9話 山翔海高等学校
一色は放課後、明乃森高等学校の生徒指導室で山口先生とやらを待っていた。
どんな先生……監督なのだろうか……
声を聴く限り、あの声は……女性だったな……
女性監督か……珍しいよな……
一色は期待と不安を抱えながら待っていると、
生徒指導室のドアが開いた。
山口先生が生徒指導室へと入ってきたので、一色はすぐさま立ち上がり、
挨拶をすると
「こんばんわ。一色くん」
と山口先生は返してくれた。
び……美人だ……
黒髪のロングポニーテール……ちょっとサバサバしてる感じがなんか大人っぽい……
一色は驚きを隠せないでいると、山口先生は
「私、山翔海高等学校の男子硬式野球部監督の山口塔子です。どう?学校生活の方は?……楽しいか?と言っても、あの事件があった後じゃな……」
「そうですね……」
と気の毒そうな顔をして言ってきた。一色も苦笑いをしている。
この重苦しい出だし。ちょっとまずいと思ったのか、
「いや、でも部活動のことはともかく、学校生活は楽しいですよ! 友達もいますし……」
「そうか、それはよかった……」
と一色はフォローすると、山口先生はホッとした表情をみせた。
「一色くんは……この学校までどうやって通っているの?」
「そうですね……自分、松島市出身なんで……電車ですかね……」
「松島市から仙台市まで電車で……かなり時間かからない?」
「30分ぐらいですかね……」
「なるほど……」
とそんな他愛ない会話が続いた後、
「それじゃ、そろそろ、山翔海高等学校の説明会を始めていきますか!」
と山口先生は本題を切り出すと、山翔海高等学校のパンフレットを渡すと、
色々と説明しだした。
山翔海高等学校とは……
栃木県小山市にある唯一の私立高校。
一般受験での募集はなし。この学校に在籍する先生(監督)、幹部からの
スカウトがなければ入学することができない高校である。
一般受験での募集なしってマジか……
全寮制。男女共学。膨大な敷地を誇り、全生徒数は約1800人ほど。
1学年16クラスもある。
私立と言いつつ、学費はなんと無料である。ちなみに、寮費もタダである。
部活動が盛んであり、多くの部活動が関東大会、全国大会で活躍している。
男子硬式野球部はと言いますと……
「硬式野球部は県大会ベスト4には進出するのですが、そこからあと2、3歩足りない状況ですね」
と山口先生が分析する。
「甲子園出場経験はないんですよね……」
山翔海高等学校が甲子園出場経験ないことは、事前にネットで調べておいた。
「そうね……だからこそ、悲願の甲子園出場のためにも……
一色くんの力が必要なの」
と山口先生が一色に訴える。
「そうですね……もう少しじっくりとパンフレット見てもいいですか?」
「もちろん、大丈夫よ」
と一色がパラパラとパンフレットを読む。
山翔海高等学校……
甲子園出場経験がないとはいえ、
ここ最近、力をつけてきているのは確かだ。
秋季大会で県ベスト4入りしている……
「実はな……硬式野球部は他の学校に比べて少数精鋭なんだよ」
「少数精鋭?」
「硬式野球部は3学年合わせても合計20人もいないんじゃないかな?」
「20人もいない??」
と一色は驚く。
部員数20人弱って……県ベスト16レベルでも最低30人はいるぞ……
3学年合わせて20人弱……ってことは……
秋大会は1・2学年でチームが構成されるから、15人か14人ぐらい?
