2章 1. 俺は完全にグロッキー

 ライノさん達騎士団のいる街、ハルレーンを出発してから数時間が過ぎた。


 リベンダまでは馬車で1週間かかるそうなので、暫くは野外生活になりそうだ。


 現在は昼過ぎ頃で、今のところ快適な旅を送れている。




「灯、もう飽きた」




「何言ってんだよ、まだ旅は始まったばっかりだぞ。これから何日もこうして荷台に乗って旅をするんだから、少しは我慢しろよ」




 何も無くただ荷台に座っているのが飽きたのか、ドロシーが駄々をこねだした。


 俺達が乗っているのは馬車などの立派なものでは無く、吹きさらしの荷台に業者席のついた簡易なものだ。


 騎士団の人達からタダで譲ってもらったものだが、いつまでもこれで旅を続けるのも味気ないので、お金に余裕が出来たら馬車を購入しようと検討している。




「でもずっと座ってるだけだと暇」




「はぁ、じゃあ御者をやってみるか?」




「うん」




 荷台を引いてくれているのは、グラスバイソンのグラス、ホーン、ミルクの3匹だ。


 俺の場合は体質のお陰もあり、口で命令するだけで大抵のことは言うことを聞いてくれる。


 ただ念のために手綱は付けていたので、それをドロシーに渡し業者を交代した。




「よし、皆走れ」




「「「ブモオォ!」」」




「うおっ!」




 ドロシーは手綱を受け取ると早速グラス達に手綱で指示を出し、いきなり全速力で走らせ始めた。




「ちょっ、ドロシー待ってくれ……。速すぎて酔う……」




「何ご主人様?なんて言ってるか聞こえない」




 ドロシーが全速力で走らせたせいで、ガタガタと大きな音を立て始めて、俺の弱った声は届かなかった。


 そんな無茶な走行が2時間ほど続いた。




「うぅ、もうダメだ……。気持ち悪すぎる」




「大丈夫?ご主人様」




 ようやくドロシーが速度を緩めた時には、俺は完全にグロッキー状態で荷台に転がっていた。


 ドロシーは自分のせいだという自覚が全く無く、不思議そうに俺のことを心配してきた。




「このっ!もういい、今日はこの辺で野宿するぞ」




「分かった」




「ブオー」




 ドロシーの態度に一瞬怒ろうかと思ったが、そんな元気もないほど今は疲れていたので、すぐに野宿の場所探しに移った




「よし、皆出てくるんだ!」




「クウ!」




「ガウ!」




「!」




 街道から少し森に入った所の開けた場所を今日の寝床に決め、俺はモンスターボックスからクウ達を呼び出した。




「それじゃあまず、クウとマイラは食べれそうな動物を狩ってきてくれ」




「クアッ!」




「ガウゥ!」




「グラス達は旅で疲れてるだろうから、今日はもう残りはゆっくりしててくれ」




「「「ブォッ!」」」




 俺はクウとマイラに狩りを任せ、グラス達には休んでおくよう指示を出した。


 クウ達は俺の指示を聞くと早速森へと駆け出して行った。


 あの調子なら、しっかり獲物を仕留めてきてくれそうだ。




「ご主人様、私は?」




「!」




「ドロシーとプルムは水源を探して水を汲んで来て。あとついでに、道中薪に使えそうな枝があったら拾っておいてくれ」




 俺はそう言ってドロシーに水袋を差し出した。


 実はこの水袋は魔道具で、汲む時に自動的にに濾過してくれるように細工されている。


 ただし魔力を流さなけらば使えないので、今のところはドロシー以外は使えない。だから水汲みはドロシーに任せてる。




 ちなみに値段は、魔道具だけあってこれ1つで20万ブルムかかった。


 だが安全な水を飲む為なら、この程度の出費は必要経費だと割り切った。


 旅に毎回水を積んでいくと、他の物を載せる余裕がなくなるので、非常に助かっている。




「ご主人様は何をするの?」




「俺はグラス達の餌の調達と、後は食べれる野草探しだな。後はテントを張ったりとか、雑務全般」




「なんか、大変そうだね」




「そう思うならもう無茶な運転はしないでくれ」




「ごめん」




 ドロシーは若干申し訳なさそうにプルムと共に森へと姿を消して行った。


 俺はまだ荷台の時の酔いが治まっておらず、今も気持ち悪くて休みたいくらいだ。


