20話 島野VS穂村
CCBSの設定を終え、戻ってきた一色。
「ちゃんと設定できた?」
と太田先生が尋ねてきたので、
一色は
「はい」
と頷く。
「使える必殺技やサブツール、色々あって悩みましたけど、何とか決めました……」
と一色は頭を掻きながら言った。
そして、一色はあたりを見渡してみる。
G組の生徒たちが1対1、もしくは3人1組で戦っているようだ。
バトル漫画の世界で繰り出されてもおかしくない必殺技が、バンバン目の前で繰り出されている。
でも、今、目の前で繰り出されている必殺技は、部活動のプレーが元になってるんだよな……
と一色は考えながら、1対1の試合を見ていた。
そういえば、島野は誰と戦っているんだろう……と一色は探した。
どうやら、島野は穂村と戦っているようだった。
一色は島野がどんな戦いをするのか気になり、遠くからであるが観戦することにした。
島野の属性は雷、穂村の属性は炎。
島野がスピードを活かして穂村に接近を試みる。
島野は突如としてクラウチングの構えをすると、電力を溜めてからスタートダッシュをし、雷のような速さで穂村に向かっていく。
島野が今出した技は、
『イナズマロケットスタート』だ。
この必殺技はクラウチングスタートが元となっている。
クラウチングスタートの構えをし、電力を溜める。そして、スタートダッシュと同時に電力を放出し、雷のような速さで向かっていく。
これが、『イナズマロケットスタート』である。
島野の攻撃に穂村は蹴りを入れて
すぐさま対応する。
よく見てみると、穂村の足が炎に包まれている。
穂村が今出している必殺技は
「フレアカウンター」だ。
この必殺技はサッカーが元となっている。
炎に包まれた足で蹴り返す、名前通りカウンター技だ。
イマズマダッシュ、フレアカウンター。力と力のぶつかり合いだ。
雷と炎が入り混じり、激しくぶつかり合う。
すると、力比べで負けたのか、島野が吹き飛ばされた。
ぶつかり合いは穂村に軍配が上がったようだ。高身長でパワーのある穂村が、低身長でパワーのない島野に、力技で勝つのは当然のことだと思う。
島野は吹き飛ばされ、隙ができた。
すぐさま穂村は次の必殺技を繰り出す。
島野を炎の渦で包みこみ、身動きを取れなくした。
身動きが取れないことを確認すると、
穂村は勢いをつけて、炎に包まれた足で蹴る。
この必殺技は「ボルテックスインパクト」だ。
これは大ダメージ。勝負ありかに思えた。
ボルテックスインパクトを打ち終え、勝利を確信していた穂村。
しかし、穂村がさっき打ったのは島野のダミー。偽物だったのだ。
穂村は驚きを隠せなかった。
いうか、島野はどこだ?どこいった?
穂村はあたりを見渡すと、
「ここだよ」
と島野の声がした。
島野は穂村を遠くから眺めていた。島野、お前、いつの間にそんな場所に……
島野はすぐさま雷のような速さで空中の上を走って突進していく。
「ライメイ・カソク」だ。
穂村は島野が突進するのを確認すると、すぐさまサブツールを発動させた。
発動させたサブツールは「ビックウォール」
発動させた人の前に大きな壁を作り、攻撃から身を守ることができるサブツールだ。
背後と左右ががら空きになり、発動回数上限は高くないものの、防御能力がトップクラスに高い。
穂村は「ビックウォール」を自分の目の前と左右、背後に作った。
これで上からの攻撃以外の防御を試みる。
島野は「ライメイ・カソク」で突進した後、すぐ解除。
サブツール「ジグザグスクエア」で
穂村が繰り出したサブツール「ビックウォール」をかわして、
再度、「ライメイ・カソク」で上からの攻撃を試みて接近する。
突進してくる島野をみて、穂村は叫ぶ。
「引っかかったな!!島野!!」
彼はそう叫ぶと「フレアカウンター」で突進してくる島野を蹴った。
そう、これは穂村の作戦だ。
サブツールの「ビックウォール」を前後左右に使い、上からの攻撃を「あえて」がら空きにしたことで、島野が上から攻撃をするよう、仕向けていたのだ。
「『ライメイ・カソク』は直線に加速する、CCBS屈指のスピード必殺技。
島野の陸上部の能力が陸上女子部員並とはいえ、
「ライメイ・カソク」のスピードや威力は中々のものだ。
また、島野は、『ジグザグスクエア』という、上下左右に反射的に移動することのできるサブツールを所持している。
で、この「ジグザグスクエア」というのが厄介なのだ。さっきも、「ジグザグスクエア」によって俺の攻撃が躱された。
俺が仮に「フレアカウンター」でカウンター技をしようにも、「ジグザグスクエア」で「フレアカウンター」を躱され、背後左右から攻撃を受ける可能性があるからだ。
じゃあどうしたらいいか。解決法が今の作戦だ。
