羊雲
魔法使いの女子中学生が桜のぬいぐるみを持って帰って来た翌日。
見渡す限り、羊雲でいっぱいの薄空の下、女子中学生はせかせかと歩いて学校の建物へと入って行った。
ぬいぐるみをスカートのポケットに入れて。
しかし、桜ではなく、紅、橙、黄に染まったよもぎの葉のぬいぐるみを。
女子中学生が起きた時には、もう変化していたのだ。どうしてか。
(さてと。誰の恋心なのかな)
女子中学生はよもぎのぬいぐるみを持ったまま、まず自分と同じ学年の一年生のクラスを一組から順々にのぞいて行った。
使い魔である黒ふくろうの指導の下、ぬいぐるみを持ち主目がけて飛んで行くように魔法をかけておいたのだ。
(一組、二組、三組、四組、変化なし、か)
まだ登校していない生徒もいた上に二年と三年のクラスも調べなければいけないのだ。十分間の休憩時間か、昼休みだけじゃ足りないかもなと思いながら、朝読書の時間が迫っていたため、女子中学生が自分のクラスである五組の教室に入って机と机の間を歩く中、たまたま一人の生徒と目が合った時。
よもぎのぬいぐるみが手の中で暴れ始めた。
向かっていくはずなのにどうしてか逃げようとしているようだ。
女子中学生はごめんと謝っては、グッとぬいぐるみを握りしめてその生徒の元へと急いで向かい、静かに席に座り窓の外を眺める男子中学生の真正面に立つや、よもぎのぬいぐるみを目の前に見せつけた。
男子中学生はなんだこのぬいぐるみはと言った。
ビンゴだ。
持ち主以外にはぬいぐるみは見えないのだから。
女子中学生はにこりと笑って昼休みに話があると言えば、男子中学生もまた、俺も話があると言ったのであった。
(2022.6.7)
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