8話 生徒会会議

「改めまして、私、生徒会長を務めています、1年の斎藤です。よろしく」


と生徒会長が自己紹介をする。一色、鈴森、東坂はぺこりとお辞儀をした。


1年生にして生徒会長か……すごいな……


「今回君たちに集まってもらったのは、明乃森硬式野球部窃盗盗撮事件に関してだ」


な、名前が変わってる……


そっか……本来は明乃森高等学校女子高生私物窃盗事件だったんだけど、主犯格が硬式野球部て、盗撮もしていたことが判明していたんだよな。

だから、名前も変わったのかな……

と一色は考えていた。


「この事件に関わっていたのは、硬式野球部の監督コーチ3名と、硬式野球部の部員の2年生29名、1年生29名の合計61名。なお、この事件による被害人数は200名」


と生徒会長の口から告げられる。


ひゃ、ひゃくにん……


一色は被害人数の多さに絶句していた。

この学校の生徒数は1学年280人いて、3学年合計840人近く……

男女比は半々ぐらいだから、420人……


200人の女子が被害者ということは……


全校生徒の約半数の女子が被害に遭ったってことか……


「実際、生徒会に所属する女子も被害を受けた」

「私ですね」

「も、守屋さん!!」

と一色は驚く。守屋さんまで被害に遭っていたとは……


「私の場合、盗撮ですね……水着に着替えてるところをまんま撮られました……」


そ、それはキツい……水着に着替えるところって……


「ほ、ほんとごめん……」

「一色くんが謝る必要はないわ……謝るべきは一色くん、東坂さん、鈴森さん以外の硬式野球部関係者よ」


と守屋はサバサバしながら言う。


「で、被害人数とか、加害人数とか、改めて伝えたのだが、さらに、君たちに伝えたいことがあってだな……」

と生徒会長が一色、鈴森、東坂の3人に何かを伝えようとしていた。


さらに伝えたいこと?それは何だ?

一色が不思議そうに生徒会長の方を見ていると、生徒会長が口を開いた。


「主犯格の犯行の動機と、一色が、硬式野球部員から嫌がらせをしていた理由を伝えるために来てもらった」

「犯行の動機?? 嫌がらせ??」

と一色は驚いた表情をする。


犯行の動機はたしかに気になるところだけど、

俺の嫌がらせって……


「ちょっ……ちょっと待ってください!!

なんで俺の嫌がらせのこと……生徒会長が知っているんですか!!」


「私が生徒会長に言ったの」


と言ったのは鈴森。


「鈴森さん……」

「生徒会長が加害者との面会に行くってことで、どうせなら、一色くんを嫌がらせしてた理由も聞こうと思って……一色くんも気になるでしょ。嫌がらせを受けてた理由」

「た、たしかに……それはそうですが……」


と一色は鈴森の反論に言葉が詰まる。


たしかに……俺は硬式野球部員から理不尽な嫌がらせを受けていた。


神宮大会の初戦の時はもちろん、

練習中とか、練習外とか、理不尽な嫌がらせを受けたことがある。


……監督のいないところで、陰口を言われたりとか……暴言言われたりとか……俺の私物を盗られたこともあったっけ……最終的に返してもらったけど……私物を女子更衣室に投げられた時もあったな……

女子に投げ返してもらったけど……


でも俺はそんな理不尽なやつとはムキにならず、適当に流していた。

だって相手にするだけ無駄だし……

そんな嫌がらせするようなやつは3流、いや、4流だと決めつけていたから……


ただ、気になるは気になる。

なぜ俺に対して嫌がらせをしていたのか。


「犯行の動機と俺に嫌がらせしてた理由って……何ですか……」


と一色が生徒会長が聞くと、

生徒会長は説明し始めた。


なぜ犯行に及んだのか……なぜ俺に嫌がらせをしていたのか……


一色は生徒会長から告げられる言葉に耳を傾ける。


「……以上が……犯行の動機と……一色が嫌がらせを受けていた理由だ」

生徒会長が話終える。


周囲は静まり返っていた……


「そ、そんな理由で……」

一色は主犯格の犯行動機と嫌がらせの理由に苛立ちを覚え、拳を強く握りしめていた。

「ど……どうして……こんな……酷いことが……できるのよ……」

と鈴森は涙を流していた。東坂は

「許せねぇよ……」と

下を向いて静かに起こっていた。


「俺も、今回の事件について怒っている。許されることではない」

と、バッサリと発言した生徒会長は続けて、


「被害に遭った守屋さん。鈴森さん。

私にもっと力があれば……被害者を出さないことはできなくとも、減らすことはできたかもしれない……早く犯人を特定できなくて……すまなかった……」

「あ……頭を上げてください!!斎藤くん!!」

と生徒会長は頭を下げると、守屋はしどろもどろしている一方で、鈴森は涙が止まらなかった。


「そして……東坂さん、鈴森さん、一色くんは硬式野球部は活動休止になりますが、今後、どうするかって決めてますか?鈴森さんに関しては、気持ちが落ち着いたらでいいんで……」