 だが、ここで俺がサボったらテント無しで寝ることになる。そんなのはゴメンなので、根性で体を動かした。




「はぁ、こんなことならドロシーにテントの張り方を教えるんだったなー」




 現在ドロシーは水の確保という重大な役目があるので、テント張りを教えている暇はない。


 旅に出る前に教えておけば良かったと、少し後悔している。




「よし、これでテントは完成だ!」




 クウ達が出発してから20分程がたった頃、ようやくテントを張り終わった。


 この世界では魔道具のテントもあり、中の空間が拡張されていたり、快適な温度に設定してくれたりと色々な効果のある物がある。


 しかしそれは本当に高くて、1つ100万ブルムは軽く超える。


 だから俺が持っているのは、元の世界のものと変わらない一般的なテントだ。




「じゃあ俺はグラス達の餌と野草を採ってくるよ」




「ブモォー」




 テントを張り終えた俺は、森へ出発するためグラス達に挨拶をした。


 ホーンとミルクは疲れたのか眠っており、グラスはまだ元気なようで、俺の腕に頭を潜り込ませてじゃれてきた。




「はいはい、遊ぶのはまた後でな」




「ブオォ……」




 俺は構ってほしそうに、頭をすり寄せてくるグラスをどうにか引き剥がして、森へ向かった。


 途中後ろからグラスの寂しそうな声が聞こえたが、彼らのためにも心を鬼にして、俺は前へと進んだ。




「さて、食べれそうな野草はあるかな」




 森に入ると、図鑑を片手に足元に目を凝らして野草を探してみる。


 ただ、これまで植物をまじまじと見たことが無いので、図鑑だけだとどれがどれだか分からない。


 仕方なく、取り敢えずグラス達の餌を先に採取した。




 ちなみに採取の際は、栗拾いの時に背負うような大きな籠を背負っているので、それなりの量を採取出来る。


 朝グラス達に干し草を与えた時に、どれくらい食べるのか把握していたが、この籠いっぱいに餌を集めれば十分な量となる。




「ん?あれって……」




 そうしてグラス達の餌を集め終わった時、視線の先に見覚えのある果物を発見した。


 近づいて見てみると、やはり思った通りの物だった。




「やっぱりこれ、野いちごだ!」




 ようやく食べられそうなものを見つけた俺は、慌てて図鑑で確認してみた。


 調べてみると、ヒャクメイチゴという名前のいちごだった。


 小さな粒が100個集まっていることからその名が付いたらしい。


 毒は無く、酸味が少々あるが全く食べれない味ではなく、栄養も豊富だとのことだった。




 俺は早速1つ摘むと口に運んだ。




「んっ、ちょっと酸っぱいけど美味いなこれ!」




 最初は酸味が口の中を刺激するが、奥からほのかな甘みが出てきて、ちょうどいいバランスになっている。


 俺は元々甘い物は少し苦手なので、結構好きな味だった。




「まだいっぱいあるし、皆の分をつんで後は保存食にもなるかもな」




 リベンダまでの1週間なら、多分もつだろうし今後手に入るか分からないから多めに摘んでおくことにした。


 もちろん生態を破壊しない程度にだが。




 そうしてヒャクメイチゴを摘んだ後ホームに戻ると、ドロシーとプルムが戻ってきていた。




「おつかれ、水は見つかった?」




「うん、プルムが水源を見つけれるから」




「!」




「そうなの?そんな特技があったのか」




 ドロシー達は水袋いっぱいに水を汲んで来てくれた。


 プルムは水源を見つけることが出来るとドロシーから聞いて、かなり驚いた。


 チーム分けのときは何も考えず決めたが、まさかの適役すぎた。


 プルムは褒めてほしそうにプルプル震えながら足元に擦り寄ってきた。




「よしよし、良くやったぞプルム!ドロシーもありがとうな。汲んで来てくれて」




「!」




「うん、それよりもうお腹すいたから早く食べたい」




 俺はプルムを抱き上げて撫で回しつつ、ドロシーにもお礼を言った。


 しかしドロシーは、そんなことよりも空腹の方が問題らしい。


 相変わらずマイペースな性格をしているよ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る