たまたまドラゴンを拾ったら異世界に迷い込んでしまったので、魔獣を仲間にしながら乗り越えます
雨内 真尋
1章 プロローグ
激しい雨の降る夜、山道を歩くとある集団がいた。
彼らは真っ黒のコートに、フードを深くまで被っており、その肩には皆一様にドラゴンの蹄の刺繍が施されていた。
その集団の先頭を歩く4人はコートにそれぞれ、赤、青、黄、白のラインが入っている。
激しい雨が体を打ちつけ、目を開けられないほどの水しぶきが顔を覆う。
フードを深くまで被ってもその雨を凌ぐことは出来ず、濡れた体は体温を少しずつ奪っていく。
山の天気は変わりやすいというが、この雨はもう3日程前からずっと振り続けている。
この地域ではここまで雨が降ったことがない明らかな異常気象だ。
だが、この雨こそが彼らの目的には最も必要なことであった。
今朝、ある鉱夫が珍しい鉱石を求め洞窟を探索していると、偶然1匹のドラゴンを見つけたという情報を入手したのだ。
その情報を詳しく調べてみた結果、そのドラゴンは「ディメンションドラゴン」であることが判明した。
このドラゴンは別名「空間竜」と呼ばれ、その名の通り空間魔法を自在に操るドラゴンだ。
そのドラゴンの空間魔法は詠唱無しでの発動が可能でその規模も絶大、空間魔法において空間竜の右に出る者はいない。
空間竜の見た目は、雪のように真っ白な体毛を全身に生やして、その中にまるっとした、ルビーのように赤い瞳を宿しておりウサギによく似ていた。
ただし、ウサギのような長い耳はなく、その代わりドラゴンに相応しい翼がなんと6枚も生えている。
体長は物凄く小さめで、とても人が乗れるような体ではない。全長は尻尾を合わせても1mあるかないかくらいのサイズだ。
空間竜は特定の拠点を持つことがなく、その発見は非常に困難を極めていた。
そんな空間竜を発見することが出来たのは、たまたまこの3日間振り続けている雨のせいで身動きが取れず、洞窟で寝ているところを、採掘をしていた鉱夫に発見されたからである。
だからこそ、彼らは情報を入手した直後現地へと赴いたのだ。その洞窟は山の奥にある木々に隠れた小さな崖の下にあった。
洞窟内は、大きな道が一本あるだけの簡単な構造になっており、空間竜を見つけること自体は、さほど困難な事ではない。
しかし、先にドラゴンを目当てに来ている者が罠を仕掛けた可能性もあるので、警戒して白ラインの男が先頭を行き、慎重に歩みを進めた。
そうして進んで行くと、罠などは特に無く、危なげないまま一団はドラゴンのいる場所へとたどり着いた。
そこはドーム状の空洞のようになっており、そこに空洞よりも1回り小さな地底湖があった。
そして、その地底湖の中心に小さな岩が飛び出ていて、その上に今回のお目当てである空間竜を発見した。
空間竜は岩の上で安らかに眠っていて、一団に気づく様子は無かった。
赤ラインの男の合図で全員が湖を半分囲むように配置につき、両端の数名を除く全員が杖を構えた。
全員の準備が整ったのを確認した赤ラインの男は、腕を勢い良く下に振り下ろして合図を送ると、一斉に魔法が発動された。
一瞬の静寂のあと、空間竜のいた岩山を中心に激しい爆発音が鳴り響いた。岩山は一瞬にして砕け散り、土煙が舞い上がった。
「クアアッ!」
空間竜の鳴き声が洞窟内に響き渡る。爆撃を受けた空間竜は空洞の端まで吹き飛ばされ、その勢いのまま岩壁に叩きつけられた。
爆撃と叩きつけられた衝撃で傷を負った空間竜は、力無く地面に崩れ落ちた。
「今だ!捕獲班、奴を拘束しろ!」
そこへすかさず赤ラインの男が命令を飛ばし、先程待機していた両端の数名が空間竜に向かって一斉に走り出した。
20mくらいまで距離を詰めた捕獲班が次々に捕縛魔法を唱えると、杖の先端から薄紫に淡く光る網が飛び出し、空間竜の体に巻き付き体を拘束した。
……と、なる筈だったが、そこに空間竜の姿はなく、代わりに岩が捕縛されていた。
「くそっ!逃がすか、すぐにやつを見つけ出し捕縛しろ!」
赤ラインの男はすぐに次の命令を下したが、しかし空間竜が見つかることは無かった。
捜索も虚しく終わり 空間竜の捕獲に失敗したと諦めかけた次の瞬間、洞窟の天井近くから洞窟全体を震わすほどの咆哮が聞こえた。その咆哮の正体は空間竜。空間竜は一時隠れて傷の痛みが治まるのを待っていたのだ。
「グアァァァ!」
「いたぞ、捕縛しろ!」
空間竜を見つけた赤ラインの男は、すぐに命令を下し自らも魔法を唱えようとしたが、それよりも早く空間竜の魔法が発動し空間竜の背後に巨大な漆黒の穴が出現した。
巨大な穴は出現すると同時に周囲の岩、人、何もかもを吸い込みだした。その光景は、まさにこの世の全てを吸い込むブラックホールのようだった。
「くそっ!吸い込まれるものか!」
赤ラインの男は、大きめの岩の陰に身を隠しやり過ごそうとしたが、そう上手くいく筈もなく岩ごと巨大な穴に吸い込まれていった。
――
巨大な穴が全てを吸い込み消えた後、そこには何も残らなかった。空間竜自身も。
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