桔梗


せいこちゃんは目が見えない少女。いつも先生が、せいこちゃんの杖になっていた。


「先生、私がやりましょうか。」

最初は先生へ向けてのただの良心だった。


「せいこちゃん。私、ゆなって言うの。今日から先生と一緒に支えるね」

そう言って彼女と2年間過ごした。


私はせいこに恋心を抱いていた。目が見えないぶん、彼女は必死で、誰よりも美しかった。そんな彼女が愛おしかった。けれど、この不純な気持ちに苛立ちもあった。私は彼女の杖出なければいけない。

今まで築いてきた信頼を壊すわけにはいかないと。

それなのに、私はせいこへの思いを伝えることが我慢ならなかった。


不器用ながら点字で文字を打った。そして彼女に渡した。


「せいこ。これ、男子から、せいこにだって。」

私は自分の書いた点字のカードをせいこの震えた手先にそっと渡した。せいこは私に寄り添いながら、席に座わった。


「ありがとうゆな。えっと、

お れ は せ い こ さ ん の こ と が す き で す

告白……?でも、名前がない。」


「あ、ほんとだ。どうしようか。」

おとぼけしたふりで、せいこに寄り添う。


「ふふ、でも。きっといい人ね。優しい人。私、この人だったら付き合っても良かったかもしれない。」

私は少し慌ててしまった。私が書いたとは言えど、私と名乗ってないが故に、少し複雑な思いだった。


「ゆな。ききょうのこと教えてくれたの覚えてる?」


「え、うん。なんとなく。」


「私、桔梗がどんな花か見たことないけれど、きっと可愛らしい花だと思うの。だって永遠の愛って花言葉を持つんだもの。私は外見は見えないけど、中は見える。このお手紙をくれた人は、きっと桔梗のような人だと思う」


「そうだね」

私の頬には涙の跡がついていたこと、彼女には見えないだろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る