二次元っぽい三次元に転生したがやっぱり二次元最高。



 俺はまごうことなきオタクである。二次元にハァハァ言う系のオタクである。二次元ラブ、二次元最高。俺のオアシスは画面の向こうにある。


 そして俺は何の因果か、前世というものを覚えている。厨二病乙wwwとか自分でも思うが、事実だから仕方ない。別に他人に話すつもりも信じてもらう気もないので覚えていても特に問題はない。


 そんな俺が生きているのは、大体前世と似たような世界だ。社会の仕組みとか一般常識とかはほぼ同一。それを残念に思う気持ちがないとは言わないが――ファンタジーやら特殊能力やらは永遠の憧れである――二次元がパラダイスであるという事実が変わらないのならそれはそれでOKだ。

 二次元はいついかなる時も俺の心を癒してくれる。そろそろ画面の向こう側に行く技術が開発されてもいいんじゃないだろうか。ほら前世とか転生(?)とかそういうのが起こってるんだからそういうファンタジーもアリだろう。



 しかし今世の俺の生きる世界は、ほぼ・・同一と言ったとおり、前世とちょくちょく違うところがある。その最たるものにして、最近の俺の懸念事項が『二次元っぽい』ということである。



 たとえば、実は血の繋がってないらしい姉(当然のように美人)が明らかにブラコンを拗らせていることとか。(純粋な家族愛だよなそうだよなそうだって言ってくれ)

 たとえば、お隣の家のたまにヤンデレの片鱗が見え隠れする幼馴染が毎朝毎朝家に押しかけてくることとか。(目が覚めたら数センチ先に顔が。とかどこのエロゲだ)

 たとえば、同級生にどこぞの財閥令嬢とやらが居て調理実習の時にうっかり餌付けしたら、それ以来「わたくし専属の料理人になりなさい!」とか追いかけてくるようになったこととか。(高飛車ツンデレに見せかけた腹ペコキャラだと最近悟った)

 学校のアイドル的クールビューティ系の先輩が巷に流れる噂と正反対のファンシー好きで甘い物好きなのを偶然知ってしまった挙句、何故かそれにまつわる愚痴を度々聞く役回りになってしまったこととか。(周囲のイメージの圧力って大変ですねだがしかし何で俺を愚痴相手にした)


 並べ立てればまだまだあるんだが、とりあえずそのせいで俺の二次元と触れ合う時間が減っているこの現状をどうすべきかが問題だ。学校でおちおち本も読めやしない。

 部屋にこもってゲームをしてたら姉と幼馴染が突入してくるのも日常茶飯事。俺鍵かけてるのに何でだ。

 放課後やら休日やらに本屋とかゲーム屋に行く予定が潰されるなんてザラだ。死活問題である。

 俺のオアシスが最近遠い。多分そのうち干からびる。二次元の嫁の笑顔に癒されたい。


 正直な話、二次元っぽい出来事がリアルに起こったところで、キタ━(゜∀゜)━!とかならないわけだ。少なくとも俺は。だって喜ぶ前に不審に思うだろ常識的に考えて。え、何この人たち揃いも揃って変なもんでも食べたのか、とか思うだろ。



 二次元の嫁はかわいい。愛してる。今生でもお世話になりますマジ癒し。むしろ精神安定剤。

 え? 人としてダメな域に足突っ込んでるって? 今更今更。前世から拗らせた二次嫁愛はダテじゃない。


 そんな俺にとって、特に嬉しくもなんともない三次元女子のアプローチ――しかも二次嫁との触れ合いを邪魔してくる――は、迷惑とは言わないが好ましくない。



 無論俺だってただ安穏と現状に甘んじているわけではない。日々彼女たちとの接触時間を減らすために努力している。

 ……努力はしていると自負しているんだが、何故か日々二次元との時間は削られている気がする。解せぬ。

 なんなんだ今生。というかこの世界か? やたらめったらギャルゲー的というかハーレム物的というか、なイベントが起こるのは気のせいじゃないよな。強制イベントフラグが立ち易すぎるだろう。


