転生先が二次元みたいな三次元だったけどエンジョイしない人達(二次元愛)の話。

空月

本編っぽいもの

逆ハー補正お断り。



 いわゆる逆ハーレムという状況を、夢見たことはある。というか日常的に画面の向こうで堪能してるし。イケメンおいしいです。乙女ゲーは私のバイブル。

 いかにもな正統派キラキラ美形も派手ではないけど整っている系の陰のある美形もなんでもおいしくいただけます。最近は泥臭く渋いオッサンとかもイけるようになりました。二次元ならね!


 だがしかし、現実にそれはいらない。マジいらない。

 なんでそんなこと大真面目に言うのかって、何の因果か二次元っぽい世界で逆ハーレム補正を得てしまったからだ。



 さて、詳しい話をする前に、ちょっと私について話そうと思う。


 私にとって、今は二度目の人生だったりする。少なくとも、記憶にある限りは。

 つまり、私には前世の記憶がある。二次元ではわりと見る設定だったけど、まさか自分に起こるとは思ってなかったから最初は驚いた。

 っていうか赤ちゃん時からその記憶も意識もあるってどうなの? ないわーマジないわー。体と意識のバランスがどうとかそういう理由かは知らないけど、超ひ弱っ子だったんですけど。ちょっと本気出して考えると頭オーバーヒートするとかないわー。

 おかげで超ストレス。ひたすらぼんやりしたり寝たりしてしのいだ記憶しかない。


 それからちょっとしたらあんまりぼんやりしなくても普通に生活できるようになったけど、多分自我が芽生えるころだったのかな。まあその辺は過ぎたことだしどうでもいいとして。


 二度目の人生の舞台は、ぶっちゃけ前世と大して変わりなかった。文明とかそういうのの点において。 いや私にとっては嬉しかったけどね? 何せ前世好きだった本とかゲームとか普通に存在してるわけだし。心のオアシスたる二次元が無かったらうっかり絶望して死んでたかもだし。


 え、二次元への愛をこじらせすぎだって? 仕方ないよ、いくら変わりないって言っても前世の知り合いはいないわ家族ももちろん前世と違うわむしろ変わりないのは自分くらいってのはわりときつかったんだ。

 そんな中前世好きだったものが今世にもあるとか知ったらのめり込むだろ常識的に考えて。


 そんなこんなで心の支えも得て特に問題なくすくすく育っていったわけだ。家族との仲もまあ良好だったし。というか気づいたらなんか溺愛されてた。多分末っ子で唯一の女で尚且つ(エセ)病弱っ子だったせいだと思われる。


 でも歳を重ねるごとにアレ?って思うようになってきたわけですよ。

 だっていくら前世の記憶があるからって、顔まで全く一緒ってなんか変でしょ。どうせなら美少女だったらなーって思ったよ思いましたよ今生の家族が美形ぞろいだから尚更ね! むしろ橋の下で拾われたんですかって訊きたくなるレベル。


 で、ここって現実っていうかどっちかっていえば二次元に近いんじゃね? って思い始めたのは中学くらいの時だった。うんつまりショタが二次成長を経て少年になるあたり。美少女が大輪の華として咲き始めるあたりと言い換えてもいい。


 要はありえないくらい周囲の顔面偏差値が高かったというわけよ。なんのいじめかと思ったよ。マジ異世界だと思ったね。もう種族が違うんじゃねって思ったね。



 で、だ。

 ちょっぴりやさぐれたあとに開き直って、前世と同じくオタクライフ満喫して数年経って、恐怖の逆ハー補正がかかったわけだ。

 何が恐怖かって思う? 思うよね。私も当事者じゃなかったら思ったさ。

 でもさ、よく考えてみてよ。


 コミュ能力とかオタク間でしか発揮できないような底辺オタクがうっかり校内アイドルと人気のない図書室とかで二人きりになって、もちろんオタクだから気の利いた話題もふれないしむしろ同じ空間で同じ空気吸っててすいませんって言いたくなるような顔面格差をひしひしと感じて無言耐久レースかよって感じにひたすらに無言が続くっていうのを両手の指じゃ足りない位繰り返して、度々そのアイドルを探して現れる人間に突き出すのもアレだしと思って適当にごまかして、その挙句に「……あんた、何も言わないんだな。俺がここによく避難するっての、全然噂にならないし。誰かが探しに来ても、ごまかしてくれるし。何も聞かないでくれるから俺は助かるけど――変な奴」とか「……なんか、あんたの傍っていいな。安心できる」とか言われて何故か距離が(物理的に)縮まっていって、挙句の果てに「なあ、あんたが迷惑じゃないなら、だけど――その、今度映画付き合ってくれない? いや、ペア招待券もらったんだけど、一緒に行くような奴が思いつかなくて。あんただったらいいかなって」とか言われたらどうよ。

