第17話 化け物

「なんなんだ彼奴は…全く…水臭い」


そうエルザは怒っていますが…もう解っている筈です。


「エルザも解っているでしょうに…全部リヒトが背負ってくれた…そう言うことですわ」


「だからってこんなのは無いよ」


あの後、教皇様のサインの入った書類を貰いましたわ。


全ての義務から解放される代わりに、全ての特別な権限がなくなりましたわ。


◆◆◆


まぁ、それでも冒険者としてのSランクは残るから問題はない筈でしたが…


「えっ討伐の依頼は受けられませんの?」


「なんでだ? 可笑しいだろうが」


「そうよ…私たちはSランク冒険者なのよ」


「これは教皇様や諸国の王…そして勇者リヒト様の意思です、今後貴方達を一切の戦闘に関わらせない…それがリヒト様がこの世界を守る唯一の望んだ報酬です…ギルドは本来は中立ですが、殆どすべてのギルマスが感動されまして…今回初めて、個人の願いをきく事になりました…今後はもし誰かが襲われていても救護の義務もありません、見捨てて貰って結構です、その義務も免除します…その代りギルドは討伐の仕事も一切受けさせません…採取であっても危ない場所の仕事は一切受けさせません」


「ちょっと待って欲しいのですわ…それじゃ私達はどうやって生活すればいいのです?」


「生きていけないだろうが…ふざけるな」


「そうだよ、それじゃS級の意味ないじゃない」


「ハァ~ 元からあったリヒト様のお金は殆ど全て三人に譲られていますよ…それと今回のバルモンの討伐報酬のお金は、勇者パーティは本来譲られませんが、特別に教皇様達から貴方達の口座に振り込まれていますよ」


「そんな話は聞いておりませんわ」


ですが…口座の残高を見てみると私の口座には金貨8000枚(約8億円)も入っていました。


「何これ…金額がおかしいですわ」


「これ…なんだ…」


「とんでもない大金」


「これで解って頂けたでしょうか? 勇者であるリヒト様は貴方達を愛している…だから、一人で全てを背負って戦う事を決めた。そして世界がそれを認めた、もう貴方達は聖女でも剣聖でも賢者でも無い…どうか田舎にでも帰って幸せに暮らして下さい…これは私達ギルド職員もそう思っています。今までご苦労様でした」


「そうですか…もう私達は要らないのですわね」


「剣聖に引退もあるんだな」


「普通は無いよ…リヒトが凄かったそれだけだよ」


結局『戦う事』しか出来ない私たちは…その日から結局実質無職になりましたわ…まぁお金には一切困りませんが…


◆◆◆


ハァハァハァ…牛鬼の殺戮本能が表に出てきている。


殺したくて、殺したくて仕方が無い。


「貴様、何者だ…俺の名は魔戦大隊隊長ゾ…」


レベルが上がったから強くなった。


それはこの世界の理に適っている。


だが、本来の牛鬼の能力まで身につき始めているのは何故だ。


俺は今、攻撃を仕掛けていない。


ただ、此奴らを敵と認定しただけだ。


その瞬間に呪いに掛かり病に掛かったように血を吐きながら死んでいく…


それだけじゃない…


「貴様、大隊隊長の仇――っ ぐはっ」


当人には攻撃していない…俺はただ、そいつの影を攻撃しただけだ。


「貴様何者なんだー-っ、魔族なら魔族らしく…魔王様に従えー-っ」


「俺は…これでも人だ…人なんだー-っ」


「睨みつけるだけで呪いを発動させ魔物や魔族を殺す…それが人の訳ない…ハァハァ高位魔族の俺ですら油断をしたら意識が飛ぶんだ…まさか」


「まさかなんだ!」


「お前は…いや貴方様は魔王種…魔王様の一族なのでは…ないですか…ぐふっ…ぐぁぁぁぁぁー――っ」


沢山の魔物、魔族の死体が転がる中…何かを察したように、まるで忠誠を誓うように魔族が膝を折った。


「煩い..俺はそれでも..それでも人間なんだー-っ」


暴力を振るい、殺しているにも関わらず…魔族は決して俺と戦おうとしないで無言のまま死んでいく。


駄目だ…また目の前が真っ赤になった…


また、ただただ…赤いだけの光景が見える。


気がつくと俺はまた眠っていた。


眠りから覚めた時…俺の周りには恐らくは数万の魔族の死体が転がっていた。


俺の正体は…あはははははっ、牛鬼だ。


人でも魔族でもない…妖怪化け物だ。


◆◆◆


俺は偉そうな方から順番に首を斬り落とし収納袋に放り込んだ。


収納袋は持ち主の魔力によってその容量は変わる。


試しに首以外の体も放り込んだら…全部入ってしまった。


うふふふふっあははははっこんな魔力もう魔王…いやそれですらない化け物じゃないか?


俺は人間だ…


人間で居たいんだ…


ギルドに来た。


「勇者リヒト様…どうかされたのですか?」


「魔族の討伐をして来た…褒賞については教皇様に聞いて、その全額をエルザ、マリア、リタの三人に振り込んでくれ」


「解りました…それでは魔族の首を…」


「かなりの数がある、此処では無理だ」


「そうですか、それでは裏庭の方へお願い致します」


「解った」


裏庭なら流石に、全部出せるか…


「さぁどうぞ…」


「ああっ」


俺は収納袋から次々と魔物と魔族の死体を出していく。


「ちょっ..ちょっと待って下さい…裏庭が裏庭が全部埋め尽くされていく…そんな倉庫まで…一体どれだけ…あっあっあああー-っ」


裏庭とは言うが、大きさで言うなら前世で言う学校の校庭並みの大きさがあり訓練場もある、そこが覆いつくされていく。



「なんだ、この魔族の死体は…これは魔戦大隊隊長ゾルベック…まさか大隊事潰してきたのか…四天王は居ないが…魔族の四大大隊の一つだぞ…これは査定が大変だ、何週間掛かるか解らないぞ…一体何人でこれをしたんだ」


「マスター…それが勇者リヒト様1人です」


「お前…冗談はよせ、こんな事最低数千は…マジかよ…そんな事出来る奴は、最早化け物じゃねーか」


「マスターシィーッ、しーっ」


そうか…俺は化け物か…


「それじゃ…後は頼んだ…」


「勇者様…何処に行かれるのですか?」


「ああっ…魔族を狩りに行く…それだけだ」


三人への仕送りは…止めない…恐らくこれを止めた時、俺は本物の化け物になってしまう…そういう気がするからな…


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