第2話

この前は朝からついてなかったけれど、今朝はいつもと同じように順調に事が運んでいった。

いつもと同じ目玉焼きの焼き具合に満足しつつ、ついつい食パンを一枚多く食べた位で特に日常に変化はなかった。

いつものように仕事を始めて暫くしたところで何となく視線を感じるような気がしてきた。振り向くと、後ろにいたらしい佐々木さんが、同時にクルッと身体ごと向こう側を向いて、何かを探すような仕草をしている。あたかも前からそれをしているように…

何?気分悪!


そして!それは今日一日で何度もあった。佐々木さん以外の複数人でだ。

監視されてるのか?


この前の事があったから、みんなで寄ってたかってミスをしないか見張っているのだろう。


嫌な気分だった。

なんで、そうなるんだ。


僕はいつも以上に、ミスをしないように細心の注意を払って疲れてしまった。

見張ってたって無意味なんだ。皆がちゃんとしてれば僕はミスなどしないのだから…



その日の帰り道、またこの前のお婆さんを見かけた。

今日は黙って座っているようだった。後ろ姿だったから、表情は見えないが、もしかしたら寝ているのかもしれない。

そばまで来ると、やっぱり寝ているのがわかった。足元の猫も、お昼寝中だった。


快晴の陽を浴びて赤茶の毛は黄金色のように輝いていた。綺麗だなぁと見惚れていたら、薄眼を開け前脚をつき出し、思いっきり伸びをしてから、また寝てしまった。

呑気なんだな、羨ましい。


僕の仕事は、物流の仕分け作業で、日勤の時間パートってやつだ。しかも15時までだからこの時期帰る頃にはまだ辺りに陽射しがあり、お昼寝するには丁度良い時間に思われた。だいぶ陽は短くなってきたものの、もう30分位は暖かく寝ていられるのだろう。

何となくお婆さんたちの寝姿に誘われるように、すぐ隣のベンチに僕も座ってみることにした。

暖かいな。

ポカポカしてる。

ここって、こんなに気持ちの良い場所だなんて今まで知らなかった。

お婆さんがここにいる理由に納得がいった。

少しの間、目を閉じて陽射しを身体に感じつつ、うつらうつらしてしまったようだ。

少しして肌寒さを覚えて目が覚めた。ふと、隣を見るとお婆さんと猫はもう居なくなっていた。

どれだけ寝ていたのだろう、多分30分くらいだろうか、西の空に陽が傾き始めていた。

さて、帰るか!…

何となく歩く足取りが軽く感じる。

そして、ほんの少し心が軽くなったような妙な気持ちになっていた。


あれから何日かたったある日、いつものように仕事帰りに公園を通ると、お婆さんと猫がいつもの場所に座っていた。それまで何回か見かけるも、僕はベンチに座る事はしていなかった。お婆さんが起きていると、座りにくかったからだ。

今日は、お婆さんだけ寝ていた。

猫は行儀よく座り、僕が来るのを待っているように視線を真っ直ぐに向けてきた。吸い込まれるような錯覚を覚えながら僕は近づき隣のベンチに腰掛けた。

「にゃぁ〜」と案外可愛い声で話しかけてきた。というかそんな気がしたものだから、

「こんにちは。」と、つい、僕も応えてしまった。

その時、お婆さんが目を覚ました。すると、その猫はお婆さんの足元に擦り寄って、「にゃぁ〜、にゃぁ〜…」と、まさしく猫なで声をあげた。

僕は、こんにちはと言ったことが恥ずかしくなり、直ぐに立ち上がって家路に向かった。



第3話へ続く…

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