ベンチ入りに空きができてる可能性が……
そんな少ないメンバーで秋季県大会ベスト4……
「すごいですね……そんな少ないメンバーで勝ちあがるなんて……」
「そうでしょ。すごいでしょ」
と一色が褒めると、山口先生はドヤ顔する。
どんな練習方法をしたら、そんな少ないメンバーで勝ち上れるんだ……
と一色が疑問に思いながら、パンフレットのページをめくる。
多くの体育会系、文化系の部活動が、
県大会、関東大会のみならず、
全国大会、さらには、世界大会で数多くの成績を残している……
マンモス校で生徒数も多いからこそ、部活動の数も多いな……
特に運動部の数だな……かなり多い……
ボウリング部とか、スカッシュ部とか、セパタクロー部とかある……
一色が部活動数の多さに驚いていると、
あることが書かれたページを見て、めくっていた手が止まった。
なんだ……この制度……
一色がそのページを見て驚きを隠せないでいると、
「ああ、そのページは、山翔海高等学校独自の制度ね」
と山口先生が説明してくれた。
山翔海高等学校独自の制度とは、以下の3つである。
「部活動強制入部制度」
「部活動階級制度」
「部員階級制度」
「部活動強制入部制度」
名前の通り、この学校に入学したからには、必ず部活動に入らなくてはならない。
帰宅部というものが存在しない。
補足であるが、部活動の変更は可能であるが、兼部はできない。
また、マネージャーとして、部に在籍するも禁止されている。
マネージャー……欲しかったな……
「部活動階級制度」と「部員階級制度」とは。
2つまとめて説明。
同じような言葉に聞こえるが、違う点がある。
まずは共通点から説明しようと思う。
共通点は、階級がS、AからGと振り分けられており、
Sが1番高く、Gが1番低いということ。
違いとしては、部全体に対する待遇か、部員個人に対する待遇かの違いのみである。
部全体に対する待遇というのは、
・部費の金額
・遠征費の補助
・ユニフォーム・部活で使用する用具に対する金額の補助
・部室の広さ
・専門トレーナー、コーチの派遣に対する金額の補助
部員個人に対する待遇というのは、
・有名大学への推薦
・プロスポーツ団体への推薦
・支給金(生活するための)
支給金というのは、プロ野球で例えると、年俸みたいなものか……
ここで補足であるのだが、部活動階級制度のランクと部員階級制度のランクは、
必ずしも同じになるとは限らない。
例を挙げるとすると、
部活動階級制度ではAの部活に所属しているが、部員階級制度ではDの生徒も
いるということだ。
その逆もありえるし、ランクが同じ可能性もある。
ってことは、山翔海高等学校に入学すると、部活動、部員に階級が振り分けられた
学校生活を強いられるということになるということか。
少し変わった制度であるが……
そんな学校に多くの生徒が入学してくるということは、
それほど、この学校に魅力を感じているということなのだろう。
S級の部活に入って、良い環境でスポーツをしたい。また、S級部員になって、
良い待遇を受けたい、プロに行きたい。全国、世界で活躍したいという理由で、
入学する人もいるかもしれないな……
一色はパラパラとめくる。
「そういや……クラス分け……部員階級制度を加味して振り分けられるんですね……」
と一色がクラス分けについて記載されたパンフレットのページを見ながら言うと、
「そうね。部活動での成績が良ければ良いほど、上のクラスに入ることができるわね」
と山口先生が説明する。
山翔海高等学校のクラス分けについて。
山翔海高校におけるクラスは、部員階級制度によって振り分けられる。
内約はこうだ。
S級からA級の生徒 SA組(1クラス)
B級の生徒 B1組~B2組(2クラス)
C級の生徒 C1組~C2組(2クラス)
D級の生徒 D1組~D3組(3クラス)
E級の生徒 E1組~E3組(3クラス)
F級の生徒 F1組~F4組(4クラス)
G級の生徒 G組(1クラス)
部員階級制度でS級、
もしくはA級の生徒はSA組に、
B級の生徒はB1組かB2組のどちらかに……
と振り分けられる。
G組だけ20人と少ない。他は1クラス40人。
1学年16クラス。つまり、1学年620人ぐらいか。
い、色々とすごい学校だな。
そういや、どうやって部員階級制度とか……
部活動階級制度のランクって決まるのだろうか……
やっぱり部活動の成績かな……
と一色はパラパラとパンフレットのページをめくって探してみたが、
見つからなかった。
な……ないのか……
まぁ、どうせ部活の成績とかそのあたりだろう。
そう思ってた。
パンフレットを読み終える。
「それで……どう? 山翔海高等学校に興味持ってくれた?」
と山口先生が一色に問いただす。
