紫陽花

あの人は、いつもこの席の斜め前に座る。


それは、5月の雨が続いた日だった。

私は大学のレポートを書くために、太宰治全集を読んでいた。1時間ほどたったくらいだろうか、少し雨に濡れた彼女が斜め前の席に座った。彼女の白い頬を滴る雨露がゆっくりと流れ落ちる。そして、彼女はこちらをそっとみると、申し訳なさそうな顔で小さくお辞儀をした。


私は顔を逸らした。心臓が高鳴る音と先程まで聞こえていなかった雨音が酷く聞こえた。

それが、恋ともわからず。


今日は公務員試験の勉強をいつもの席でしている。夜の19時まで。そして彼女もいつも通り、席に向かってきた。

ただ、違ったのは横に同じ学部なのか、男性が1人いたこと。


初めてあった時と同様、心臓がたかなった、雨の音も酷く大きく聞こえた。そして私の頬にも雨露が流れた。

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