第2話 電車の中
俺って生きている?
瞼が動く。
目を開けて自身を見回すと、死ぬ前と同じ格好。
ボロ布同然のシャツとズボン。
今までと違うのは、空腹を感じないこと。
そして、目の前にはもう会えないはずの家族が寝ている。全員椅子に座って、右に傾いて寝ている。俺のいる場所は、電車の中。木でできた穴だらけの床板に、紐でできた棚。冬用のストーブが、火が点ていないのに置いてある。車内は、家族だけしかいなかった。目の前の窓辺にいるかあちゃんは、肘を車窓に置いて気持ち良さそうだ。
どこかで、こんな風景見たことがある。鼻の頭を掻いていたら、思い出した。
そうか。昔、動物園に遊びに行くときのオシャレなかっこうを皆している。遠足だって言って興奮していたっけ。
ゾウさん、俺よりデカかったら承知しねぇぞって。
そしたら、兄がまずは俺を越えてから言えよって言ってたな。頭を撫でられて怒ったら、父ちゃんのゲンコツが飛んできたな。
俺だけ場違いみたいだ。そういえば、爺さんが、家族の別れを告げろと言ってたっけ。そのために、ここにいるのか。
かあちゃん、起きてよ
俺たち生きてるよ
あれ?声が出ない?
声が出なかったからかあちゃんの肩を揺さぶろうと、立ち上がろうとしたが、立ち上がれない。まるで、足が粘着剤で固定されて動けなくされてるみたいだ。手は動くのに、肩に触れられない。
やっぱり、俺は生きていないのか。落胆した。
でも、死後の世界ならここは楽園か?あの爺さん嘘付いたな。
動くことを諦めて、考えていたときだった。
ズドドドドッッン!!!
ガッッガガガッッンンン!!
騒音がした。耳に響く。鼓膜が破けそうだ。思わず、耳を塞いだ。前を見ると、家族の反応はしていなかった。
今の騒音が、聞こえないのだろうか。
車窓から、首を出して外を見た。
外は、色んな色の糸が宙に浮いていた。紅、山吹、鶯色、藍色、瑠璃色。明るい色ではない。くすんだ色。風で旗が靡いているかのように、糸が動いていた。
電車の下は、路線があったが、他にはなにもない。
後ろを見ると、巨大な丸い石が電車に向かって転がっていた。ありえないほど多い。自分が、アリになった感じだ。
勢い良く転がっていく。
平坦な場所なのに。
電車に当たったら、どうなる?
また、死ぬのか。俺はこの世界に適してるって言われたのに。
焦りと不安で、俺は恐怖に陥っていた。
もう一度見ると、石が電車を通過していた。
そして、どんどん自分の方に近づいていた。
助かるかもしれないと、体を前に向き直すとかあちゃんが目を開けていた。口を開けて何か言っていた。
何を言っているの?
聞き直そうと思ったとき、
ゴッッドォォォオオオォンンン!!
石が後ろから来て、俺の体を通過して視界を邪魔した。
∆∆∆∆∆∆∆
「おはようございます!あなたの体は、無事通過しました。これで立派なイリュズィオンの住人です。」
もし天使の声を聞くなら、コイツが適任だと思う高い声が聞こえる。
また、理由のわからんことを言われた。真っ暗で見えないのに、下に落ちている感覚はする。深い、深い場所に落とされているような。
「では、✗✗✗✗✗の世界をお楽しみください。」
✗✗✗✗が聞き取れなかった。聞こえても、意味の知らない俺にはわからなかっただろうが。
アラタナジダイ、こんにちは まみそ @noda857simada
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