一色は口に手を当てて、悩んでいた。
山翔海高等学校……他県からの誘いはこれが初めて……
宮城県にある東北学園からも誘いが来てるし……
友人からも東北学園に来ないかと誘われたけど……
前々から思ってたけど……俺……他県で野球やってみたいな……
栃木県には、明乃森高等学校を破った(相手エラーのおかげで勝ったようなものだが)
作商学院高校もある。
作商学院はたしか明治神宮大会優勝してたよね。
そして、少数精鋭でベスト4まで進んだ山翔海高等学校が、
俺を必要としている。
甲子園出場するために……俺を必要としている。
「はい、興味が湧いてきました……俺、この学校に転校します」
一色はそう宣言すると、
「え?ほんとに?」
「はい」
「え?決め手って何?」
「他県で野球がしてみたかった……学費がタダってのもそうですけど……少数精鋭でベスト4まで勝ち進んだ山翔海高等学校の硬式野球部はどんなものなのか、興味が湧いてきたんですよね」
と山口先生は興味津々で問いただしてくるのを、一色はサクサクと捌いていく。
「じゃあ、転校手続きの書類を後日郵送で送るから、しっかり記入して、山翔海高等学校宛に郵送してね。それと、山翔海高等学校の中を案内するから、空いている日時を教えてくれる?」
と山口先生が山翔海高等学校の中を案内してくれるそうだ。
山口先生との会話の後、
俺は家に帰るなり、リビングにいる風花と凪が
山翔海高等学校の説明どうだったのかと興味津々で聞いてきたので、
山翔海高等学校に転校することを決めたことを伝えた。
「説明の後、即転校することを決めるとか、即決だったね」
「風花と凪にも後日、監督自ら説明に伺うってさ。空いてる日がいつか聞いてきてだと監督が。」
「了解。土日ならいつでも空いてるよと監督さんに伝えといて」
「わかった」
と凪は颯佑にお願いする。
「そっか……山翔海高等学校に決めたのね」
「うん、山翔海に行くと決めたよ」
「そういや、東北学園には行かないのね。友達の宮野くんもいるのにね」
「後で断りの電話入れておくよ」
「山翔海高等学校に行く決め手って?」
「学費、寮費がタダ、他県で野球がしてみたい、少数精鋭の硬式野球部に興味を持ったかな」
「学費、寮費がタダ? すごい高校だね」
と風花は驚いていた。当たり前である。私立高校なのに、学費がタダなんだぞ。
それもう私立高校ではないのでは?
というツッコミは置いといて、学費がタダというのはありがたい。
「県外の山翔海に決まったということは……寮生活よね」
「ま、そうだな」
「じゃあ家にあまり帰らなくなるから、料理教えてね」
「りょーかい」
と颯佑は風花と凪に料理を教えることを約束した。
山翔海高等学校の説明会の翌日
神崎と宮橋、武良に山翔海高等学校に転校することを説明した。
「と、栃木?」
と武良と神崎は驚く。
「ま、そうだな」
「県外って……てっきり東京とか、神奈川とか、大阪とか、愛知とか、地方大会激戦区の県に行くと思ってたよ……」
「ははは、すまんな」
と武良は一色の意外すぎる転校先に、困惑していた。
「となると、1年生の終業式を持って、一色とはお別れか~」
と神崎は天を仰ぎながら嘆いていると、一色は神崎の言葉に耳を傾け相槌を打つ。
「それじゃ、送別会しねぇとな~」
と神崎たちは送別会の準備を進めるそうだ。
一色は東坂と鈴森にも報告する。
「そっか……栃木県の山翔海高校か……たしか…あの学校ってスカウトの推薦がないと行けない高校なんだよね……」
「えっ?そうなの?」
「そうそう」
と東坂は頷く。
「そういや、宮野も山翔海にスカウトされたらしいな」
「ま、マジですか!!」
「宮野の場合、地元出たくないから断ったって言っていたけど……」
と一色は友人の宮野が山翔海にスカウトされていたことに驚いていた。
「ともかく、頑張りなさいよ」
「そうだな……山翔海にスカウトされるって中々ないって聞くからな……そんな山翔海が一色をスカウトしたってことは、一色のことを高く評価してるのだろう……」
山翔海にスカウトされるって珍しいことだったのか……
そういや、山口先生が……
本来、山翔海高校は転校生を獲らない方針なんだけど、一色くんは特例で許可するなんて言っていたな……
俺って……思ってた以上に周囲から評価されてるのかな……
いやいや……浮かばれちゃダメだな……
「鈴森さん、東坂さん、今までお世話になりました。山翔海でも頑張ります」
「よし!!頑張れよ!!一色!!」
「一色くん。山翔海を甲子園に導きなさいよ」
と東坂と鈴森はエールを送った。
山翔海高等学校……
どんな高校なのだろうか……
一色は後日行われる学校案内に期待を膨らませていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます