1章 8.まさに魔法の剣だ
慌ててアマネから2匹を逃がしたのでしばらく探し回っていると、クウとマイラに合流する途中でライノさんに出会った。
「おう灯、朝から元気だな」
まだ朝早いというのに、ゲラゲラと豪快な笑い声で話しかけてきた。
「もしかして見てたんですか、なら助けてくださいよ……」
「そいつは無理な相談だな。朝からアマネの面倒を見てたんじゃ身が持たねぇよ」
隊長からも厄介者扱いされてるアマネって一体……。
だけどそれにしても、さすがに助けてくれてもよかったじゃないか。
「そんな顔で睨むんじゃねぇよ。まぁ次は助けてやるから」
笑いながら和やかな声で話して入るが嘘だ。目を一切合わせててくれない。
「ほんとですか?怪しいですね」
「おう、任せとけ。ああ、それより朝飯はもう準備出来てるから早めに食べといてくれよ」
「ありがとうございます。昨日といい今日といい、お世話になってばかりでなんだか申し訳ない」
「気にすんなよ。灯はこの世界には来たばっかりなんだし、それに危険な役目も任せちまってるんだからな」
ライノさんはそう言い、笑いながら去って行った。彼の豪快さには出会ったばかりだが何故だか安心感が湧いてくる。
これが彼の隊長としての素質なのだろうか。
とにかくクウとマイラと合流してさっさと朝ご飯を済ませてしまおう。
「クウ!マイラ!そろそろ出て来てくれ。もうアマネはいないから」
そう呼びかけると、クウとマイラは恐る恐るといった感じでそろそろと出て来た。
「クウ~」
「ガウゥ」
「そんなに怯えなくても大丈夫だよ。ほらおいで、一緒に朝ご飯食べに行くぞ!」
「クァッ!」
「ガルゥ!」
2匹はご飯と聞いた途端急に元気になった。全く現金な魔獣だ、まぁそれはそれで可愛いけど。
俺はクウとマイラの頭を軽く撫でると、食堂へと向かった。
食堂に着くと昨日とは違い、各々が好きなタイミングでご飯を食べていた。
食事も大皿に乗っているものを自分で食べたい分だけ分けて食べる仕組みのようだ。
食堂をざっと眺めていると奥の席の人が話し掛けてきた。
「お、来たね灯君。はじめまして、僕の名はマリスといって、今日から君達の護衛として行動を共にするようにライノさんから仰せつかった者なんで、どうぞよろしく!」
「そうなんだ。なら、これからよろしく。俺は灯、それとクウにキマイラの子どものマイラだ」
マリスと名乗る、俺と同い年くらいの青年と軽く自己紹介を済ませると、俺はマリスと一緒に朝食を食べながら、このあとの流れを教えて貰った。
騎士団は朝食を終えたらすぐに移動の準備をして、すぐに街に向かうらしい。街へは丸1日かかるそうだ。
ちなみに機動隊は1箇所に留まることがなく、他の騎士団の拠点を転々としているようで、移動の際の荷物の量も多く準備が大変なようだ。
「なるほどな、なら俺達も準備を手伝うよ。クウ達も役に立つだろうし」
「そう言ってくれるのは嬉しいけど、灯君には1つやってもらいたい事があるんだよ」
「そうか?ならいいけど。やってもらいたい事って何だ?」
「これから危険な事になるかもしれないから、灯君にも護身用に武器を所持しておいてほしいんだけど、僕ら騎士団の使う武器には、魔力が必要不可欠なんだ。それで異世界から来た灯君も、武器が使えるかどうか試して欲しいって団長に言われてるから、一緒に武器庫に行ってほしいんだ」
「そういうことか、分かったよ」
そうして俺達は朝食を終えると、武器庫へと移動した。
「クァー!」
「ガゥガゥ!」
「おいお前ら暴れるなよ。壊したりしたら洒落になんねーぞ」
「はははっ、元気いっぱいで可愛いね。あまり無茶しなければ壊れはしないから大丈夫だよ」
「ならいいけど。ん?そういやここにある武器って棒みたいなのばっかだな。てっきり剣とか盾とかがあるのかと思ってたけど」
「剣ならあるよ、僕だって今も持ってるし」
そう言われたのでマリスの全身を眺めてみたが、どう見ても剣は見つからない。
腰には剣の柄のようなものはあるが、本来そこから伸びているはずの刀身はそこには無いようだし。
「すまん、全然見つけられないんだが」
「じゃあヒントね、これだよ」
そう言ってマリスは腰にある剣の柄に手を置いた。
「これって、刀身が無いじゃないか。あ!分かったぞ、その剣は目に見えない透明な剣なんだな」
これが正解だろうとばかりにドヤ顔でそう言ってやった。流石は異世界、騎士は皆透明の剣を持っているのか。
