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 九十分間の昼休みの内、三十分ほどで給食を食べ終えた女子中学生と男子中学生は、校舎一階の文化部用にと用意された九つの少し間取りが小さな教室の内、教室札に魔法部と書かれた教室へと入って行った。


「俺の名前は神字屋龍かみじやたつ。吸血鬼だ」


 三台横に並べて置いてある一人用の机を挟んで向かい合って座ったら、男子中学生は強い眼差しを向けながら名乗った。

 同じクラスだし知っているとは、女子中学生は言わなかった。

 多分覚えられていないのだと思ったのだろうが、そもそもこの学校で知らない者はいないはずだ。

 吸血鬼、寡黙、一匹狼、大人びた雰囲気、怖い目つき、少し細い体格、ポニーテールの彼は秘かに、けれど多大な人気があったから。

 女子にも男子にも。


「私の名前は笹田流竜ささだるりゅう。魔法使い。一人前には程遠いけど」

「頼みがある」

「え?うん」


 今もどうしてか逃げたがっているぬいぐるみのことを先に言おうとしたが、切羽詰まった彼の表情を見て、流竜はどうぞと言ってしまった。

 ごくり。龍は唾を飲み込んで言った。


 俺を一人前の吸血鬼にしてくれ。と。










(2022.6.8)


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