第16話 救われた? 三人
幾ら探してもリヒトは見つかりませんでしたわ。
やはり、セレスを殺してしまったのはショックだったのかも知れませんわ。
あの時から様子は変わってきていました。
クズの様な性格は収まり…私達に対しても尽くすような感じに変わっていきました。
それは、悪い部分を消し去り…綺麗な部分が残った様感じさえしましたわね。
この青い宝石…私の事を考えて一生懸命選んでくれたのですね。
服にしたって良く似合う服を選んでくれたのが良く解りますわ。
『暖かい』
元からリヒトはカッコ良いのですが…
今のリヒトは、それに優しさが加わり、完全に私のドストライクになりましたわ。
だけど…だけどね…カッコつけすぎですわ。
『単独勇者』
なんて…
四人で挑んでも勝てない存在に一人で挑もうというのですか…
それは『死』しかありませんわ。
財産の殆どを私達に置いていく…
もしかして…ううん…今のリヒトなら絶対にそう…
『死にに行く』
そうとしか思えませんわ。
全ての責任を自分の命で償う為にたった一人で死の旅に向かったのですわ。
「行きますわよ、エルザ、リタ」
「何処に行くんだよ…リヒトの居場所は解らないだろう」
「そうよ、何処に向かったかの手がかりすらないんだから」
「だから、教会に行くのですわ…もし解らなくても聖女の私が依頼をすれば探して貰えますわ」
「そうだな」
「うん行こう」
私達は教会に向かいましたわ。
◆◆◆
「よくぞ来られました、聖女クラリス、剣聖エルザ、賢者リタ…貴方達の長い旅は此処で終わりました…今迄ご苦労様でした、たった今よりその任を解きます…これからは自由に生きるのです、街で暮らすも良し、田舎に帰るも良し、自分の夢を追いかけるのも良し…その全てに教会や国が手を貸しましょう」
「あの司教何を言われていますの…可笑しいですわ」
「まるで、旅をしないで良い、そう聞こえるぞ」
「あの…解任、魔王討伐にそんな事があるのでしょうか?」
あり得ない話ですが…まさか!
「リヒト殿が『単独勇者』を望みました」
「確かにその話は聞きましたわ…ですが、それがもし認められても魔王の旅から私達が離れるだけで魔族との戦いをする義務がある筈ですわ」
「確か、戦闘義務、それがある筈だ…それに私達はリヒトを探し合流するつもりだ」
「そうよ」
「その戦闘義務はもう無くなりました…勇者リヒトが命がけでバルモンと戦い…命がけの死闘の末勝利…その手柄と引き換えに『貴方達の戦闘に関わらせない未来』を望んだのです、これを教皇様と諸国の王が正式に認めました…これからは普通の少女としてお過ごし下さい」
「待って私はリヒトに…リヒトに会いたいのですわ…何処にいるのか場所を」
「それは出来ません、今の貴方は『聖女』ではない…それは勇者様が望んだ事です…教会も何処の国も、もう貴方達は決して戦闘には関わらせない…それが勇者リヒトの思いなのですから」
「そんな、リヒトが…」
「リヒトにもう会えないの…」
「個人的に言わせて貰います…命がけで愛して貰ったんですから、その気持ちを踏みにじらないで下さい」
『命がけの愛』
「命がけの愛…どういう事ですの?」
「バルモンとの死闘…いかな勇者すら逃げる相手の死闘です…如何に勇者リヒト様でも絶対に勝つなんて保証は無いでしょう、いえ負ける算段の方が高かったでしょう…貴方達を自由にしたい、その思いから…その死地に向かって、奇跡的な勝利を拾った…その思いを踏みにじらないで下さい」
そんな…そんな愛されていたなんて知りませんでしたわ。
それはエルザもリタも一緒ですわ。
「そんな、なんで…言わないのですわよ…グスッ」
言われてみれば様子が可笑しかったのですわ。
今迄、こんな高価な宝石なんてくれませんでしたわ…
服だって買って貰った事は無かったですわ…
食事だって…
これは『お別れ』を考えての事だったの?
命がけで愛されていたなんて…知りませんわよ。
「私…愛されていたんだ…あははははっ、私本当に馬鹿だわ」
「酷いよ…ちゃんと言ってくれなくちゃ…わかんないよ…鈍感なんだから…私」
「「「うわぁぁぁぁぁん、ヒク、グスッすんすんうわぁぁぁん」」」
「好きなだけ泣くと良いですよ…此処を去ったら『普通の幸せ』の中で生きて下さいね…決して勇者リヒトの気持ちを踏みにじらない様に」
今の私達には泣く事しか出来なかった。
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