1章 6.違法ハンター集団
森を歩き始めて数時間。既に夕日は沈みかけて、辺りは暗くなり始めていた。
「もうすぐ森を抜けるから、そしたらすぐ着くからね!」
「はいよー」
「クウッ!」
今日は色んな事がありすぎたけど、何とか今日泊まれる場所は確保できそうでよかった。クウとアマネには感謝だな。
「着いたらまず隊長に挨拶してもらうからね、無骨だけどいい人だから灯君達も歓迎してくれるよ!」
「ありがとう、ほんと助かるよ」
やっとゴールが見えた気がして肩の力が抜けてきた。クウももうウトウトしてるし早く休ませてあげないと。
「お!森を抜けたな」
「うん!ほら、あそこに見える村に騎士団の支部があるんだよ!」
「クウ、もう少しだから頑張れよ」
「クウ!」
その村は周りには簡易な柵が張ってあり、出入りは中央の門以外では出来ないようにしてる。
「お疲れ様っ!」
「「お疲れ様です!!」」
アマネは門の見張りに挨拶をしていた。こうして見るとちゃんと騎士のようだ。
少し疑ってたけど、本物で良かった。
「ん?何笑ってるのよ?」
「あ、い、いや何でもないよ!気にしないで」
「なんか怪しいわね……?まあいいわ、早く行きましょ!」
「ああ、ありがとう」
ここの建物は木造と土壁で出来ている。機械とかの発展はまだなのようでだが、この村だけこんな感じなのだろうか。
「さあ到着したわ!ここが私達騎士団の支部よ!」
「おおー、思ったより普通の建物なんだね」
騎士団の支部の建物は、一見ただの集合住宅にしか見えなかった。
「まあここは田舎だから仕方ないよ、建物一つ立てるのも大変なんだ。でも一応看板はあるから」
「なるほどね、色々事情があるのか。すまない、失礼なこと聞いたかな」
アマネは大丈夫と言ってくれたけど、この世界にはこの世界の事情があるんだろう。今後は発言には気をつけよう。
「アマネただいま戻りました!」
「おせーぞアマネ!!何してやがったんだ!!」
「ご、ごめんなさい!」
な、なんだこの人、入って早々馬鹿でかい声で怒鳴って来て怖い顔の人が出てきた。
これは大丈夫なのだろうか、アマネすごい怒られてるぞ。
「それでそっちの野郎は何者だ?」
「この人は森で迷子になっていて、行く当てもないので騎士団に招きました」
「は、はじめまして……」
「クウ!」
「ドラゴンか……、なるほどな。大体の事情は分かった」
(え?まだ何も話してないのに分かったの?この人エスパーかよ、クウを見ただけで分かっちゃうのかよ)
「何ボーッと突っ立ってんだ、早く入りな。知りたいんだろ?そのドラゴンと悪党共のことを」
「え……」
なぜあいつらの事まで知ってるんだろうか。まさかあの男たちの仲間なのか。
いや、それならあいつらみたいにすぐに奪おうとするはずだ。
この人はクウとあいつらの関係について何か知ってるのかも知れない。とにかく今はついて行くしかなさそうだ。
こうして俺とクウはアマネに連れられて騎士団の支部へとお邪魔する事となった。
隊長に連れられて俺たちは応接間のような部屋へと案内された。
中は横長のテーブルとテーブルに合わせた大きさの長椅子が2脚あるだけのかなり質素な部屋だ。
隊長は奥まで入っていき椅子に腰掛けた。アマネはその後ろで立っている。
俺も立っていた方がいいのだろうか。
「まあ座れや」
俺が悩んでいると隊長さんが指示をくれたので、座ることにした。
「さてと、まずは自己紹介からだな。俺はライノだ。この騎士団の隊長をしてる」
「俺は竜胆 灯です。それででこっちがドラゴンのクウ」
そう言って俺は左肩に乗っているクウを指さした。
「クアッ!」
「灯にクウか、よろしくな。お前らも聞きたいことは沢山あるだろうが、状況を整理するためにも、まずはなぜそのドラゴン……、クウと一緒にいるのか聞かせてくれ」
「分かりました」
アマネには既に話してしまってるし、あの連中の説明をするには俺の世界でのことも話した方がよさそうだ。
俺はライノさんに今まで起きた全ての事を話す事にした。
「……なるほどな。つまりお前らは、その怪しい連中から逃げる途中で、クウの暴走した力の渦に巻き込まれてこの世界に来たって訳か」
「信じてくれるんですか?」
「ああ、大昔にも似たような事件があったという記録があるからな」
昔も起きたことがあるのか。それなら何か対応策もあるのかもしれないな。
「といっても俺も詳しくは知らんがな。それについてはまた今度時間のある時にでも調べておいてやるよ」
「え、そこまでしてくれるんですか!ありがとうございます!」
この事件について知っているどころか詳しく調べてくれるなんて、ライノさんはとても優しい人のようだ。
「まぁ取り敢えずは、灯がどんな世界から来たかは知らんが、その原因がそばに居るなら元の場所に帰ることも可能なはずだ」
「確かにクウさえいれば、また向こうの世界に帰るのは可能かもしれないですね」
クウの暴走でここに来てしまったのなら、またクウの力を借りれば帰ることは不可能ではない。
「ただしすぐには無理だ。クウが能力を使うには大量の魔力が必要だからな」
「そうなんですか?でもクウは既にこの世界と俺の世界を短い期間で2往復してるはずですけど」
