2話 事件発覚

小松先生に呼び出され、ついていく一色。


話って何だろうか。

野球のこと? 授業のこと?


小松先生になぜ呼び出されたのか、気になってしょうがなかった。


向かった先は、玄関。

玄関先には、パトカーが停まっていた。

「一色くんを連れてきました」


目の前には警察官が2人いた。


「明乃森高等学校女子高校生私物盗難事件について、お聞きしたいことがあるので、署まで同行願います。」


明乃森高等学校女子高校生連続強姦事件……


さっき、武良が言ってた事件……


でもなんで俺が署まで連行されなきゃならないんだ……

何も悪いことしてないぞ……ってか、犯人でもないし……

一色は警察官の発言に戸惑いを隠せなかった。

「詳しいことは署で話しますから。パトカーに乗ってください」


警察官に言われるがままに、一色はパトカーに乗った。


無言で運転する警察官。車内に漂う緊張感。

どうなるんだ俺……


仙台警察署に着き、取調室に一色は入っていった。


取調室に入るのなんて人生で初めてだった。


飲み物が出される。お茶だ。


そして、若い女性警察官と男性警察官の2人が、

取調室の中に入ってきた。


「すみません。急に呼び出してしまって」

「いや、大丈夫です」

が頭を下げ、若い女性警察官は椅子に座った。

「申し遅れました。私、明乃森高等学校女子高校生私物盗難事件について調べている

和田と申します。」

「同じく、この事件について調べています、野本です。」

女性警察官の名は和田さん、男性警察官の方は野本さんと言うらしい。


2人とも、どうやら、深刻そうな表情をしている。


何があったんだ?なぜ俺を呼び出したんだ?


事件について進展があったのか? 犯人がわかったのか?


疑問ばかりが一色の脳内を駆け巡る。


そして、和田警官が重い口を開く。


「明乃森高等学校女子高校生私物盗難事件は、硬式野球部が引き起こした事件であることが、今日、発覚したの」


和田警官は真剣な表情で一色を見る。


硬式野球部が引き起こした事件?


一色は和田警官の言葉に終始困惑していた。


「ど、どういうことですか?」

「硬式野球部の部員のほとんどが、この事件の主犯格だったってことよ」


う、嘘だろ……なんで……どうして……


一色は戸惑いを隠せなかった。硬式野球部の部員ほとんどがこの事件の主犯格?

意味が分からない。なぜ? どうして?

またしても疑問ばかりが一色の脳内を駆け巡る。


硬式野球部の部員のほとんどがこの事件の主犯格……

と、となると、東坂さんは……


と思いついた一色は震えながらもすぐさま質問する。


「と、東坂さんは……事件とは無関係ですよね??」

「東坂くんに関しては今、取り調べを受けているところよ」


と松田警官は言う。


一色は目の前が真っ暗になった。

硬式野球部の部員のほとんどがこの事件の主犯格だとしても、

東坂さんだけは……東坂さんだけは無実であってくれ。

一色はそう願っていたと同時に、甲子園、どうなるんだろ……

と一瞬、頭の中が駆け巡った。しかし、


いや、違う違う……

甲子園どうなるんだろじゃない……

と一色は考えを改め直し、


被害者に対して申し訳ないという気持ちが先だ……


という考えが一色の頭の中を駆け巡っていた。


そして、一色は気になることに松田警官に伝えた。

「どうして……硬式野球部の部員のほとんどがこの事件の主犯格だと判明したんですか……」


松田警官は一色の質問に対して、

「昨日の午後の授業の際、明乃森高校に通う女子高生が、女子更衣室に入った時、顔面を黒色のフェイスマスクで覆っていた男性を発見。慌ててその男性は女子更衣室の外へと逃げるも、事件を防ぐため、女子更衣室の外で待ち伏せしていた男性進路指導員がすぐさま取り押さえ、捕まえたわ。で、その捕まった男性が吐いたの。硬式野球部の多くがこの事件の主犯格であることをね」

「実際、彼の言っていたことは本当でしたね。硬式野球部の部員にも事情聴取をしたものの、今のところ、ほぼ全員が事件の主犯格であることを自供していますね。しかも、硬式野球部の部室には、女子高生が盗まれたとされる、制服、ワイシャツ、体操服、水着、そして下着などが多く発見されましたね。」