 怖くない? 明らかに勘違いしてるよ安心されてもこっちはちっとも心が休まらないよって思わない?


 偶然が偶然を呼んで顔見知りになった完璧超人みたいな生徒会長様に「自分を飾らないんだね、キミは」とか目が潰れそうなキラキラ笑顔で言われてもそれただの怠惰だから不精だから女子力低いだけだから! ってならない?

 そりゃあなたに近づく女子は外見にも手ェ抜かないし社交性抜群の人ばっかりだろうけど、だからって物珍しげに興味持たれても困るんですよ! 主に周りからの嫉妬的な意味で!

 もう何しても肯定されるわけよ。ほめ殺しだよほめ殺し。羞恥心煽って恥ずか死にさせるつもりなのかと思うよマジで。


 しかも出会うイケメンが本当多種多様でキャラも濃いんだ……。顔面偏差値が高い今世においてでも飛びぬけてる容姿なのは当たり前、生まれてくるときに神様から二物も三物ももらってきたんですかってくらい才能に溢れてて、生い立ちとかでトラウマだのなんだのはあるけど根は善良。なんなのそのハイスペックっぷり。前世から引き続いての凡人に喧嘩売ってるの? イケメン爆発しろ。


 っていうかなんなの? トラウマ解消イベントとか日常的に起こりうるものなの? というか何ゆえ通りすがりの女生徒Dみたいな私にそんな話しようと思った。気分? 気分なの?


 とりあえず俺様系男子は当たり前みたいに人を拉致るのを止めていただきたい。犯罪だから。私が訴えたら多分負けるよ? 善意だってわかってるからしないけどさ。

 でも私別に高級料理とか興味無いんで。最新式のホームシアターとかヘリコプターでの空中散歩とかも興味無いんで。

 初めて百均入ったときとかファーストフード食べた時の反応は面白かったけど、正直価値感違いすぎてマジ別世界の人間だわー。


 他にもいろいろいるけど、共通してるのはみんな外見だけでも女が釣れて、中身のスペックでも女が釣れて、むしろうっかり男も釣れそうなくらいの人誑しスキル保持者で、かつ何故か私に好感を抱いているということだったりする。



 で、周りから見ればなんであんなダサいのが構われてんのふざけんな、ってなるわけよ。こっちが聞きたいわ。

 それでやむにやまれずオシャレとかがんばらなきゃならなくなって、それに家族が歓喜して悪ノリして、その結果の産物に奴らが私の新しい魅力(非公式)にまた褒め言葉を垂れ流すわけ。ツンデレもいるけど外野じゃなく当人に透けて見えるツンデレはなんか違うよむしろ恥ずかしさはピカイチだよ。



 なんの罰ゲーム? って感じだよ本当。二次元に生きるのに何の不満もないのになんでこうなるって言いたい。相手がいないから言えないけど。直接的なこの状況の原因がいるならまださぁ……。


 かといって、んなこと愚痴れる相手がいるわけないし。共感を得るには前世の記憶があって前世と同じ容姿(not美形)で尚且つ二次元愛のオタクでないとならないんだよ? いるわけないよねー。

 でもそろそろストレスでハゲそう。今いるの二次元みたいな三次元だけど二次元がいいよやっぱり。二次元に逃避したい。でも逆ハー補正はいらない。アレなんか矛盾してきた?



+ + + + + +


まさか脳内で愚痴ったその翌日、前世記憶持ちで前世と同じ容姿(not美形)で尚且つ二次元愛のオタクな男子に出会って意気投合して愚痴り合った挙句に偽装恋人になるとは予想もしてなかったけれども。ついでに双方のハーレム要員入り混じってのカオスな修羅場を形成することになるとも思わなかったけれども。


でもまあそれは、別の話。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る