「ふふふっ、残念。刀身はちゃんと見えるよ」
「え、違うの?絶対正解だと思ったのに。ドヤ顔までしちゃったじゃないかよ。恥っず」
「まあまあそう落ち込まないで、じゃあ正解を教えるよ。これが僕達の武器さ」
マリスは腰から剣を抜くように柄を掲げた。だが、そこに刀身は見えなかった。そう、彼が剣を抜いた時までは。
マリスの持つ柄からは淡い光とともに、青色に輝く光が伸びた。その光は、1mほど伸びた所で剣の刃のような形に変形した。
「す、すごいな。まさに魔法の剣だ」
「クウゥ」
「ガウ~」
クウとマイラはいきなりの事に驚き、俺の後ろに隠れてしまった。俺自身もこんな風に魔法が出てくるとは思わず感嘆の声を漏らした。
マリスはイタズラが成功したかのように、クスクスと笑いながら言った。
「凄いでしょ、これが騎士団の使う魔剣さ。まぁ正確には魔法の剣じゃなくて魔力の剣なんだけどね」
「いや、どっちにしてもこれはカッコよすぎるだろ」
騎士団の使う武器は目に見える実剣ではなく、ゼロから魔力で作り上げた刀身を振るうものらしい。確かにそれなら重さもなく使い勝手がよさそうだ。
「そしてこの左手にある小手に魔力を注ぐと……」
そういってマリスが小手に魔力を流し込むと、小手から光の壁が広がった。
「おお!盾になるって訳か!」
「そういうこと」
マリスは俺の反応が面白いのか、その後もニコニコと笑いながら色々と説明してくれた。
「この武器俺も使えるのか?」
「それを試すためにここに来たんだよ。と言っても護身用だからね。灯君が使うのは魔剣ではなく、このダガーだよ」
そう言ってマリスは武器庫の棚の上にある、先程の剣よりも短い1握り分の柄から、短い魔力の刃を伸ばした。
「これがマジックダガー。本来は投擲用に使うんだけど、たまに護身用として貴族様に持たせたりするんだ」
マリスは説明を終えると刃を消してから俺に柄を差し出してきた。
だが、果たしてこの世界の人間じゃない俺に魔力があるのだろうか。もし使えなかったら、俺はこの世界じゃ何も出来ないんじゃないのか。
そう頭に浮かんだ疑問は、瞬く間に広がり不安に駆られ変な汗が出てきた。
「どうしたの?さあ、試してみなよ」
なかなか受け取らないのを疑問に思ったのか、マリスは柄をもう一度差し出してきた。
「わ、分かったよ。よし、やるぞ」
俺はナイフの柄を受け取り握りしめて、構えると刃が出るように念じた。
「……」
「……」
強く握ったり、先から刃が出るよう念じてみたりと、色々試行錯誤してみたが、しかしダガーから魔力の刃が出てくることはなかった。
結果は、俺には魔力がないということが分かっただけだ。
「うーん、出ないみたいだね。どうしよっか?」
「どうしよっかって……、魔力が無いんじゃこの世界だと生き辛いんじゃないのか?」
「まぁ、魔力を使わないでも使える魔道具が幾つかあるけど、ここには騎士団用のしかないから」
「つまり今は、魔力を使えることが前提の魔道具しかないと?」
「うん、そういう事」
ちょっと待ってくれ、どうすればいいんだよ。魔力無しでも使える魔道具はあるらしいが、ここには無い。
魔力も無く、戦うための道具もないなんて、この世界じゃ絶好のカモじゃないか。
これじゃクウを守るどころか、自分の身も危うい。
「ははっ、そんな悲観的な顔しないで大丈夫だよ。隊長とも話してて、こうなった時の為に街に着いたら武器を仕入れるよう言われてるから」
「そうだったのか、少し安心したよ。ホントに何から何まですまないな」
「気にしないで、魔獣と一緒にいれるのは灯君だけなんだしお互い様だよ」
「そう言ってもらえると助かるよ、期待に応えられるよう頑張るさ」
「うん、それじゃあ準備が出来たら馬小屋に来てね。すぐ出発になるだろうし」
「ああ、また後でな」
マリスと別れた俺達は、いったん自室に戻って来たが持ち物も特にないので、すぐに馬小屋に向かうことにした。
「さて、クウ、マイラ行こうか」
「クゥ!」
「ガルル」
さっきまで2匹とも魔剣に驚いてたけど、いつの間にか立ち直ったみたいだ。良かった良かった。
部屋を出て馬小屋に移動すると、アマネの姿が見えた。今日乗る馬の点検をしているようだ。
「よーしよーし、みんないい子だね~。ふふふふふ」
不敵な笑い声が馬小屋に響いていた。点検なんだよな?ホントにこんなんで大丈夫か?