「ビックウォール」は防御力十分のサブツール。これで、『ライメイ・カソク』の攻撃は防げる。
これを前後左右において、「ジグザグスクエア」で左右に移動してきたとしても、攻撃を防ぐことができる。
最後に、あえて上をがら空きにしておくことで、島野を上からの攻撃へと誘導する。
あとは、俺が上からの攻撃に備え、「フレアカウンター」で待ち構えるだけ。
これが俺の……穂村の作戦だ。
「フレアカウンター」で島野を上空へと蹴った穂村は誇らしげな表情をしていた。
しかし、この後、彼は地獄へと叩き落されるのである。
「無効」
島野の声がした。
「無効?」
穂村が島野の声を聞き取り、周りを見渡した。
誰もいない。すると、
背後から、島野が穂村のサブツール「ビックウォール」を突き破って攻撃してきた。
「イナズマロケットスタート」だ。
島野の必殺技「イナズマロケットスタート」が穂村の心臓に突き刺さり、大ダメージを負った。
CCBSを使用したプレイヤーの主な弱点は頭と心臓。
この2つの場所に必殺技を当たると足や手といった場所に当てた時よりも、大ダメージを与えることができる。
なので、基本はみな、心臓と頭を狙う。これがCCBS必勝法なのだ。
「な……なんで……『ビックウォール』で攻撃は防げていたはず……」
急激な幕切れに、穂村は混乱していた。
「サブツール『サブツール弱体化』。1回しか使用できないけど、特定のサブツールの能力を大幅に下げるサブツールだ。これで僕は、『ビックウォール』によって作り出された4つの壁のうちの1つを大幅に弱体化させた」
「じゃあ、さっき上から攻撃してきた島野は……もしかして!!」
「そう、サブツール『ダミープレイヤー』。回数を使えば使うほど自身の能力値は下がっていくけど、もう1人の自分そっくりのダミーを作成することができ、作成したダミーに対して指示を送ることができる」
「今回の試合では2回、ダミーを作成した。1回目のダミーには、穂村くんの『ボルテックスインパクト』にわざと食らうよう指示。2回目のダミーには上から攻撃するよう指示したってわけ」
「そして、俺はダミーが攻撃を受けている間に、「ビックウォール」で作り出された壁の1つをサブツール「サブツール弱体化」で大幅弱体化。その弱体化させた壁の前に立ち、「イナズマロケットスタート」の発動準備をしていた」
「そして、イナズマロケットスタートで攻撃して、俺の心臓をぶち抜いたってわけね」
「そういうこと」
島野が頷く。
「でもよ……まさか2回目もダミープレイヤーを使うとは思わなかった……だって、ダミープレイヤーを使用すると、1回目使用で自身の能力値が本来の能力値の1/2。2回目使用で1/4になるんだぜ。ただえさえ、島野、お前、能力値があまり高くないのに」
「僕の能力値が高くないのであれば、穂村君の能力を、僕の能力よりも、もっと低くすればいいからね」
「なるほど……だからサブツール弱体化か……サブツール弱体化は、本来のサブツール能力の1/100の能力になるんだよな……」
ってことは、1/100の能力にされたサブツール「ビックウォール」は、サブツール「ダミープレイヤー」によって1/4の能力にされた島野が繰り出す必殺技
「イナズマロケットスタート」に劣るってことになるのか。
そして、穂村はCCBSが強制解除された。CCBSの強制解除は、CCBSを使用したプレイヤーにおける敗北を意味する。
よって、島野の勝利が確定した瞬間である。
「ありがとな。島野。色々と勉強になったわ」
「いえいえ、こっちこそ。試合してて楽しかったよ。また試合しよ」
「ああ、もちろんだ!」
島野と穂村は笑顔で握手をした。
一色は遠くから拍手をしていた。すると一緒に観ていた太田先生が口を開く。
「島野くんはCCBSに対して勉強熱心でね。『ビックウォール』が『サブツール弱体化』を受けた時の能力が、島野くんが『ダミープレイヤー』を2回使用して、必殺技『イナズマロケットスタート』の能力を下回るって知ってたのは、島野くんがサブツールや自身の能力について必死勉強したからなんだよ」
と太田先生が島野の方を見て言う。
「太田先生、そうなんですね」
と一色が関心する。
たしかに、サブツールの能力や自身の能力をよく把握していなきゃ、さっきのような行動は取れないよな。
島野、梶谷の言う通り、すごいやつなのかもしれない。
一色が島野の方を見て、そう思っていると、突如として話しかけられた。
そう、話しかけてきたのは、葉乃川詩織だった。
「一色くん、CCBSで勝負しましょ」
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