アラタナジダイ、こんにちは

まみそ

第1話 目覚めの悪さ

時は 第二次世界大戦後。


戦後の日本は、食料不足になっていた。満州国の終了で、人々が帰ってきた。金持ちだろうが、農家だろうが、生活困難。知っての通り闇市場の食料なんて、手が届くものじゃない。


まだ、はじめだった頃の俺には苛酷な生活だった。生きるために必死だった。


俺は、東京大空襲で家族を失った。俺が、学童疎開中に家族が逝ってしまった。学校で情報収集したが、家族が避難した目撃がなかった。そうして家に帰れば、灰の山。曽祖父が建てた立派な一軒家が見る影もない。門や柱があった跡なんて言われてもわからないくらいだ。 俺一人では、骨を探すことができない。かあちゃん、バッチャン、チビ達四人に、もう会えない。そして、父と三人の兄は棺桶の中。


十一歳の俺に、何ができるだろうか。


挙句の果てに、栄養失調で地べたに大の字になっている。寺から、逃げ出すべきじゃなかった。まだ、あそこには飯があった。我慢すりゃ良かった。あれから、殆ど食べてねえ。体が思うように動かない。触らなくとも肋骨が、浮いていることがわかる。

なんせ、山越えて東京まで来たもんだしな。


最後に、かあちゃんの味噌汁が飲みたかった。

バッチャンの梅干しが食いてえ。


あの世で、皆何してんだろ。俺一人置いていって、ズルいや。

向こうでも、 空はきれいかな。


あぁー

俺ここで終わるんかー

せめて、ここから……


俺は無数の流れ星を最期に見て終わった。街頭がない東京の夜は、見慣れない。案外、悪くなかったかもな。



∆∆∆∆∆∆


「そこのチビッ!目覚めろやー!」


嗄れた声にビビって起き上がると、爺さんが立っていた。周りは煙がかかって真っ白な世界だった。太陽なんてない。床が見えない。爺さんの頭が禿げてその光が、真っ白なローブをさらに明るくしている。余談だが普通は、眉毛が伸びて優しそうな顔になるはずなのに、それがこの爺さんにない。長い眉毛が、吊り上がっている。毎日逆立ちでもしているのだろうか。


長身でマジ威圧感が、ハンパない。

知らんが、気がついたら体育座りを俺はしているし。


「誰なんですか?用なく起さんでください。」


目を閉じようとすると、


「何じゃ?このバカ小僧!わしゃ、全能なる神だぞ!控えい、控えい」


いや、胡散臭い。仏は信じるが、見知らぬ爺さんを信じれるか。疑り深い目で、爺さんを見ていると、


「小僧に、チャンスを与えることを伝えに来たのじゃ。生を受けて僅かなのに、もうポックリ。勿体ないもんじゃろ?」


さっきまでの面白い表情が抜けて、爺さんの表情が読めなくなっていた。人を見透かす目付きだ。まるで、先生が生徒に叱るときのような。

目を逸らしたいのに反らせない。

体が硬直して動けない。

俺は生きたいのだろうか。他の兄弟のほうが…


「ハハァァン、他の兄弟のほうが生きるべきだと思っとるじゃろ?だがな、あの家族の中で小僧が、一番あちらの世界に適しとる。」


「あちらの世界?」


「左様、[イリュズィオン]という世界。まあ、小僧が住んどる世界ではない。」


「いるぅずぅうん?……それで、適してるって何が?」


「その世界に行ってみればわかる。楽しいか、楽しくないかは小僧次第じゃ。他のモノじゃ、生きていけんだろう。開花されていない才能が、その世界で発揮されそうだからじゃな。」


「言っていることがわからない。」


「そんなこと、どうでも良い。ともかく、生きるか死ぬか選べ。」


肝心な内容が、抜けている気がする。その時は、少し違和感を覚えていただけだった。家族の中で、秀でた才能がない自分に適した世界とは?……


「今は、どういう状況なんだ?死んでいるのではないの?」


「不安定な状況。死後はそこに何も無いぞ。」


簡潔に答えが返ってくる。試すような、弄ぶような真っ青な目が見てくる。一瞬悩んで、顔を上げた。


「まだ、生きたい。」


「トットとそう言えいっ!まずは、家族に別れを告げていけっ!」


爺さんが、指を俺の額に押し付けると俺の体が光り始めた。足先から、光の粉になっていく。


これから、どこに行くんだ?


俺は後に、この選択に後悔する。何でこう答えたんだ。一人で生きる孤独さに苦しむ。

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