と生徒会長が質問してきた。その質問に対して東坂は

「俺は硬式野球部を引退して、受験勉強に専念するつもりです」

「私も……東坂くんと同じ意見です」

と鈴森も涙を流しながら言う。

「一色くんは?」

「俺は……転校する予定です」

「どの学校に転校するとかは……」

「いや、まだそこまでは……決まってないですね……」

と一色は答える。


鈴森さんと東坂さんの様子を見る。

2人とも辛そうな表情をしていた。


あんな犯行動機……俺に対する嫌がらせをした理由を聞いたら、辛くなるのも無理はない。


俺も……犯行動機とか、嫌がらせ理由を聞いて、心苦しさ、苛立ち、胸糞……いろんな感情がこみ上げていた。



「それでは……これで生徒会会議は終わりたいと思います。お疲れ様でした」


生徒会が終わると、すぐさま一色は立ち上がり、生徒会室を出る。


一色は急いで家へと向かっていった。


あることをするために……



「一色、おかえり」

家に帰ると、キッチンで凪が夕飯の支度をしていた。

「ごめん。ちょっと……固定電話使わせて」

と一色はすぐさま固定電話を使って、スマホで調べた電話番号を見ながら、ある場所へと電話をかける。


早く出ろ早く出ろ……


一色はそう思っていると、電話がつながった。


「突然お電話すみません。私、一色颯佑と申します。面会の予約をしたいのですが……」



後日


一色はとある場所へと向かっていった。

とある場所とは……仙台警察署だった。


一色が電話でやり取りをしていた相手というのは仙台警察署だった。


仙台警察署に入り、面会の手続きを済ませた後、警察署の方に案内され、面会室へと入る。


面会室の中には誰もいなかった。


面会室なんて入るの初めてだな……


一色がキョロキョロを辺りを見回している。


もうそろそろくるかな……


一色が腕時計を見て、時間を確認する。


すると、1人の容疑者が面会室に入ってきた。


その1人とは、硬式野球部のキャプテンである友岡だった。


「どうした?後輩の一色じゃないか」

と気安く声をかけてくるのを無視して

「今回はあなたに伝えたいことがあってきました」

話を進めようとすると、

「おい。俺は先輩だぞ。無視するんじゃねえよ」

と友岡がガン飛ばしてきた。

「だから何ですか? 言っておきますけど、硬式野球部を退部、学校を退学処分となった以上、あなたは私の先輩ではないので……先輩面するのやめてくださいね」

「おい、ふざけんじゃねえぞお前!!」

と友岡がアクリル板越しで睨みつけてくる。

それを面会室に居合わせていた警察官がストップをかける。

「ふざけてんのはどっちだよ!!」

と一色が叫ぶ。立て続けに一色が話す。

「犯行動機!!女子に興味があった? 女子の裸や下着に興味があった!?って何だよそれ!!そんなクソみたいな犯行動機で甲子園おじゃんにしたおふざけ野郎はどっちだよ!!」

「おふざけ野郎だ? 三次元の美少女萌えキャラにメロメロのお前の方がよっぽどおふざけ野郎だろうよ!!」

と友岡が反論すると、警察官は言葉を慎むようにと友岡に対して忠告した。

「残念!!三次元の美少女萌えキャラにメロメロは合法です!! 女子の私物窃盗とか盗撮は違法です!! 一緒にしないでもらえます??」

と一色は再度反論する。

「あとよ……俺に対する嫌がらせ……なんだよあれ……」

とプルプルと震えながら一色は言う。

「ああ、そういやあったな……逮捕で頭いっぱいですっかり忘れちまったよ」

と友岡はヘラヘラした態度で接してくる。

「ヘラヘラしてんじゃねえよ!! この野郎!」

「は? ヘラヘラしてねえし!!」

と一色はぶちギレると、友岡はまたしてもヘラヘラした態度で接してくる。

警察官は言葉を慎むよう、再度忠告を行う。


こいつ……ほんとに反省しているのか……


一色はそう思わざるを得なかった。


それでも一色は話を続ける。

「俺がなぜ嫌がらせを受けていたか……それは、東坂さんと鈴森さんが付き合っているのを好意的に感じていたからだよな……


鈴森さんは学校のマドンナ的存在で、男女ともに人気の高い人だった。


もちろんレギュラー陣含めた野球部員達も、鈴森さんを狙っていた。


しかし、鈴森さんが付き合ったのが、控え捕手の東坂さんだった。


レギュラーじゃない、部の中でも特段目立ってない東坂がなぜ、学校のマドンナ的存在である鈴森さんと付き合えるのか、野球部員達は納得していなかったし、

鈴森さんと付き合える東坂さんに嫉妬していた。


野球部員達が東坂さんの好意的に思っていない中、東坂さんのことを慕い、鈴森さんとの交際に好意的に思っていたのは、俺だった。


いや、俺だけだった。


そして、そんな俺は、この部で唯一の特待生。


特待生であり、東坂さんを慕い、東坂さんと鈴森さんの交際に好意的に思っていた俺に対して、野球の才能を嫉妬し、鈴森さんと東坂さんの交際に否定的だった野球部員達が、俺に嫌がらせを始めた。


そうだろ?」


一色は友岡に問いかける?