「そりゃ力が暴走してたまたま灯の世界に行って、たまたまここに来ただけだからな。ちゃんと元の世界に帰りたいなら、魔力を蓄えてクウ自身に力をコントロールしてもらわないとダメだ」
クウが俺の世界に来たのも、この世界に来たのも全て偶然の産物だったらしい。
暴走せずに力を使うには大量の魔力が必要になるのか。原理はよく分からないが。
「さてと、それじゃ今度はこっち側の説明だな」
「はい、よろしくお願いします」
ライノさんの説明を聞いてこの世界がどういうものか、なんとなくだか理解した。
この世界は大きく分けて2つの国家に分かれていて、その2国家の存在がこの世界のバランスを保っているらしい。
そして後は、その2国とは別に小さな島にいくつもの部族が点在しているようだ。
で、その国家の内の1つが今俺自身がいるここ「クリサンセマム王国」だそうだ。
この国では騎士が魔法の武器や防具を用い、平民や貴族の安全と秩序を守っている。
その騎士の部隊は、国を守るために各地域に配置される防衛隊の赤軍と、特定の地域には滞在せず、国全体を移動し犯罪を追い求める機動隊の青軍の2つに分かれている。
それで俺とクウを保護してくれているのが、青軍の部隊の1つ「ライノ隊」という訳だ。
「そして今俺らの部隊はある事件を追ってる訳だが……、お前ら俺達に協力しねえか?」
「隊長!民間人を巻き込むなんて、何考えているんですか!」
ライノが提案を持ちかけた途端、アマネが大声を上げた。
クウもアマネの声に驚いて首にしがみついてきた。ちょっと、爪くい込んでるよ。
「まぁそう怒鳴るなよ、灯達にとっても悪い話じゃねえんだぜ」
「どういう事ですか?」
なんか本人そっちのけで話が進んでる。
「いいか、話を聞く限り灯達を襲った奴らは、今回俺らが追ってるのと同一の犯罪集団の可能性が非常に高い。その辺はお前も分かってるだろ?」
「ええ、まぁ……」
流石にこれ以上置いてかれたまま話を進められるのはまずいな。
「すみません、話を割って申し訳ないんですけど、いったい何の話を……?」
「ああ、悪い悪い。それじゃ灯達にも分かるよう細く整理しながら話すぞ」
「お願いします」
「まず俺らが今回追ってるのは魔獣を違法的に捕らえ、鑑賞や奴隷用に売買している「竜の蹄」と名乗る違法ハンター集団なんだ。この国では魔獣を売買するのは禁止されてるからな」
ライノさんの説明にアマネが付け加える。
「昔ある貴族が魔獣を飼っていて、街が1つ壊滅するほどの被害が出たことがあったのよ」
街1つって、どれだけ獰猛な魔獣を飼おうとしてたんだろうか。
そんなことがあったから魔獣を連れ歩くことを禁止したんだろうな。
「で、俺らが今回追ってる違法ハンターの竜の蹄が、今そこにいるディメンション・ドラゴンを狙ってたって訳なんだよ」
「クウを……」
「連中は中々しつこいからな、今後も狙われ続ける可能性は高いぞ」
「ちょっと隊長、そんな言い方は無いんじゃないですか?」
「いや、ライノさんの話は一理あるな」
このまま野放しにしていたら、クウは今後一生あいつらに追われ怯えながら、生きていかなきゃいけなくなるだろう。
「で、そこで1つ相談があるんだが」
「?」
ライノは不敵な笑みを浮かべ、ある提案をしてきた。
「この先にある大きい街「ハルレーン」で連中が売買をしてるという噂を掴んでいてな。そこで、お前らを囮として奴らをおびき寄せるんだ。当然騎士団がお前らの安全は保証する」
「あえて無防備を晒すってことですか?」
ライノはそうだと言わんばかりの満面の笑みでこちらを見つめてきた。
「そ、そんなの危険すぎます!」
「危険なのはこれからの生活でも変わらねえと思うぞ。クウだってビクビク怯えて暮らすよりも、全部解決してぐっすり眠れた方がいいだろうよ」
確かにその通りだ。逃亡生活を続けるよりは、手掛かりのある今のうちに一気に叩いた方が今後安心して生活出来るだろう。
「分かりました。俺達は協力させてもらいます」
「そう来ねぇとな」
俺は、アマネの不安げな顔を横目に、ライノと固い握手を交わした。
クウも唸り声をあげてやる気は十分のようだ。
「さて、そうと決まれば街早速明日街に向かうぞ。朝早く行くから今日は早めに寝とけよな。アマネ、部屋へ案内してやれ」
「ありがとうございます!」
「了解です」
「クアァ!」
俺とクウは応接室を後にすると、アマネに客室へと案内された。
「灯君!何であんな無茶な作戦に乗っかっちゃったのよ!クウちゃんが心配じゃないの?」
「心配だよ。だからこそ、このままあいつらの好き勝手にさせちゃいけないのさ」
「まったく……。ホント男の子ってバカばっかりなんだから。分かったわ、こうなったら私も全力でクウちゃんを守るからね!」
アマネは大きく溜息をついた後、クウを守る為に拳を握っていた。
「ありがとうな」
「いいのよ、それよりもうすぐ夕ご飯だから早めに食堂へ来てね!」
「ああ、すぐ行くよ」
そうしてアマネは部屋を去っていった。
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