第4話 アタシは先を読む

 美少年は腹立たしげに地面を靴で蹴とばしながら、アタシに今回の転生について教えてくれ……その前にアタシは言う。


「魔王を倒すという話ならお断りね」


「なんでわかるんだ!」


 最近の子はね、普通にアニメ見るしラノベ読むのよ。(二回目)


「アタシはどこにいようと、アイドルになるの。それを邪魔するなら」


 すっと息を吸う。目をつむる。


「エマージェンシー! エマージェンシー! あたし♡かわいい注意報!」


「うわ、お前! 僕に向かって攻撃する気か!」


 ちょうどいい、ここで王道ふわふわカワイイ系アイドルの曲を試してやる!


「エマージェンシー!」


 歌い、両手でメイドさんがよくやるようなハートマークをつくる。


 身にまとう衣装が変わるのを感じる。メイド服をモチーフにしたフリフリの王道アイドル衣装! スカートは短く! 髪型はふわふわ栗色に!


「おい、まさか……」


 構えた両手のハートマークから、ほのかに熱を感じる。


 これは……ビーム撃てる系?


「ほんとぉに♡あたしはカワイイ! 即死しないでよね!」


 ウインク! 決まったああああ!


 ガールクラッシュから王道アイドルまでこなせるアタシ、天才すぎる……。


「お?」


 すぐそこに立っていたはずの美少年がいない。


「おーい?」


 呼んでみても、返事がない。ただのしかばねどころか、姿も形もないよ~。


 街行く人はアタシなんか見えないのか、完全スルーだし。


 うーん、どうしよっか。まぁ、お腹空いたし、ごはん食べたい。


「ふんふん~♪」


 鼻歌を歌いながら、そこらへんをほっつき歩くことにした。


 不思議なことに、さっきまでアタシに一瞥もくれなかった街の人が、アタシのことをチラチラ見てくる。


 あ、服がまた変わってる。だぼっとしたTシャツに、これまただぼっとした半ズボン。アタシが練習着としてよく着るような服装だ。足元はサンダルになってる……。


 髪の毛は触った感じ、さっきのガールクラッシュ系のときの金髪ショートボブになてるみたい。これで根元が黒になってて、プリン頭になってたら嫌だな……。


 適当にフラフラ、何をするでもなく歩いていく。


 うーん、一度どこかで休もう。


 異世界って言われなきゃ、本当に外国に旅行に来たみたい。剣や鎧を身につけた人はいないし、ファンタジーの世界の住人もいない。ここ、本当に異世界か??


 近くにあったレンガ調の建物に入ることにした。


「失礼しまーす」


 しっかりとした造りのドアを開けると、市役所のカウンター的な空間が広がっている。あれね、ギルドってやつでしょう。幸先よし! ここで仲間を募ろう。


「すいません、少しお尋ねしたいのですが」


 空いているカウンターの人に声をかける。優しそうな黒髪のお姉さんだ。


「はい、なんでしょうか」


「こちら、ギルド的なカウンターで合ってます?」


「ええ、合ってますよ。仲間の募集ですか?」


「あ、そうですそうです!」


 コクコクと頷く。よかった、合ってたみたい。


「では、身分証の確認をさせていただきますね。こちらにお名前を」


 バインダーをアタシに差し出すお姉さんの動きが止まる。アタシとお姉さんは、卒業証書授与で時を止められた人みたいに、バインダーを挟んで固まった。


 お姉さんの目線の先にあるのは、アタシの左腕のタトゥー(魔法回路)。


 そりゃ、そうよな。怖いよな、タトゥー。アタシも温泉に入れなくなるか不安だわ。


偶像ゆうしゃだ……」


 お姉さんがつぶやく。偶像アイドル


偶像ゆうしゃが現れましたあああああ!」


 なんだって?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る