第149話 君の価値>鉱山(当然です。半分なんて話にもならない)
「あなたが私を相手として見てくれないからよ」
手を振り解かれた。
まわりをはばかりながらも、サリーさんは止められなくなったように小さく続けた。
「あなたじゃなかったら、誰でもいい。誰でもいいんだから、少しでも国に有利な条件で責任を果たしたいの」
「そんなの、破れかぶれなだけじゃないか」
「違うわ!」
俺とサリーさんは無言で睨み合うように立ち尽くした。隣の部屋がさらに騒がしくなり、ばたばたと人が出入りしているような音がする。
サリーさんが目を伏せ、話を打ち切るように言う。
「結婚はするわ。クロノ、あなたはこのまま私についてきて」
「いやだ」
俺は即座に答えた。
「鉱山の半分なんか、突っ返したらいい。君が幸せにならないってわかっていてそんなものだけもらったって、国が良くなるとは思えない。君は連れて帰る!」
俺は改めてサリーさんの手を掴んだ。サリーさんが戸惑ったように俺を見る。
「鉱山?」
俺は戸惑うサリーさんの手を引いた。サリーさんが抗う。俺は思うようにサリーさんが動かないのでより強くサリーさんの手を引き、その勢いで少し荒々しく、言った。
「鉱山をくれる王子がいいなら、他に、絶対に見つける。だからもう少し待って。今は帰ろう」
「帰らないったら。それに、鉱山を持っている王子なんて、いないわ」
「探すよ。見つけてみせるよ。半分なんてケチなことを言わない、鉱山を全部くれて、優しくて立派で君を大事にしてくれる、君にふさわしい王子を。だから」
サリーさんは苛立ったように俺を見た。
「クロノ、さっきから何を言っているの?ずいぶん気軽に鉱山なんて言うけど、あなたにその価値の何がわかるの!?」
「わからないけど、君より大事なものなんかない!」
サリーさんはぽかんとした。
「……この辺りならどこの国でも、鉱山はとても貴重で、経済の大きな柱なの。だから、みんな国営で、自分の鉱山を持っている人なんていないのよ。王様でも」
「え、そうなの?」
俺もぽかんとした。サリーさんが少しだけ口調をやわらげる。
「知らなかったのね。びっくりした、急に鉱山の半分なんて言い出すから。ありえないのよ、そんなこと。口説き文句としては破格だけど」
サリーさんが少し笑った。冗談だと思っている。俺は戸惑った。
「でも、ヤード公がそう言っていたんだ。サリーさんを連れてくる代わりに、鉱山の権利を半分もらうんだって」
「まさか」
サリーさんが短く否定する。
俺はよく思い返した。何か聞き間違えたか?
「王子が鉱山の権利を半分も差し出したってヤード公が言って、マリベラさんも、サリーさんが鉱山の半分、って言って……」
確かにそう言っていたし、嘘をついている風ではなかった。マリベラさんもすぐに信じていたし。
しかしサリーさんは信じてくれなかった。
「クロノ、それはきっとクロノの聞き間違いか勘違いよ。結納品だとしたって、私は国の統治者でもないんだから。そんなにたくさん出せるはずがないわ。あちらの議会が許す訳がないし、そもそも結納金の取り決めはもう済ませてあるもの。変更があったなんて聞いてない」
「でも、本当にそう聞いたんだ」
俺は言い張ったが、サリーさんは聞いてくれない。
「だから勘違いよ。結納品の目録があるわ、エリアさんが戻ったら見せてあげる」
そんなはずはない。ヤード公は鉱山の半分があったから動いたんだ。
「サリーさん、本当なんだ。だからヤード公が兵隊まで動かしたんだ。鉱山の半分で、君は」
「やめて、クロノ。いい加減にして!」
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