3章 35. 衝撃の一言

 溶岩の魔人に認められ、俺は新たにモンスターピアスを手に入れた。


 彼にどういう心境の変化があったかは知らないが、ともかくこの魔道具のおかげで魔獣達の言葉が理解出来るようになった。


 これでさらに細かく、連携をとることが出来るようになるはずだ。




「マイラを首輪まで届けるのが、俺達の最終目標だ。だからひとまずマイラはモンスターボックスの中で待機していてくれ」




「ガウッ!(分かった!)」




 マイラにそう指示を出すと、モンスターボックスに戻っていく。


 モンスターボックスは、投げて更にそこから魔獣ガウ飛び出す勢いを利用することで、2段階で距離を詰めることが出来る。


 さっきと同じ行動は通用しないだろうから、今回はこの機動力を利用する作戦だ。




「後は、ドロシーは俺と一緒にライチのに乗ってくれ!」




「うん」




「ほかの皆はさっきと同じように地上でユドラの意識を分散させて欲しい」




「任せてダーリン!」




「おう!」




 次いで他の面々にも指示を出す。ドロシーには上空から、他の魔人は地上から攻撃することで、ユドラの意識を多方向に分散させる。


 そうすることで首の本数が減り、お互い動きやすくなるという寸法だ。


 全員不満は無いようで、気合いは十分。今回で必ず成功させてみせる。




「このアタックで終わらせるぞ!」




「「「「「「「おおぉぉー!」」」」」」」




 俺の宣言に全員が雄叫びお挙げて応える。獣人族も混じり総力戦だ。


 オレの合図で、獣人族達が雄叫びをあげながら一斉に突撃を開始した。


 その中には援護と支援役として、シンリーと溶岩の魔人も混ざってる。




「よしライチ、俺達も行くぞ!」




「ピイィー!(お任せ下さい!)」




 ライチも俺の指示に従い天高く舞い上がった。


 一気にユドラの頭上まで上昇すると、そこからドロシーが泥弾をお見舞する。




「バオオォォ……!(あ、あだまがぁ……!)」




「っ!ユ、ユドラの声も聞こえてくる……」




 ユドラが苦しむような鳴き声を上げた時、その言葉の真意が俺の耳に伝わってきた。


 その声音は明らかに苦しんでおり、あの首輪にどれだけ自由を奪われているのかがよく分かる。




「何て言ってるの?」




「苦しんでる。くそっ、これを付けたやつ絶対に許さないぞ……!」




 ピアス越しにユドラの心の声を聞き、改めて俺は人攫い共に憎悪が湧いてきた。


 己の利益の為に何の罪もない魔獣を苦しめて、こんな奴ら絶対に許さない。




「ユドラ!すぐ楽にしてやるから、もう少しの辛抱だ!」




「バオォォォォオオオオ!(うああぁぁぁぁ!)」




 ユドラに呼びかけるように声を張り上げたが、今のユドラには俺の声は届かない。


 何としても、一刻も早く首輪を外してあげなければ。




「スーーーーーッ」




「ブレス来るぞぉ!」




 ユドラは四方八方に顔を向け、大きく息を吸い込んだ。


 その瞬間溶岩の魔人の怒号が響き、各員一斉にユドラから距離をとる。


 ライチも回避するため少し高さを上げたが。




「ダメだ、このブレスが好機だ!下降しろライチ!」




「ピ、ピイッ!?(し、しかし、それじゃやられてしまいますぞ!?)」




「大丈夫、この為に上下からせめて意識を分散させて首を減らし、ドロシーも連れてきたんだ」




「え、私?」




 ドロシーは突然名前を呼ばれきょとんとしているが、実際今上方向に向いている首は3本。9本全てと比べたら、たったの3分の1だ。


 その上でライチの機動性とドロシーのガードがあれば、一気に距離を詰めることが出来る。


 ブレスの威力は強力だが、その分放っている間は隙も大きい。このチャンスを無駄にする訳にはいかない。




「そういう訳だから、頼むぞライチ!」




「ピイィー!(お任せ下さい!)」




 俺の意志を理解したらしくライチは上昇をやめ、真っ逆さまにユドラ目掛け急降下する。


 更に翼に雷を纏うことで一気に加速した。




「ねぇちょっとあれ!」




「あぁ!?あいつらなんで退かずに攻めてやが……、いや待て、そういうことか。おい森!俺達も行くぞ!」




「えぇ!」






 ちょっとで動いているシンリーと溶岩の魔人も、俺達の行動の意味をくみ取ったらしく、獣人族太刀は退かせて前に出てくる。


 彼らならブレス程度じゃ死ぬことも無い。さらに気を引いてくれるようだ。




「こっち向きなさい!」




 シンリーは両手をツルのように伸ばし、ユドラの首何本かに巻き付けると自分の方向へ引いた。


 そしてその瞬間、ユドラのブレスが放射される。




「バルオォォオ!」




「ガードお願い!」




「よっしゃ任せとけ!」




 シンリーは自身に3本ほど首を向けたせいで、3本のブレスが一直線に向かってくる。


 だが、そのブレスは溶岩の魔人が作り出したマグマの壁によって見事に防がれた。


