終わりのない宇宙旅行

小糠雨

第1話

本日、私は宇宙船に乗り込み、はるか向こうの星に向けて、発射された。

目指すのは、人類が移住する予定の星で、調査と、サンプルの持ち帰りが主な任務らしい。

どれくらいかかるだろうか。

何ヶ月かなぁ。

クリスマスまでには帰れるかなぁ。


今日は、ほかのメンバーと共に、トランプをして遊んだ。昨日も、一昨日も同じことをしたと思う。明日も、明後日も同じことをするのだろうか。

実に暇だ。


今日は、隕石の衝突を、危ないところでかわした。

ひさびさに、本気を出して行動をしたと思う。




「おい、こんなもん書いてんのか? 面白いか?」

名前も知らない乗組員のうちの一人が、そんなことを聞いてきた。

「船だって航海日誌をつけるだろ?それと同じさ。」

おれはそう答えた。

「でもよ、航海日誌だったらどこどこの海域をどの方角にとか書くじゃねぇか。今どっちへ向かってるよ」

「知らねぇよ」

そんなどうでもいい言い合いをしていた。

「うるせぇよ、若けぇの」

この船の最年長-見たところ70は超えている-がそんな声をあげる。

彼はいま、ヘッドホンのような機器をつけて、地球と交信していた。


「おいお前ら、よく聞けや。今日で出発から10日がたった。あと何日か以内に、コールドスリープにはいれ。だとよ」


「まじかぁ、さみしくなるなぁ」

「寒そうだな。」

そんなことを口々に言い合い、そこで初めてそれぞれの身の上話を始めた。

それまでは名前までも言うことを躊躇っていたんだ。


そんな中、おれは、コールドスリープを起動する役目があったもんだから、その仕事を淡々とこなしていた。


そして、皆が話し終えた頃、ひとり、またひとりとコールドスリープの中に入っていった。


「じゃあ起動するぞ?いいな?」


そんなふうに聞きながら、全員を凍らせていった。


名前も知らない奴ら。

もちろんあの年寄りも一緒だ。


そこにある全ての機械が、順調に作動しているのを確認して、私は通信室に入った。


地球へとコールドスリープの完了を伝えるためだ。


「こちら宇宙船だ。仕事は終わったぞ、俺もコールドスリープに入ってもいいか?」


帰ってきたのは、自動の音声と、ディスプレイに表示されたデータだった。



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佐藤邦彦 28 強盗殺人 判決:追放

伊藤匠 48 放火殺人 判決:追放

源 隆二郎 78 1家殺人 判決:追放


岩本俊介 24 連続殺人 判決:重追放



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最後のは、私だった。

この船に乗っている全員が、人を殺したりして、「追放」という罪に決まっていた。

これだけで十分、絶望感に支配された。

報告書はまだ続いた。



______________________________


昇華 元年 死刑の撤廃、それに変わる罪として、追放刑を制定。

罪を犯したものの記憶を1度消去し、そのうえで船にのせる。


昇華 2年 刑の苦しみを無くすため、追放刑対象者は、外からのみ操作可能なコールドスリープを用いて冷凍。

尚、重追放刑に当たるものは、人を苦しめたぶん、多くの絶望が与えられる。


______________________________


つまり、君は、たどり着くことの無い星を目指して、命が持つ限り、進んでくれたまえ。


一言だけ、自動音声では無い人の声がして、通信は打ち切られた。

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