 例として、今朝からの流れを思い返してみれば。


 以前は毎日のようにあった幼馴染の目覚ましイベントを回避するために早起きをし(フラグは潰すものだ)、青少年の目に毒な格好で夜中にベッドに潜り込んできた姉に布団をかけ直してやり(夜中に拒否すると結果的に寝不足にさせられる)、前日から耳タコのレベルで姉からリクエストされていた朝食を作り(これは元々の習慣)、並行して弁当と同級生の御令嬢を誤魔化すための菓子を作り(残念気味の腹ペコキャラなので一時しのぎにはなる)、愚痴り予告メールを送ってきた先輩を宥めるための極甘スイーツを作成し、(無論先輩のストレス発散のため)、一息ついたところでインターフォンが鳴った。

 片付け中ですぐには対応できない俺より先に、恐らく鳴る瞬間までぐっすり夢の中だったはずの姉が目にも止まらぬ速さで玄関へと赴き、気づいたら恒例になっていた家に入る入らないの攻防を幼馴染と始める。朝から元気なことだ。

 すべての片付けを終えるまで続いたそれを「朝メシできてるぞ」の一言でとりあえずおさめて、朝食。ついでに幼馴染にはお茶を出しておく。幼馴染が家に来るのは、両親が仕事で滅多に戻らない我が家を心配したお隣さん家のご両親も推奨してしまっている。無下にはできない。


 そのあと車で送っていくと言う姉の申し出を断って幼馴染と登校し、その道中で御令嬢な同級生に絡まれたので菓子を渡して誤魔化し、どうにかこうにか教室へ。幼馴染とも御令嬢ともクラスが違うのだけが救いだ。

 着席するまでの挨拶の合間に時々からかいの言葉が挟まれたりもするが……今日もお熱いことでとか言われても。俺は別に二次嫁にはハァハァしても三次元の美人にムラムラはしないので、正直さっさとお似合いの人のところに行ってもらいたいくらいなんだが。というかそのフレーズは古くないか友人。


 授業中は俺の癒しの時間だ。一度前世でやった内容なのでそこそこ聞いているだけで理解はできるし、内職という名の読書をしていても邪魔が入らない。俺の内職スキルは日々磨かれている。


 しかしクラス一可愛いと評判の女の子が最近俺のことをやたら見ている気がするが気のせいだろうか。気のせいだな。先日日直が一緒になった日以来やたら目が合うが気のせいに違いない。というか気のせいじゃなかったらうっかり本人に向かって「ブルータス、お前もか!」とか言ってしまいそうなんだが。むしろ言って変人認定された方が心の平安的にはいいのかもしれない。


 休み時間も度々我がクラスを襲撃してくる幼馴染と御令嬢を適当にかわし、昼休みに一緒に昼メシを食おうとする彼女らから友人づきあいを理由に逃げて、放課後。


 幼馴染は部活、御令嬢は生徒会に入っているので、そっちの活動がある日はちょっとだけ俺の安息が近づく。まあぼやぼやしてると強制同行させられたり一緒に下校する羽目になったりするわけだが。


 しかし今日は既に放課後の予定は決まっている。

 まっすぐに行きつけのゲーム屋に向かいたいところをなんとかこらえて、最近もっぱらクールビューティ系(他称)先輩の愚痴聞き会場となっている元茶道部部室へ。

 本来鍵がかかっているはずのそこは、最後の茶道部部員だったという先輩が持っている合鍵で開けられている。なんでも部室の完全な片付けのために渡されたものらしいが、それをこんな理由で使っていいものか。いやよくない。反語。

 しかしそのあたりをつっこむと愚痴が二倍三倍に増えそうなので口にはしないことにして、今日もまた首振り人形兼お茶汲み係に徹する。作った極甘スイーツもあの人一人で食べるし。胸焼けしないんだろうか。 

