1章 9.一筋の青い閃光

 村を出発してから早2時間程が経過した。現在は森の中の舗装された馬車道を移動している。




「なあマリス、そろそろケツが限界なんだが……」


「ははは、辛いだろうけどもう少し我慢してね。あと少しで休憩に入ると思うから」


「分かったよ」




 馬での長時間の移動など経験したことは無いので、尾骨が痛くて仕方ない。だがこれもあと少しの辛抱なのだから頑張ろう。




「全隊止まれ!」




 しかし俺がケツの痛みと戦っている最中で、先頭を走っていたライノさんから、姿は見えないが命令が走った。


 その声音から明らかに緊迫している状況だということが、ビリビリと伝わってきた。




「何かあったのか!?」


「僕にも分からないよ、でもただ事じゃなさそうだね。一応戦闘になるかもしれないから、隠れる準備だけはしといて!」


「分かった!」




 マリスはそう言うと、刃は出さずに腰から剣の柄を抜き俺を馬から下ろした。


 他の騎士達もすぐさま剣を抜き、馬から降りて臨戦態勢に入っていく。その一矢乱れぬ動きは、動画で見たことがある日本の自衛隊に似ている気がした。




「マリス、俺はクウとマイラを見てくるよ!」


「うん、そうしてあげて!」




 マリスに一言声を掛けた俺は、すぐさまクウとマイラのいる馬車へと向かった。




「クウ、マイラ無事か?」


「クウ!」


「ガウゥ!」


「問題なさそうだな。よし、危なくなるかもしれないから、ついて来るんだ。俺のそばを離れるなよ!」




 クウとマイラの安否を確認できた俺は、2匹を両肩に乗せるとすぐさま馬車を飛び出し、マリスの元へと戻ろうとした。


 しかしその途中、舗道の脇の森から突如として3mはありそうな、頭に巨大なキノコの笠を被ったバカでかいクマが出現した。




「でかっ!」


「っ!灯君下がって!」


「グガアァァァ!」




 即座にマリスは俺たちの元へ駆け寄ろうとするが、クマの方がそれよりも早かった。


 クマは俺を片腕で鷲掴みすると、軽々と持ち上げてそのまま森の奥深くへと猛ダッシュで逃げて行く。




「マジかよ」


「灯君!」




 突然捕まった俺は訳も分からないまま、あっという間に森の中へと連れ去られてしまったのだ。




「うぅ、この動きすごく気持ち悪いっ!」




 クマに掴まれたまま上下左右に激しく揺れながら、高速で移動するせいで平衡感覚が鈍り、腹の底から吐き気が襲ってくる。










 ――










 クマに捕まってから数分が経ち、もうかなり長い距離を移動した気がする。さすがにいつまでも、このまま何もしない訳にはいかない。




「ク、クウ、ワープ頼めるか?うっぷ」


「ク、クアッ!」


「うおっ!痛だだだ!」




 これ以上騎士団と離されれる訳にもいかないので、クウのワープで強行突破をした。


 だが、クウのワープは場所を瞬時に移動は出来ても勢いは殺せないので、クマの猛ダッシュの勢いのまま地面を転がった。




「痛っ!あー、何とか抜け出せたか。お前らは怪我はないか?」


「クウ!」


「ガウ!」




 一応地面を転がる寸前に抱き抱えたので、そのおかげかクウとマイラは無事のようだった。




「クウ、ありがとうな」


「クアッ!」




 俺はクウにお礼を言うと、優しく頭を撫でた。クウは俺の手に頭を擦り寄せて気持ちよさそうにしている。




「グガアァァァ!」


「なっ!あいつこっちに向かってきてるじゃねぇか!」




 しかし、せっかくクウのワープのおかげでクマの手から逃れられたのに、クマはあっという間に俺達の居場所を見つけ出し、猛ダッシュで迫ってきていた。




「くそっ!こうなったら一か八かでマイラの炎でどうにかするしかないか!?」




 マイラの炎は強力過ぎて、森の中で放ったら火事を起こしかねない。


 だが、これ以上クマに好き勝手させる訳にもいかないのでマイラの炎に頼ろうかと思ったその時、俺の前方に一筋の青い閃光が走った。




「せやあぁぁぁ!」


「マリス!」




 俺達の前に颯爽と現れたのはマリスだった。


 彼が横薙ぎに魔剣を振るうと、青い軌道と共にクマの腹から真っ赤な血しぶきが舞い上がった。


 腹を斬られて苦悶の唸り声を上げながらクマは数歩たじろいだ。




「とどめだぁ!」


「グガァァァ……」




 マリスはその隙を逃さず剣を真上に振り上げると、垂直に斬り下し頭を2つに割った。




「うおぉ、す、すげぇ……」




 マリスの剣の実力もさることながら、その手に持つ魔剣の切れ味の鋭さにも驚きを隠せなかった。


 頭を縦から2つに斬る剣など、今まで聞いたこともない。さすがは魔法の剣だ。




「ふぅ、灯君無事だった?」


「あ、ああ、何とかね。助かったよ」


「クアッ!」


「ガウゥ!」




 マリスが来なければ俺はまたクマに捕まっていただろう。


 クウとマイラも俺の腕の中で丸くなっていたが、無事を確認したのか元気に腕から飛び出て、走り回りだした。




「はははっ、2匹も大丈夫そうだね。良かった」


「しかしよく追いつけたよな。クマのあの速さに加えて、クウのワープもあったって言うのに」


「ああそれはね、実はこの鎧も魔道具でさ、魔力を流すと身体能力が向上して鎧が軽量化するんだ」


「その鎧そんなに便利だったのかよ!いいなー、やっぱ俺も魔力無いのかなー……」




 マリスが駆けつけた時、鎧には青い光の脈のようなものが張り巡らされていたが、魔力の影響だったのだろう。


 ビジュアル的にも能力的にも本当に憧れる。なぜ俺には魔力が無いのだろうか。

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