第6話 夏やさい

気温37℃、湿度60%。こんな暑さの中鳴いてるセミはすごいと感じる。自分がセミならば、ミンミンと木で鳴いてる間にぽっくりあの世に行くだろう。こんな日にお散歩なんてしたら、帰った時の姿は干物みたいになってるだろう。とても外に行く気にはなれない。


「今日も暑いらしいな、嫌になっちまうぜ」

「しょうがないですよ。夏なんですから」

「まぁオレは外に行くことはないから関係ないけど」


純さんはあまり外に出る人じゃない。よく部屋にいる印象で、5日間ここに居させてもらっているが買い物にいくような様子はない。そう思うと少し不思議だ。いったいこの人はなんだろうか


「純さんってなんで外に出ないんですか?」

「あぁ、一週間に一回に買い物行って買い溜めしてるのよ」


だからあまり出ないのか。しかし、父親は50ほどだ。この純さんは父親より少し若い様子だ。仕事とかはどうしているんだろうか?外に出ない仕事をやる人はあまり多くない。仕事はどうしてるのだろうか


「オレのこと気になる顔だな。ニートだよ、親の遺産暮らしってところ。他に歩道橋が近くにあるんだけど、貸してる訳。そういう土地代とかね。暮らせるよ、よっぽど遊びにお金を使わない限り」


そんな人がいるのか。目の前にいる叔父は今までで出会った人で初めて会うタイプの人間だ。働かないで親もいないで普通に生活することができるとは思っていなかった。少し特殊な人間かもしれない


「知らなかったです」

「良いんだよ、変なおじさんだろ?」



声が聞こえた。そして戸がガラガラと開いた。現れたのは、里子ちゃんだ。そして隣には180cmほどありそうな男の人がいた。一体どういう状況なのだろうか。僕は少し理解ができなくなった。


「どうしたのよ?」

「ちょっと里子の件でな」

「え?」


純さんはギロリと鋭い目線で僕に向けてきた。でも、そんなおかしなことはしてないはずだ。僕はただ一緒に遊んだだけなのに、もしかして無自覚に嫌なことをしてしまったか?頭の中がパニックになった


「う〜ん、えっちなことでもしたの?」

「違うよ純。お前はいつになっても、高校生みたいだな。野菜を取りに行こうかなって話に来たんだ。ほら、その子の思い出作りにさ」

「嫌だ、外は暑い」


即答だった。僕は興味があって行きたい気持ちになったが、純さんは嫌そうな表情が全面的に出ている。元々、外に出ることが好きじゃないのだろうか。確かに暑くて出たくない気持ちはよく分かるが、そこまでして嫌なんだろうか。


「外に出たくないなんて言うなよ。オレは毎日、外に出ているぞ!」

「へぇ、そりゃあすごいや。オレもオヤジの手伝いやらされたよ」

「おじさんもやってたの!?毎日ごろごろしてるだけだと思った!」


純さんはしょうがなさそうにため息をついて頭を片手で掻きむしりいながら、よっこいしょと言い立ち上がった。すると下駄箱から長靴を取り出してサンダルから履き替えた


「おじさんはなぁ、生まれてからずっと無職じゃないんだぞ。さてと、言われてみればそうかもな。手ぶらで帰るのはなんか違うよな。よし、行こう」







きゅうりにナスやオクラ、そしてトマトなどの色鮮やかな夏野菜が植わっている。畑で野菜が植わっているのをまじまじと近くで見るのは初めてだ。すごく新鮮でドキドキする。都会ではない経験だ。


「すごい、野菜が植わっていますね」

「なんだい、野菜は空から落ちてくるものでも思ったのかい?」

「ねぇ、一緒に取ろうよ。まずはキュウリ!」


里子ちゃんは僕の手を掴んで野菜のところへ走っていた。地面はふかふかとしていてこけそうになりそうだ。里子ちゃんと目が合うたび、目をキラキラとさせて輝いている。なんというか、どこか落ち着く感じがする。ドキドキする感覚もある


「どうしたの、私のことをジッと見てさ。私のことが好きになったの?」

「いや、なんというか。キレイだね。君って」

「え、私が?嬉しいな」


どうして、そんなことを言ったのだろうか。でも分からない。楽しくてドキドキとする。このドキドキは新しい発見に会う時の感覚とは少し違う。なんだろうと疑問に思うが、答えは自分ですら分からない。


「キュウリを採ったから、次はトマトね!」

「うん、分かったよ」

「今日の渡くんってどこか違う感じ。でも、渡くんって面白いよね。私の話をマジメに聞いているし、なんでも興味津々な顔をしているからさ。そういうところ好きだよ」


褒められたのだろうか。僕に向かって笑顔を見せてくる。里子ちゃんはかわいいらしいと感じた。あまり女の子に対して、そういった気持ちを寄せたことない。こんなに自然に思えたのが少し不思議だ。


「かわいいね、里子ちゃんって」

「私が!?えっと、なんだろう。今日は褒め上手だね、私も少し分かんないな」

「二人とも、こっちに来てくれ〜!」

「呼ばれちゃったね。あとで遊ぶお話しようよ!」


里子ちゃんは元気よく返事をして、走っていた。僕も追いかけて走った。そして里子ちゃんが大笑いしている。僕も笑った。それがなぜかは分からないけど、幸せに感じた



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