 そもそも俺が真面目に聞いていようがいまいが先輩は愚痴るわけで、意見を求められることなんてない。「はぁ」「大変ですね」「とりあえずお茶をどうぞ」のバリエーションで愚痴聞き役は成立するんだから、誰か心から先輩にお近づきになりたい奴がいたら喜んで立場を明け渡したい。

 誰かいないかそういう情熱のある奴。そっちの方が熱心に話を聞いてもらえて先輩も嬉しいだろうに。


 どうにか先輩の気が済むまで話を聞き終えれば、今度こそ自由な時間だ。……まあ日によっては幼馴染に捕まったりご令嬢に拉致られたりするわけだが。


 運良く他の誰にも捕まらなかったので、心中ではスキップ、実際は競歩の勢いでゲーム屋に向かったわけだが――その道中、ツインテロリ美幼女がこてんと転ぶところに出くわした。あざといさすが幼女あざとい。……しかしこんな美幼女でもくまさんプリントのかぼちゃパンツとか履くのか。ギャップ萌というべきか否か数秒考え込んでしまった。(弁解するが、決して見ようとして見たわけじゃない)

 イエスロリータ、ノータッチ。俺は二次元はともかく三次元で幼女にハァハァするタイプではないし分別のある紳士なので、助け起こして簡単に傷の手当てをしてあやして宥めて保護者が来るまで待って別れた。

 保護者がなんか見覚えあったような気がするのは気のせいということにしておく。我が校の清楚系黒髪ロングのカリスマ持ち生徒会長だったような気もするが気のせいだ。フラグ? そんなもの無い。

 保護者を待ってる間にツインテロリ幼女がキラキラした目で「王子様……!」とか呟いていた気がするがやっぱり気のせいだろう。



 それよりもゲームだ。俺の新しいオアシスが開拓される予定なので、是非とも今日中にプレイしたい。昔は現代モノの方が好きだったが最近はもっぱらファンタジーだ。今世は前世にあったゲームや漫画ももちろん出るが、前世に無かったものもちらほら出る。まさにパラダイス。


 いくら現実が二次元っぽくなったからといっても所詮三次元。やはり二次元には敵うまい。二次元ではフラグ立てが難解でも逆に簡単すぎてもそれはそれで楽しんでキャラを愛でられるが、現実では乱立するフラグなど迷惑以外の何物でもない。二次元から強制的に遠ざけられるなんて拷問すぎる。



 どこかに俺と二次嫁との蜜月を応援してくれて、ついでに姉やら幼馴染やら御令嬢やら先輩やらとのイベントを逃れる口実になってくれる女子はいないだろうか。できれば俺と同類がいい。二次に魂を捧げてるオタクで、別のフラグは立たせたくないので目立たないフツーの容姿で、無理だろうが前世記憶持ち。

 前世に関しては、吹聴するつもりはなくとも「なんだこのエセ二次空間www」とか言って一緒に笑ってくれる人が欲しいってだけだが。この状況はネタにすべきだろうむしろするしかないだろう。まあpgr的な笑いなんだが。


 まとめると、二次元への愛を拗らせた人間にリア充は無理だってことだな。よくて共犯者。無論二次元愛同士という意味で。

 もうこの際二次ラブで親しくなっても不特定多数からの嫉妬による死亡フラグが立たない人物なら誰でもいい気がしてきた。……いややっぱり誰でも良くはないな。同じ空間にいてストレスにならないのは最低条件だろう。二次元を愛でるためにも。

 ……うん? なんか同棲相手の条件っぽくなったな。いや偽装家デート(という名の二次嫁とのデート)は絶対するだろうし必須だろってだけなんだが何でだ。


+ + + + + +


そんなことを思いながら足を踏み入れたゲーム屋で、まさしく二次元ラブのオタクでnot美形で前世記憶持ちの女子と運命的(笑)な出会いを果たし、現在の境遇についての愚痴をひとしきり言い合った挙句に利害の一致により晴れて偽装恋人になるとはまさか思いもしなかったが。

ついでに双方のハーレム要員入り混じってのカオスな修羅場を形成することになるとも思わなかったが。


でもまあそれは、別の話である。

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