「アマネ、何してるんだよ」
「あっ、灯君!もう来たんだ、早いね。今は今日頑張ってもらうお馬さんたちのチェックをしてたんだ」
「そ、そうか。独り言も程々にな」
誰にも聞かれていないと思っていたのか、顔を真っ赤にしてそっぽを向くように馬の手入れに戻ってしまった。
「この子達が騎士団の馬か。なかなか速そうだな」
そう言いながら馬たちに近づいていくと、馬達は急に俺に駆け寄ろうと暴れだした。
「ちょ、ちょっと落ち着いて皆!どうしたの!?」
アマネは、突然暴れ出した馬達に驚きつつも、落ち着かせようと慌ただしく動き出した。
「おいおい、落ち着きなよ皆。暴れたら危ないぞ」
俺も宥めるのを手伝おうと思い、一頭の馬に宥めるように撫でながら言った。
落ち着かせるつもりでした行動なのだが、しかしどうも逆効果だったらしい。
撫でた馬にはベロンベロンと顔や頭を舐められ、他の馬達はより一層激しく暴れだした。
結局馬全てを撫で終わるまで、この騒動は収まらなかった。結果的にアマネの準備の邪魔をしてしまったので申し訳ない。
「ふぅー、やっと準備も終わったわね」
「ごめんな、なんか手間取らせちゃって」
「いいのよ全然、これくらい大したことないわ。それに灯君の方が大変だったでしょう、顔中ベタベタになって」
「そうだな、出発前にまた顔を洗っておかないと」
馬達に舐められまくったせいでよだれが臭く、呼吸するのも辛かった。
「それにしてもやっぱり灯君が羨ましいわ。どうしてそんなに動物や魔獣に好かれるのかしら?」
「さあな、そればっかりは俺にも分からない。体質だと思って受け入れてはいるが」
何はともあれ、これでようやく出発というわけだ。ここから俺達の異世界の冒険が始まる。
「さあ野郎ども!出発だ!」
「「「おー!!!」」」
ライノさんの豪快な掛け声と共に、騎士団一行はいよいよ出発した。
色々とごたついた朝であったが、ようやく街へと向かいだした。
今回俺を助けてくれたライノ隊の人数は20人で、その班わけは特攻班、近距離防御班、中距離攻撃班、遠距離魔法班、回復・支援魔法班に別れている。
ライノさんは特攻班での班長も務めつつ、全体の指揮をとっている。扱う武器は大型の斧。
マリスは近距離防御班での班長を務めており、片手剣と左手の小手から円形の魔法の盾を出し、チームのバランスをとっている。
アマネは中距離攻撃班の班長で、長柄槍を扱い前衛の防御の合間を縫って攻撃をするらしい。
そしてこれらの隙を埋めるのが、遠距離魔法班と回復・支援魔法班だ。
それぞれの班の人数は、特攻班4人、近距離防御班5人、中距離攻撃班5人、遠距離魔法班3人、回復・支援魔法班3人という振り分けだ。
馬で移動する場合は特攻班を先頭に近距離班、中距離班は半分に別れて魔法班を間に挟む。このとき魔法班が荷台も一緒に運び。最後尾は近距離班が務めるという隊列だ。
俺はマリスの馬に一緒に乗せてもらい移動し、クウとマイラは荷台の乗せてもらっている。
「クウとマイラ大丈夫かな?」
「さあな、問題ないとは思うが」
マリスは荷台にいるクウとマイラの様子が気になるらしい。
俺も少し心配だが、ライノさんの気遣いで、荷台の前を俺達が走っているから大丈夫だろう。
クウとマイラの鼻ならこの距離からの俺の匂いなら充分感じてるはずだ。
こうして、異世界に迷い込んだ俺は騎士団に連れられ、クウを守る為に竜の蹄を倒すべく街ハルレーンへと出発した。
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