第12話

 横に倒されて重ねられた墓標に最も古めかしい製品が加わった。たった半年間だけ製造日の遅れたという理由でリサイクルショップに査定されなかった物があった。外装にほとんど傷はなく、冷蔵冷凍室内は持主の几帳面な性質を残した清潔な状態で保たれていたので、回収時にはすべての物が取り除かれており、こびりついた汚れや嫌な空気も残っておらず、新品を購入した時の生まれたての臭さもなければ、穏やかな冷気による多少こもった臭いがするだけで、次の人にも使ってもらえるように準備されていた。当然電源は入り、問題なく使える。持主が新しい製品を購入したという理由だけで、現役としてまだまだ活躍できる道具は電気用品安全法という理由で見向きもされず、半年遅く生まれていたら悪くない値で店に並び、誰かに使われていた可能性を持っていた。その軽量化された冷蔵庫の上に、やたら重重しい存在感の長生きした冷蔵庫は載っかった。

 冷蔵庫が古ければテレビも古く、東京オリンピックの映像も白黒で映じていた経験がありそうなダイヤル式は、黒いプラスチックの十四インチや十七インチのように海外へ輸出する業者に買い取ってもらえないので、冷蔵庫の隣のテレビ置き場には運ばず、混載ゴミを入れるコンテナの近くに置いた(たいみんぐ良ク昭和ノ雰囲気ヲ基調ニシタ居酒屋デモ開店スレバ売レルダロウニ)。この古いタイプと同様に買い取ってもらえない型もあり、ワイド型と三十インチを超す大型のテレビは外枠を外してから巨大な眼球のようなブラウン管を取り出すのだが、目玉同様に視神経の銅線が背部に束となって繋がっており、それらを切り外してから、混載ゴミのコンテナに入れて、柄の長いハンマーで思いきり叩くと、ガスが一気に放出するようにこもった破裂音で粉粉にガラスが飛び散る。見えない粒子が皮膚を傷つけるらしく、男はモニターを粉砕すると必ず腕や首にひりひりした痛痒を感じていたので、壊さずにコンテナへ放り込むだけの方法に変えていた。

 目立って大きい物を片付けてから、男と顎の長い男は四つの小さくない衣装ケースを用意して、ガラクタと呼ばれるであろう堆積物の崩しにとりかかった。食べ放題の店に来て、胃腸の働きが低下しているにもかかわらず、目の前に用意された数十種類の料理の芳しい匂いと、経験から判別された食指をそそる色と形に欲を引き起こされ、小学生のように手当たりしだい皿に載せてしかと咀嚼せずにがつがつと腹に詰め込んだせいで、上でも下でも出口はどちらでも構わないが、消化されずに地上へ戻された混交物は、男の会社の敷地内中央に存在する彩り豊かで雑多な集合物と似た過程を経ている。異なっているのは物が集められた時間の尺だけであって、たしかに持ち主の生活の支えになっていた物も多く存在するにしても、この様に混然となってしまえば、吐瀉物と同じだと男は見定めていた。この回収品が遺品整理だと知っていた。生存している者がこれだけ多様な物を一度に捨てるのと、親族に必要とされずに捨てられるのも、物にとっては捨てられることに変わりはなく、持ち主の生存を抜きにしてまだ使えそうな物がこうして生気を残し、発酵しそうな水分と糖分を保持して絡み合う絵図は、すでに慣れきったとはいえ同じ文句を頭によぎらせる(マダマダ使エル物ガ多イノニ、勿体ナイナァァ……)。男はいつも豊かな土壌を見つめて、それを形作っている素材を見て見ぬふりをしていた。手の平にも満たない一区画の肥沃な森の中の土に、頭が破裂する記憶のつながりが交差しているように、この吐き出された無用の集積物のこぶし大にも天からの指令によってそれを生み出した人人の意志と、背景に広がる者者からの必要性が垣間見えて、人類の叡智は大切にするのではなく、冷然にぶった切るのが現代のやり方だと諭すようだ。

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