第6話 108匹のボス、108枚のCD

 ライムお姉さん……もとい、ライムプロデューサーとの契約を終え、アタシは市役所ギルドの隣にある宿屋にいた。


 さすがにアタシの住む所やボーカルスタジオなどは即日用意不可というわけだ。


 まぁ話を聞いた感じ、「偶像ゆうしゃの誕生は占い師によってわかるが、どこに生まれたかはわからん」ってことらしいし。そりゃ準備できないわな。


 ライムPから支給されたタブレットをいじっていると(微量の魔法を使って動くらしい)、メールの通知が届いた。


「なになに……早速明日からボスを倒してもらいます。魔王の配下とされるボスは各地に点在して拠点を……その数、108匹……108!? 多くね!?」


 なんで煩悩と同じ数なんだよ、とツッコむ気力も湧かない数。


 こんな数のバケモンと、それより強い魔王が存在して、よく世界が壊れないね??


 いや、逆に考えよう。アタシは108枚のCDを出せる!


 108もあれば、アイドルにおける全ジャンルを網羅できるのでは??


 カワイイ系からカッコイイ系、トンチキな曲、ロック系、バラードや演歌だって。


「オールジャンルこなせちゃうアタシ……」


 想像するだけで楽しい!


 それは置いといて、メールの続きを読む。


「この街の南にある森にボスが一匹いて……ふむふむ、普通の人なら三日で倒せる……明日はキャンプ用品を用意、と」


 なるほど。よくわからん。詳しいことは明日、ライムPから聞けばいいか。


「つかれた~」


 ベッドにダイブして、デビューシングルの方向性はどうしようかなどと考えてるうちに、アタシは眠りについた。


 ……気づいたら、アタシはボスを倒して、またベッドにダイブしていた。


 いや、早すぎん????? はにゃ?????


 事の顛末はこうだ。


 朝、いつもの癖で午前五時(とおぼしき時間帯)に起きたアタシ。


 ランニングがてら、気持ちい~い朝の草原を散策していると、目の前になんかでっかいイノシシみたいなのが出てきた。


 当然、身の危険を感じて倒した。一撃だった。


 帰ったら、何やら慌てた様子の偉そうな人とライムPに詰め寄られた結果。


「ボスを倒していたぁ~??」


「さすがミイナさまです!」


 褒められて悪い気はしないけど、別にアタシが頑張ったわけじゃないし。


 なんだかなぁ、釈然としない気持ち。不正投票で一位になった、みたいな?


 活躍したいし注目されたいし褒められたい気持ちはあるけど!


 そんなこんなで、アタシinベッド、である。


「まぁでも、108匹もいるなら別に1匹くらい適当に倒しちゃってもいっか」


 と、楽観的なアタシ。


「きちんと実力で摑むから一位に意味があるのよ」


 と、ストイックなアタシ。


「寝よう」


 と、欲求に素直なアタシ。


 うーむ、悩ましい。とにかく一匹倒したことだけは事実なので、ライムPはウキウキで「デビューシングルは来週にでも発売できますね!」って言ってるけど……。


 そのとき、ドアが軽くノックされた。こんな時間に誰かな?

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