1章 1.自分で言うのもなんだが結構モテる
俺の名は竜胆 灯(りんどう あかり)。地方の田舎の学校に通う高校2年生だ。
唐突ではあるが、実は俺は自分で言うのもなんだが結構モテる。田舎暮らしではあるがそこで俺を見て寄ってこなかったやつは今までいたことが無い。
高校では飼育委員会に所属しているが、そこでの皆からの人気も凄まじいものだ。
今日も飼育委員の活動のため朝一で学校へと向かう。春の暖かい風がまだ寝ぼけている体を通り抜け、優しく目覚めさせてくれる。
飼育委員の活動は朝夕の2回で、朝はエサの交換と小屋の糞の処理がメインだ。
学校に到着するとまず自分の教室でジャージに着替えてから小屋へと向かう。
その小屋に向かう途中に倉庫があるので、そこで動物達のエサと糞掃除の道具を持って行く。
小屋に近づくと、動物達のいくつもの雄叫びが重なり耳に響いてきた。もう1年近くここに通っているが、こうして毎回騒がしく鳴かれ耳が痛くなるのだけはどうしてもなれない。
この学校では多くの動物を飼育している。その理由は山に囲まれた場所にあるせいもあり、たまに近くで捨てられたペットが学校に迷い込んでくるのだ。
そういった動物たちは野生の中で生きていくのは難しい。それに外来種なんかは日本の環境を破壊する原因にもなる。
そこで、うちの校長の動物好きなところもあり、数年ほど前から学校で飼育することになったのだ。
ただ、捨てられたペットを次々と受け入れていくうちに、今では何十匹もの動物が集まり気付けば小さな動物園が出来上がってしまったのには驚いたが。
動物達の種類は犬や猫だけでなく、鳥や爬虫類など幅広く飼育しているのだが、そのせいでまとまりが全くなくなっている。
やはりそれほどの数を飼っていると、初めの頃は動物の鳴き声で授業の妨害をしてしまう事も多々あったそうだ。
だから今では古くて使われなくなった旧校舎の裏に小屋が建てられてそこで飼育している。田舎で敷地の広い学校だからこそ出来た処置だろう。
ただ旧校舎の裏まではそれなりに距離があるので、鳴き声の問題はなくなったそうだが、毎日重いエサ等を運んで行くのは辛い。
でも俺だって動物は大好きだから、これぐらいの辛さなんて大したこと無い。そう、俺にとってはそれ以上に厄介な問題があるのだから。
そんな事を考えているうちに飼育小屋へと到着した。すると動物達は我慢の限界を越えたようで、皆小屋の中で暴れ回って狂ったように吠えていた。しかしこれはお腹が空いてエサが欲しいからではない。
俺は少しため息を着くとエサを変えるために、まずは犬小屋の扉を開けた。
その瞬間、小屋の中にいた犬達が、決壊したダムから水が溢れ出すように押し寄せてきた。
しかしこの犬達は俺の持っているエサめがけ手飛びかかってきた訳ではなく、明らかに俺目掛け襲い掛かって来た。
犬達の勢いにのまれうっかり押し倒されてしまうと、その瞬間何匹かの犬が抑えるように俺の上に乗りかかってきた。
耳元で様々な犬種の鳴き声が混ざり合いキンキンと頭に響く。
ある犬は俺の顔を舐めヨダレだらけにし、ある犬は俺の手や足を甘噛みし、ある犬は俺の頭上付近をけたたましく走り回る。
そう、俺はモテる。恐ろしい程に動物にモテるのだ。
俺が好かれるのはもちろん犬だけではない。猫にも鳥にも爬虫類にも、とにかくありとあらゆる動物に好かれるのだ。
なぜこれほどまでに動物に好かれるのか理由は分からない。生まれつき動物に好かれやすい体質だったとしか言いようがない。
結果、今回の様に上から覆いかぶさり、身動きが取れなくなるなど日常茶飯事なのだ。
俺は物心着いた頃から、家で飼っている小型犬にはいつも引っ付かれていた。
しかし。その時はまだ犬とは人に引っ付くそういう生き物なんだな、くらいにしか思っていなかった。
だが、外に出かける度に他の人の散歩している犬とすれ違うと、飼い主のリードを振り払ってまで俺に飛び込んでくるし、カラスやスズメなんかの野鳥は、俺の周りを囲むように集まってきて、肩や頭に乗ってきたりもする。
まるでどこかの浄土の仏様みたいな光景だ。
その辺りから、俺だけが動物に好かれていることに気付いてきた。
そしてこの体質のおかげで俺は動物達には無駄に好かれたのだか、残念ながら逆に人には気持ち悪がられ、ろくに友達も出来なかった。
ただ、たとえ動物でも好かれて悪い気はしないので、中学生あたりからこれからは動物達と共に生きていこうと割り切ることにした。だから、この高校の動物の飼育環境が気に入ったので入学したのだ。
前が見えなくなるほど犬たちに覆い被さられたところで、遠くの方から微かに人の声が聞こえた。
「竜胆君、大丈夫!?」
「ちょっ、すみません佐山先輩!助けてもらってもいいですか!?」
犬に覆いかぶせられ何も見えない状態だったが、微かに佐山先輩の声が聞こえたので俺はその声にしがみつく様に助けを求めた。
「ほら、みんな離れて!竜胆君が潰れちゃうでしょ!」
そう言いながら犬達を手で払い除けて、少し離れたところに餌を置いて距離を取らせてくれた。
俺を助けてくれた彼女は飼育委員の一員で、1つ上の学年の佐山先輩だ。
先輩と俺は同じシフトで月、火、水の朝番を担当している。
彼女もこういった光景には初めの頃こそ驚いてはいたが、今では動物達を引き剥がすのにもかなり慣れてきたようだ。
「ほらっ、しっかりして竜胆くん!」
佐山先輩は両手で俺の腕を掴み引っ張りあげてくれた。おかげで彼女の手を借りて、フラつきながらもなんとか立ち上がることが出来た。
「いつもすみません。ありがとうございます」
「まったく、1人で始めちゃダメっていつも言ってるでしょ!」
ムッとした表情で頬を膨らませ、呆れたように言う。
「動物達が待ってると思うとつい……」
「仕方ないわね。竜胆くんは動物が大好きなんだから」
佐山先輩は肩を落とし、やれやれといった様子で作業を再開させた。
「それじゃ、始めましょうか」
「はい!」
気を取り直し作業を再開させた俺達は、動物達に何度も邪魔されながらも、なんとか無事に作業を終了させた。
――
そうして放課後、夕方の当番ではない俺は部活もやっておらず特にすることもないので、自転車に乗り家への帰路についた。
家へは山を2つほど越える必要があり、歩くと2時間以上掛かってしまうため自転車で登下校している。
まだ日が沈むのは早く、のんびりしてたらすぐに暗くなってしまう。そうなると野生の動物達に違う意味で襲われてしまうので、急いで帰宅しないといけない。
しかし特急で家に向かっている途中、1つ目の山を下り始めた辺りで先の方にふと怪しいものを見つけた。
それは雪のような白い塊で、近づくにつれてだんだんとその正体が分かってきた。
俺はそれの前で慌てて自転車のブレーキを握りしめた俺は驚愕した。
白い体毛に明らかに2枚以上ある翼。そして鳥にはない猫のような手足。
目の前にいるその姿は明らかにこの世のものでは無かった。
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