「ああ、そうだせ……合っている。鈴森さんの体操服や下着を盗み、着替えてるところ盗撮したのも……鈴森さんが好きだから犯したことだし、お前に嫌がらせしたのも、一色の言う通りだ」


「嫌がらせするやつなんて三流のやることだから、適当に流しとけやいいけどよ……」


「はぁ??俺が三流だと?」

と友岡は納得していない様子で一色を見ていたが、

「あまり前だろ!!正直、三流にも失礼だわ。お前らのやってることはよ!!」

と一色は友岡のことを鬼の形相で見ると、


「鈴森さんが好きならよ……鈴森さんが嫌がることはするじゃねぇよ!!!」

とブチギレた。


そんな一色がブチギレる様子を見て、友岡は終始ヘラヘラしていた。


俺は悪くない……そんなスタンスなのだろう……

「東坂さんに謝れよ……鈴森さんに謝れよ」

「はぁ?」

「……俺は2人を甲子園に行かせるために……腕を振った。辛い練習を乗り越え、お前らの嫌がらせにも耐えてきたのによ……」

「『みんなを』じゃなくて、『2人』をと言うあたり、よほど俺たちのことを嫌っていたようだね」

「嫌がらせをする人達のことを、俺が嫌うのは当たり前だろうが!!」


一々ムカつく言い方をする友岡に、一色は感情を抑えきれず、終始イライラしていた。


「俺はまだいいよ……転校して3年夏のラストチャンスに全てを賭ければいい……だけどよ……東坂さんと鈴森さんは……もう甲子園の土を踏むチャンスは失ったんだよ……お前たちの……お前たちのせいで……」


「ああ、悪かった。悪かったから。これでもういいだろ?な?」

「もういいだろ??もういいだろって何だよ!!お前!!それが人に……被害に遭った人達に謝る態度かよ!!」


一色はヘラヘラしている友岡を睨みつけると、


「もういいわ。出所したとても、俺、鈴森さん、東坂さん、被害に遭った方には一切接触するな」


と椅子から立ち上がると、立ち会いとして一緒にいた警察官と一緒に面会室を後にした。


面会室を出ると


「すみません。終始イライラしてしまって……」

と一色が警察官に謝っていると、

「気持ちはスッキリしましたか?」

と警察官は聞いてきたので

「そうですね……事前に言いたいことは伝えることができたのですが、友岡さんの態度を見てると、気持ちがスッキリしたとは……言い難いですかね……」

と一色は返答した。


こうして、一色は仙台警察署を後にした。


しかし、友岡も馬鹿だよな。


反省すればいいものを……警察官が面会の場に立ち合わせているのに、どうしてあのような態度が取れるのかね……


罪が重くなるだけなのに……


そう思いながら、一色が家に着くと、こたつで寝っ転がりながら、Twitterで絵師が描いた萌えアニメのイラストを漁っていた。


ダラダラ過ごすこと数10分後、

突如として、家に置いてある固定電話が

プルルルルッと鳴った。

すぐさま凪が受話器を取り、対応する。


凪が相手の話してる内容に頷くと


「颯佑。電話」

「誰から?」

「山翔海高校?の人達から」

「山翔海高校??」

と颯佑は凪から受話器を受け取り、電話に出る。凪から変わった旨を伝えると、

「一色颯佑くんだよね」

「はい……そうですけど……」

「私、山翔海高校で野球部の監督をしています、山口塔子と言います」


電話の相手は、とある学校……いや、山翔海高等学校の男子硬式野球部監督、山口先生だった。


山翔海高校……聞いたことがあるな……たしか、栃木県にあるっけ?

野球部の成績は……そこまでは把握していないなぁ……


「それで、君に是非、山翔海高校に転校してほしいと思ってお電話をかけさせていただきました」


……県外の高校からの誘いか……


「ところで、君は山翔海高校については興味がある?」

「まぁ、はい。県外の高校も視野に入れていたので」

「そうか。興味を持ってくれてありがとう」

と一色は軽く返事をすると、山口先生はお礼を言う。


「それじゃ、色々と説明したいことがあるから……空いている日時を教えてくれる?」










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