第11話
電気ストーブ、ファンヒーター、炊飯器などから生えている銅線の尻尾をニッパーで切り離して(ドレモ型ガ古イ)、衣装ケースへ入れていく。電源コードを見える範囲ですべて集めてから、石油ファンヒーターのカートリッジタンクをそれぞれ二つ引き抜き、上下に振って重さを確認し、事務所の入口に置いてある赤いポリタンクに移して空にすると、小さな螺子や釘などの散らばるがらんとした鉄くず置き場に放り投げた。右手と左手それぞれに色と形状の異なるファンヒーターを持って、エアコンの集められた区画の隣にある電化製品のたまり場へ運んでいく。
プリント機能のみの重くないプリンターやファックス機能付きの電話機などは、敷地中央から放り投げられる。アイロンやドライヤーなどの小物は衣装ケースに入れられて、溜まると段段に重ねられていく。鉄製品に比べて電化製品は軽い物ばかりで、軽量化された薄っぺらなプラスチックで形作られたこれらは、バールで思いきり打ちつけたりすると、木材と違って水分を全く感じさせずに弾け飛ぶ。プリンターなどはほとんどプラスチックで形成されていて、電化製品の雑品として安い値段で買い取ってもらえるが、とても電化製品と呼べるほどの金属は含まれていない。一枚の金片が中に存在するだけで電化製品として扱われているような物だった。
敷地内に立つ旧式の冷蔵庫は一時代前の車のように無骨で丸みをもたず、現行の製品よりも燃費が悪く、電力の消費量は細部への運転に効率悪くあてがわれて多くなると見た目から判別できた。エンジンのかかりや動き出しは良くなく、今にも壊れそうでいて壊れず、そんな調子を保ってしぶとく生きる偏屈な一昔の人間のように頑丈だから、今の製品のように元気で活動しながら突然その役目を終えることは少なく、調子を崩しても修理ができて、長長とこの世に留まって人人の生活の助けとなっていた(コノたいぷノ冷蔵庫ハタチガ悪イ……、売レル見込ミハナイシ、重クテ仕方ガナイ)。男は暖かみのあるクリーム色の三段の冷蔵庫に対して、腰を落とし、両腕を一杯に広げて、北アフリカの大地に建つミナレットのように直立するこれに抱きつき、下部の四点の一つを軸に回して動かし、ブラウン管テレビが奥から整然と並べられている隣の冷蔵庫置場へ不格好な、力技による社交ダンスで移動していく──ソレハ古メカシイあるふぁべっとノふぉんとノ浮キ出シニヨル製造めぇぇかぁぁノろごガ前面ニ小サク貼リ付イテイテ、扉ヲ開クト、外観同様ニ型遅レノでざいんノ炭酸飲料水ガ孫達ノ為ニ沢山並ベラレテイテ、汗ト扇風機ト蚊取リ線香ニ絡メラレタ触手ヲ伸バスト、抹茶色ハべぇぇじゅガカッタほわいとニ変ワリ、雑然トシタ台所ノ暑サハ変ワラナイガ湿気ハヨリ強ク、三本ノ矢ノ飲ミ物ハ加糖サレタ蠢ク色ノでざいんニヨルあゆたやノ茶ダッタ──。冷蔵庫と一緒に回転運動をしていると、ふと男は古ぼけた巨体に不穏な雰囲気を読みとった。それはいつも行う確認作業を忘れていただけのことだが、古い年式による重厚への対応に気をとられてしまい、対面の一番に得た印象だけにとらわれて処理していたから、動きを止めて、冷蔵室を開けると、冬の常温は高くないとはいえ、確然とした視覚から増幅された異臭を放ち悪い意味で生前のだらしない持主の生活習慣が琥珀のように保存されており、プラスチック容器内の梅干しや大根の漬物はそれほど変わらず、トマトケチャップやマヨネーズは賞味期限の印字など意に介さない耐久力で平然としているが、豚の細切れはあきらかに腐っているとはいえない色の悪い状態にあり、開けられたままの牛乳パックは不気味にほくそ笑んでいた。野菜室の人参、葱、白菜は萎んでいた。ぎっしり詰められた冷凍室のシュウマイやチキンナゲットは何も変化がなかった。男は顎の長い男に不満を口にして、急いで衣装ケースを取りに走り、室内の物を手早く放り込んで、混載ゴミのコンテナにぶちまけた(悪イケド、中身ヲ出スノハ面倒臭イ)。まるで軽くならない冷蔵庫に再び抱きつき、回転を繰り返した。
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