ダリア
生徒指導室まではいかないが、休み時間に担任の先生に呼び出された。私としては怒られるのが嫌な反面、嬉しい気持ちもある。
「あのね、呼び出した理由はわかるよね。」
「ピアスですよね。今日で3回目だから。」
まき先生は困りながら優しく言葉を重ねた。
「そう。3回目。やりたい気持ちはわかるのだけど、学校には不必要。ピアスをしなくてはいけない事情がある訳でもないし……」
私にとっては先生と2人で会える絶好のチャンスだから、こうしてともいえず、
「すみません。」
と答える。
「私も伝えるのは嫌なのだけど、みきさんのお母さんにも連絡いれるね。次はほんとにやらないでね。」
そう困りながらいう。怒ると言うより注意だ。先生は優しい。でも、みんなに指導する時は厳しい。不思議な人。
「あの、いっこきいていいですか?」
「ん?なに?どうしたの?」
急な私の発言におどけてみせる。そしてじっと目を見つめる先生。
「先生はピアス。あけないんですか?」
そういうと、しなやかな手先で左の耳たぶに触れる。それから親指と人差し指でぎゅっとつまんだ。
「そうね。ピアスは本当に好きな人にあけてもらおうと思ってるの。なんだか幼い発想よね」
そう言って照れながら、そして強い意志で。
「見つかるといいですね。」
私がピアスをあけたいと思うけれど、不可能じゃないかと現実を悟る自分が嫌になった。
「まき先生、学校お休みだって。」
三学期の後半、あと数週間で1年生も終わりの頃。先生は来なくなった。
あれから2年。
「おはよう」
「まき先生。戻ってきたんですか?体調直りました?私、3年生になっちゃいましたよ?あ、私のこと覚えてますか?」
「うん。覚えているよ。久しぶりだねみきさん。もう立派になったんだね。」
そう嬉しそうに言う先生を見て私も嬉しくなった。初恋の人が戻ってきてとても嬉しかった。
でも、 彼女の左耳にはダリアのピアス。
私も嫌味に覚えていた。
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