信ありげにニヤリと笑ってみせた。




「よし皆、こんな騒動とっとと片付けるぞ!」




 俺は皆を鼓舞する為、高らかにそう宣言した。




「ガウガウ!」




「ピイィー!」




「バウッ!」




「うん」




「任せてダーリン!」




 仲間達も俺の掛け声に一斉に反応する。


 ユドラの暴走する様子はかなり危険だが、実際に俺達はあの首輪を1度破壊した実績があるのだ。


 恐れるものは何も無い。


 サクッとユドラを平常に戻して、こんなことをしでかした元凶を叩き潰してやる。


 俺は心の中でそう誓い、仲間達と共に戦いに臨んだ。


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