第4話(最終話)
ショートストーリー 「ある記憶」最終話
この目眩の記憶は、何回も見れば何かわかってくるのだろうか。毎日あるわけでもなく、いつ起きるかもわからなかった。早く解決してスッキリしたいな。ミロ、教えてよ!…
「美優(みゆ)さん、今日飲みに行かない?」
同期の佳織さんが珍しく誘ってきた。きっと彼氏の話かな。最近彼氏ができたって言ってたから、のろけ話かもしれない。遅くならなければ少し位はいいかなと思った。
「いいよ。」
「良かった、今日は定時に上がれるの?私は大丈夫だけど」
「私も大丈夫よ。」
「ありがとう!じゃ、また後でね」
その日の仕事も、問題なく終えて、佳織さんと、以前行ったことがあるお店に入った。居酒屋のわりにオシャレなお店で、私たちは個室に案内された。少し薄暗い所がとても雰囲気が良くて二人とも気に入っていた。
「美優さん、ごめんね、急に誘っちゃって。実はね、」
そして、やっぱり彼氏の話が始まった。最初はのろけ話かと思っていたら、なんと相手は奥さんがいて、どうやら遊ばれているのではないかという内容に変わってきた。これはマズイな、早く帰る事ができないかも…
二軒目に誘われ、断りきれずに行くことになり、結局帰りはかなり遅くなってしまった。
嫌だな、また怖い思いはしたくないな。
佳織さんと別れてから、電車に乗りいつもの帰路についた。アパートが近づいてきたその時、何か背筋に悪寒が走った。後ろ?
振り向いてみたけれど何もない。前も、特に何も見えなかった。気のせいかな、佳織さん長い話に付き合いながら飲みすぎたのかもしれない。
しかし、何も起こらずに、無事に部屋に辿り着いた。玄関を開け、素早く中に入って鍵をかける。
「ただいま」
「ミロ?」
…
ミロが来ない…何かおかしい…
「ミロ、何処にいるの?」
靴を脱ぎ、駆け足で中に入る。
窓際に行き、カーテンの裾あたりをめくって探してみてもいない。窓が開いてる?閉め忘れたのだろうか…
その時、
部屋に、男がいた。
見たこともない男が立っていた。
言葉が出ない。
助けを呼ばなくては。
近づいてくる。
やめ、て、近づかないで!その叫びは声になってくれない。
両手を掴まれた!
もみ合いながらも、何故なのか誰なのかもわからない。
無我夢中で、離れようとしたその時、足元から鳴き声が、
「フギャーッ!!」
…ミロだった。
男は、一瞬それに気を取られてひるんだ。
私は無意識に手を伸ばし、そばにあった強化ガラスの花瓶で男を、二度三度と殴っていた。まるでサスペンスドラマのようだと客感的に思ってしまった。
男はゆっくりと崩れるように倒れ、床に伏せってしまった。
外は満月、雲一つなく部屋を照らし私の影を男の上に作っていた。
これは、もしかして、今まで私が見た光景。
あの目眩の時の映像は、ミロの前の飼い主のものでもなく、私が襲われる予知というよりも、この男が最後に見たものだったのだ。
そっか、そうだったんだ…
しかし、この男は誰なのだろう。何日も前に嫌な感じがしたのは、この男のストーカーを感じ取ってたのだろうか。
部屋にはどうやって入ったのだろう。窓は閉め忘れるはずがない。
合鍵?前の住人なのだろうか…。
そんなのはもうどうでもよくなっていた。
鍵のかかっていない窓を開け、空を見上げた。月が綺麗だった。
そして振り返り言った。
「ミロ、この人だぁれ」
「ミャー」
ミロ、お前鳴けるのね。
この時のために、鳴くのを取っておいたみたいに、したり顔で機嫌よくソファの上でゴロゴロ喉を鳴らしていた。
エピローグ
この男は
わからないように以前からもストーカー行為をしていて、帰宅時後をつけたり、部屋の中にも何度か入っていたようです
はたして、
ミロには美優が襲われるのが
前から分かっていたのでしょうか…
それは、拾われる前から
美優が自分を拾うことさえも
分かっていたのでしょうか…
そもそも、
ミロは本当に存在するのかな…
完
ショートストーリー 「ある記憶」 柚 美路 @yuzu-mint
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