と野本警官も松田警官に続けて言った。


嘘だろ……これじゃ、犯罪部活動集団じゃないか……


一色は胸が苦しくなり、過呼吸になっていた。


一色の様子を見た和田警官と野本警官がすぐさま


「大丈夫ですか」

と声をかけ、駆け寄った。取り調べは一旦中断となった。


頭が痛い。吐き気がする。なんで……なんでこんなことを……

一色は目の前が真っ暗になった。


その後は思い出したくもない。


なんとか、気持ちを落ち着かせることができたので、取り調べを再開することにしたのだが、和田警官が話す硬式野球部の部員の行動の数々に、一色は苦しめられることとなる。


まず、主犯格の野球部員達は窃盗だけを行ったのではなかったことが判明。

女子更衣室、女子シャワー室の盗撮を行っていたとのこと。

さらには、盗撮動画や盗んだ女子高生の私物をメルカリで売ったり、

アダルトサイトで売ったりして金儲けしていたとのこと。


和田警官から告げられると、一色はまた頭が痛くなった。再度、胸が苦しくなった。


だけど、何とか取り調べを受け続けた。頭の痛みや胸の苦しさに耐えた。


許せなかった。

加害者を。硬式野球の部員たちを。


取り調べが終わり、取調室を出ると、

一色は下を向きながらとぼとぼと歩く。


最後に……質問された。確認された。和田警官に。

貴方は、この事件に関与しているのかと。


「俺はやってません」

はっきりと言った。

俺はたしかに、加藤恵や雪ノ下雪乃、由比ヶ浜結衣、軽井沢恵が好きだ。

美少女系萌えアニメキャラが大好きだ。

だけど……だけど俺はやっていない。3次元の女の子の私物を盗んでもいない。

盗撮もしていない、盗んだものをメルカリにも売っていない。


だって俺は……問題を起こして甲子園に出れなくなるのが嫌だから。


問題を起こして甲子園出場がおじゃんになるのが嫌だから。


だから俺は、真面目に、練習にも取り組んで、取り組んでいたのに……


ど……どうしてこんなことに……


一色は仙台警察署から出てきた。

すると、担任の小松先生が車から出てきて、一色に声をかける。

取り調べの間、車の中で待っていてくれたようだ。

一色は辛そうな表情で、

「送迎、ありがとうございます」と言い、

車に乗る。


小松先生は辛そうな一色に

「お疲れ様」

と声をかけるや、

「1週間、実家でゆっくり休め。出席日数は、私が適当に誤魔化すから……ね!」

と小松先生はそう言い一色の自宅がある松島市まで車を走らせた。


一色は無言のまま外の様子を見ていた。

どうなるんだろうか……

俺は……

東坂さんは……

理央さんは……



一色は取り調べでわかったことを頭の中で整理していた。

今回の事件は、引退した3年生を除く、硬式野球部員2年生30人、1年生30人の合計60人のうち、加害者は2年生29人、1年生29人だとのこと。さらに、監督とコーチ2人までもがこの事件に関わっており、全63人中61人が加害者という、

高校野球界においても大規模な盗難事件となった。


そして、この事件の加害者じゃなかったのは、東坂さんと俺だけだった。


信じられないだろう。俺もだ。


スマートフォンをいじる。

この事件のことがネットニュースで話題になっていた。

加害者の名前を伏せているようだ。

案の定、大炎上しているようだった。


「明乃森高等学校硬式野球部は変態集団」

「明乃森高等学校硬式野球部は女子高生の私物を盗む最低集団」

という掲示板の書き込みも見た。


ごもっともだ。と思った。


盗難された女子高生はどんな気持ちなのだろうか。

見知らぬ男性にべたべたと服や下着を触られ、メルカリで売られ、

盗撮された動画がインターネット上にアップされている。


最低だ。

最低すぎる。


東坂さん、マネの鈴木さんを除く、硬式野球部の部員たち、そして、監督、コーチに今すぐ問いただしたい。


甲子園出場と性欲で性欲を取った理由ってなに?

甲子園という大舞台をフイにしてまで、女子高生の私物を盗みたかったのか?

女子高生の私物が盗まれた時、悪いことをしているという自覚はなかったのか?

女子高生の私物が盗まれた時、甲子園出場が取り消されるかもしれない、そういった気持ちは芽生えなかったのか?


加害者……東坂さん、マネの鈴木さんを除く硬式野球部員たち、

そして、監督、コーチが許せなかった。


一色はスマホを強く握りしめ、怒りを露わにしていた。

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