第3話 アタシは理解する

 レベル0で攻撃力も防御力も、0? トリプルゼロ? 炭酸飲料なの?


「そう落ち込んだ顔をするな、これからが問題だ」


「アイドルにたとえると……歌も下手で踊りもダメ、ラップもできない人間がアイドルになるのは厳しくない……??」


「未経験からデビューした人だっているだろ。それは置いといて」


 ふと思ったけど、アタシたちいつまで道端でお話するんでしょうね。


「ミイナが所持するスキルはひとつ。アイドル概念、という名前のスキル」


 ふむふむ。アイドル概念??


「僕はすごく恐ろしいというか、ある意味で納得したのだが……」


「もったいぶるな」


「アイドル概念は、所有者が考える【アイドルと思うもの・こと】すべてに適用され、瞬時に発動する」


 うーん? よくわかんないね。


「ミイナの外見が一瞬で変わったのも、ミイナ自身がそういうアイドルになりたいと願ったからだ」


「なるほど、アタシがその気になればドームをここに建てて、五大ドームツアーを満員御礼で終わらせられるってこと?」


「ドームを建てるのは無理だな。だけど、たとえば」


 そう言うと、美少年は続けて説明する。


「手を銃の形にしてくれ」


「こう?」


 手で銃を作る。カメラに抜かれる一瞬で、こう、手を銃にして、バンバン! って撃つ真似をやる人いるよね。あれ憧れ。


「撃って」


「ばぁん」


 なんか出た。美少年は銃で撃たれた(?)のにもかかわらず、平然としている。


「それがお前の武器だ」


「うーん、アイドルとしての武器は求めてるけど、本物は求めてないんだよなぁ」


 めちゃめちゃ嫌そうな顔するね、この子……。


「……なんか、思いつくままに軽く踊ってくれないか」


「よかろう! じゃ、ガールクラッシュ系の衣装だし、IK先輩のREALIZEね」


 最近MVが公開されて、爆速で1000万再生いったやつだ。


「あいわなぁどぅいっ! でぃすだんすっ! えきさいとっ!」


 英語の発音については突っ込むな、勉強中だ。韓国語は少しできるけどね。


 アタシが踊ると、不思議と周りに光がこぼれる。これがアイドル概念?


「らいじんぐはいっ! はいっはいっ!」


 相手に殴りかかる直前のボクサーみたいに腕をかまえ、腰から上をぐねぐね回す。


 ボクサーダンス? なのよね、この曲の振り付け。どうしてこう、若干奇をてらうようなコンセプト持ち出しがちなんだろう、最近のガールクラッシュ系……。


「うん、オッケー」


 美少年に止められ、最後に決めポーズをして終わる。エンディング妖精がいつ来てもいいように、練習は怠らない!


「何してるの?」


 オーバー気味に肩を上下させ、激しく踊ったあとですよ感を出していると、美少年に不思議そうな目で見られた。エンディング妖精の王道じゃい。


「これ、見て。ミイナが踊ると、概念が攻撃するんだ」


「おお……半透明のボクサーがいる……」


 タブレット(どこから出したの?)の映像には、IK先輩のボクサーダンスをするアタシと、アタシの振り付けに合わせて動く半透明の何かがいる。


「幽霊なの? この人は」


「ミイナが動けば動く、影みたいなものと思っていい。お前が踊れば、そのテーマ? に合わせて攻撃するんだ」


「ほほう。今回はボクシングがテーマだったから、ボクサーなのね。じゃあ、王道アイドルの超かわいい系だったら攻撃できないんじゃない?」


「それは、頑張ってテーマを見つけるんじゃないかな。僕は知らない」


「辛辣だね……誰に対してかはわかんないけど」


「神に対してだよ。僕は神のおつかいで、こうしてお前を召喚したんだ」

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