目が覚めると・・・なんて王道展開は望んでない。

 どれくらい眠っただろうか。祐希はわずかに重い腕に、ああ、腕を下敷きに眠っていたのだと思う。それから、座りながら腕を下敷きにするなんて器用なことをしたものだとぼんやりと思う。ひとまず今はどのあたりか確認せねばとなんとか目を開く。

「・・・・・・くらい?」

 そんなはずがないだろう。もしかして開けていないのかもしれない。無理矢理瞼をこじ開けようと今度は腕を動かそうとする。しかし、それは何かに阻まれてしまった。

「待って、腕縛られてる・・・・・・?」

寝起きなのか、緊迫感からかかすれてしまった声は何とかといった様子で空気中に響く。 

優美ゆみのいたずらか・・・・・・?視界が暗いのも手がうまく動かないのも友人のいたずらだと思えば納得がいく。祐希は奥歯をぎりりと噛み締めた。たびたび仕掛けられることがあった彼女のいたずらは基本的にタチが悪い。顔面にパイ投げされたこともあったし、大の苦手な蛇のおもちゃを投げつけられたこともあった。そうだ、つい最近はゲームのシナリオライターの弟が異世界でアイドルやってたって嘘をつかれたっけ。とはいえ友人は悪い人間ではない。ここが電車の中ならば騒ぐと迷惑だ。ひとまず落ち着こうと深く息を吸う。それから遠慮がちに友人の名前を呼んだ。

「優美?」


「優美・・・・・・??」

 間を開けて呼ばれたそれは1度目よりずっとか細かった。祐希が冷静になればなるほど、落ち着けば落ち着くほどこの状況はのだ。柔らかかった座席はまるで地面のようだし、わずかに足を動かすとふくらはぎが腿の裏に当たる感覚がある。つまりは地面に座っているか、座席に無理矢理体育座りをしていることになる。祐希はスライドするように足を前へと動かした。そのまま地面に足がつくように一縷の望みをかけたのだ。


 ーザザザ


 結果は散々たるものだった。足の裏にはさっきと変わらない感覚。それから聞こえた音はまるで砂を靴で擦ったようなもの。つまるところは祐希は知らぬ間に地面に座り込んで縛られて視界を奪われていることになる。今までで最もタチが悪い悪戯ではないか。一瞬だけ憤りを感じるがすぐに友人が自分より小柄であったことを思い出す。持ち上げて運ぶのは無理ではないか?そう認識すると先ほどまであれほど冷静だったのに突如心臓が早鐘を打つ。混乱を極める祐希の耳にいくつかの足音と見知らぬ男の声が聞こえた。こぼれをちそうになった悲鳴を何割かだけ残った冷静な部分で食い止める。

「おいおい、まだ気絶してるのか?」

「薬使いすぎたんじゃないか?」

 きぜつ?くすり?耳慣れない言葉に祐希は心のうちで首をかしげる。そもそもこの男たちは誰なのだろう。

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