 そしてシンリーが引いた首の内1本は上を向いていたものであったので、俺達へのブレスの数が減っている。




「助かる2人とも!今だライチ、突き進め!」




「ピイィー!」




 2本のブレスは俺達目掛け襲いかかってくるが、ライチの電光石火の機動力の前では当たるはずもない。


 ライチ!ブレスの間を縫うように飛び、ユドラとの距離を詰める。




 だが、ユドラもそんなライチの動きは警戒していたのだ。




「バルオォォオ!」




 ユドラは何本かの首をは発射せずに溜めていたらしく、距離が近づき回避不能な距離まで詰めたところで、狙い撃ちしてきたのだ。


 その数は3本。今の至近距離では、ライチの回避も間に合わない。




 だが、俺達に焦りの顔は無かった。




「へっ、隠し球ならこっちにもあるんだよ!」




「ふん!」




 ブレス3本がライチを襲う直前、ドロシーが泥壁を展開し見事にガードする。


 ブレスから身を守ることには成功したが、上空で踏ん張りが効かないせいか、徐々にブレスに押されて距離が開く。


 折角決死の覚悟で詰めた距離が、このままでは無駄になってしまう。




「……なんてこと、俺がする訳ねぇだろ!」




 しかし、俺は距離が離される前に背後からこっそり飛び降りていた。


 広範囲攻撃であるブレスのせいでユドラは視野が狭くなっており、俺の飛び降りに気づかなかったのだ。


 そしてぞろぞろブレスの放射時間も終わる。


 ユドラは慌てて俺へ首を向けようとしたが、それは間に合わなかった。


 ブレスを吐いていたせいでがら空きの首元目がけ、俺はモンスターボックスを放り投げる。




「バオォォォォオオオオ!(うがあぁぁぁ!)」




 ユドラは苦しみの声を上げながらも必死にそれを凪払おうと首を振るう。


 だが、それよりも俺達の方が1歩速かった。




「出てこいマイラ!」




「ガウガウ!」




 俺の呼びかけに呼応し、淡い光と共にマイラがモンスターボックスから飛び出してくる。そしてそのすぐ後をユドラの首薙が襲った。


 モンスターボックスは吹き飛ばされてしまったが、マイラは首輪目掛け一直線に突き進む。




「仕留めろマイラ!」




「ガルウッ!(任せて!)」




 もう邪魔するものは何も無い。


 マイラの尾の蛇の毒牙が、真っ直ぐ伸びて遂にユドラにはめられている首輪を捉えた。


 その瞬間灰色の蒸気を吹き上げながら、首輪がドロドロと溶けていく。


 そしてそれと同時にユドラの暴走も止まり、疲労からかユドラは前のめりに地面に突っ伏した。




「ピイィー!(やりましたね灯!)」




「おう!」




「終わった」




「ガウガウ!(ありがとう皆!)」




 そして最後は、落下する俺とマイラをライチが颯爽と拾い上げ、皆の元へと降りていく。


 どういう理由でユドラを暴走させたのか知らないが、これであの領主の思惑も破れただろう。




「ユドラちゃん大丈夫!?」




「バ、バオォ?(ママ、な、何か体がダルいんだけど何があったの?)」




 ユドラは暴走していた時の記憶は無いらしく、突然倦怠感に驚いている様子だった。




「よっしゃあ!よくやったぞお前ら!」




「「「うおぉー!」」」




「流石はダーリンねっ!」




 獣人族達もシンリーや溶岩の魔人の魔人と、勝利を分かちあっている。


 敵対していた訳では無いが、団結して1つのことを乗り越えたことで皆興奮状態だ。


 そんな彼らを眺めながら、俺は放り投げたモンスターボックスを拾い上げる。


 ユドラに思いっきり吹き飛ばされたが傷は一切ない。




「頑丈な魔道具だな」




「えぇ!?そ、それ本当なんですか!?」




 そんな風に感心していると、後衛でクウと共に待機していたネイアちゃんの驚愕の声が砂漠に響き渡る。


 何事かと全員一斉にそちらの方に顔を向け、俺も慌ててネイア達の方を見ると、そこには酷くやつれた様子の顔色の悪い獣人族の男性が1人いた。


 かなり疲労が溜まっており、ネイアに話を終えて限界が来たのかそのまま地面にへたりこんだ。




「ネイア、何があった!?」




 一同が困惑する中溶岩の魔人が代表してネイアに尋ねると、彼女は顔を真っ青に染め上げながら、クウを抱えてこちらへ駆けて来た。


 その腕は心做しか小刻みに震えている。


 その様子から、ただ事ではない何科が起きたことを全員が直感した。




 ネイアちゃんは溶岩の魔人の前まで来ると、青い顔で大粒の冷や汗を流しながら、その重い口を開く。




「ひ、人攫いに子供達が、攫われたそうです……!」




 ネイアちゃんは震える声で、どうにか絞り出すようにそう告げた。


 その衝撃の一言に誰も声を出せずにいた。だが、全員がその表情を青く染めあげる。


 俺自身もあまりの衝撃に、目が暗み視界が窄む。


 領主ゴードンや人攫い連中の狙いは初めからユドラではなく子供達だったのだ。

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