11話 相棒にも幼馴染にも困ったもんだ
「よぉ、ソラヒメ」
朝一番、俺はベッドの上で丸まっている毛布の主に声をかけた。
『...』
「いつまでそうして布団被ってんだよ」
『......』
丸で反応が無い。
サナギの様だ。
「とっとと朝飯食いに竜舎に行けよ」
『!』
あ、ぴくっと反応しやがったこの野郎。
やはり昨日の夜から部屋に篭りきりで何も食ってなかったらしい。
腹が減ったならとっととベッドから出ればいいのに全く、こいつは昨日の夜からこの調子だ。
夕飯時を逃してまで部屋に戻ってきてやったのに夜からずっとベッドの上で丸まって顔一つ見せねぇ。
しょうがねぇ、
「お前、俺にキスしたのがそんなに恥ずかしかった訳?」
ボン!と言う音と共に毛布が弾ける。
『そ、そんな訳無いでしょう!
私は仮にも竜姫、たかが人間とキスした位で恥ずかしがる訳無いでしょう!!』
顔を真っ赤にして弁解するソラヒメ。
「ちょっ、ホコリ立つから毛布こっちにぶん投げんじゃねーよ。
てか嘘つけお前、顔真っ赤じゃねーかよ」
『ち、違います!
本当は、その...』
えっと、その...と言い淀むソラヒメ。
こう言うソラヒメを見るのも新鮮で悪くはないのだが。
...はぁ。
「俺と昨日から顔を合わせない訳は他にあんのか?」
コクリとしおらしく頷くソラヒメ。
「そっか、ならもう聞かねーや。
いらねー詮索して悪かったな」
もうこの会話はヤメだ。
相棒にも話したくないことならまぁ、仕方がねーや。
「俺は飯食いに行くけど、お前はどうすんだ?」
『...私も竜舎に行って食事をしてきます。
それではまた後で会いましょう』
漸くベッドから出ていつも通り窓の方へ歩き出すソラヒメ。
『それとシムル』
「ん?
どした?」
『貴方のそう言う所が大好きです』
ソラヒメは窓から飛び降りる手前、クルッと振り返ってそんな事をポツリと言った。
「おう、ありがとよ」
よく分からねーけど取り敢えず返事をしとく。
全く、不意打ちも良い所だ。
さて、ソラヒメも行った事だし俺もそろそろ行きますかね。
お
んー。
何か忘れてる気がするけど、まぁ、いっか。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
ソラヒメは憂鬱な表情をしながら竜舎へと向かっていた。
その場にシムルが居たなら「何だしけたツラしやがって」と発破をかけられていただろう。
だとしても、ソラヒメの反応は部屋にいた時と変わらずいつもよりしおれた様になっていただろう。
何故なら。
『貴方の魔法は
などとどう言えば良いのか。
正直な所、ソラヒメがシムルに顔を合わせない理由は恥ずかしかったというよりも申し訳なさが勝った結果だった。
ソラヒメはシムルが
喧騒のない平和な土地ならば
しかし、
少し名のある魔法使いがいれば直ぐにシムルが
そしてそもそもシムルとソラヒメの間には暗黙の了解として「シムルが
しかし、今回の事件でやむなしとは言えそれを馬鹿正直に教師に教えてしまった。
シムル本人の許可なしで。
また、ソラヒメも
だからこそソラヒメはこれからのシムルの身を案じれば案じる程シムルへの申し訳なさに苛まれるのだ。
いっそ素直に言えれば楽になるだろう。
『すいません、貴方が
と。
そうすれば心の広い彼女の
「仕方ねーや、そう言う事もあるさ」と言ってくれるだろう。
しかし、本当にこう言う時どんな顔で謝れば良いか分からないのだ。
昨日の夜からずっと考えていたが、良い方法が全く思いつかない。
正直な所、謝るのが怖い。
また、先程はシムルに『貴方のそう言う所が大好きです』などと調子のいい事を言ってしまったが、結局自分はシムルの優しさに甘えているだけなのだ。
そう考えれば考えるほどソラヒメの心はキツく締め付けられるのだった。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「さて、今朝も相っ変わらず
そうボヤいて食堂を進むと、何やらこっちを見てヒソヒソしてる奴らがポツポツいた。
おいお前ら、言いてぇ事があんならこっち来て言えや。
メンチを切るとヒソヒソしてた連中は「ヒッ」と言いどこかへ言ってしまった。
シムルは知る由もないが、実は昨日の一件は学園中に広く知れ渡っていた。
「例の星竜使いがレオニスの次は
学園中はシムルの人間離れした戦闘能力の噂で持ちきりであった。
「全く、感じ悪ぃなぁ...」
そう言いながらカウンターで朝食を受け取り適当な席を探す。
さて、この時間ならまだテーラは居るはずだが。
グルリと食堂を見回す。
「...!」
あ、テーラと目があった。
「プイ」
あ、この野郎目を逸らしやがった。
ズカズカと歩いて行ってテーラの真正面に座ってやる。
「オイコラ、朝からなんだよ。
せめて無事だったのかの一言くらいくれよ、俺は寂しいぜ」
おどけながらいつも通り煽ってみる。
いつも通り噛み付いてくれよ?
「...フン。
良いわよ、どうせシムルはソラヒメ様にゾッコンなんでしょ。
何よ、あんなに見せつける事無いじゃない」
.....は?
どうやらしょうもない勘違いをしてるらしい。
頭が痛くなってくる。
「オイオイ、色々とそれは違うっての。
そもそも俺はあの時寝ちまってて見せつける様になんざキスできねーよ」
ガシャン!
テーラが両手を机に叩きつけて周りの食器が飛び跳ねる。
おい、周りの連中がこっちに注目してんだろやめろ。
「何よ!
私は一言もキスなんて言ってないわよ!
でも今アンタキスって言ったわよね!?
言ったわよね!!
やっぱり記憶があるじゃない何よ、人が心配してたのに最低!
信じらんない!!!」
「いやお前なに怒って...」
「フン!!!」
一通りまくし立てるとテーラは勝手に怒ってどこかへ行っちまった。
周りの目が怖え。
いや俺は何もしてねーよ、あいつの勘違いだよ。
それにキスしたのは後から聞いた話だっての。
あいつ何を怒って...って成る程。
そう考えれば辻褄が合うか。
...はぁ、久しぶりに再会した幼馴染に惚れるなんざ、正直物語の中だけの話しだと思ってたよ。
俺だってそこまで鈍感じゃねーし直ぐに分かるっての。
あいつ、気づいて欲しくてツンケンしてやがんな?
ホント、分かりやすくて可愛い奴。
「やれやれ、全く困ったさんだわ」
そう言ってため息をついて俺は朝食に手をつけ始めた。
「そうだオイギャラリー共、そろそろ俺をチラチラ見るのをやめろ、飯がまずくなんだろ」
「「「ッ!」」」
後から食堂に入ってきた教師や生徒曰く、その日の朝の食堂は夜のしじまの様に静かでたいそう驚いたとか驚かなかったとか。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「さて、今日の講義を始めますよ」
マール先生が教壇に立つ。
「前回は操竜術の概論でしたが、今回は魔法の基礎知識についての概論です」
先生がチョークで黒板に色々と書いていく。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
要素:
炎
水
地
風
要素:
物質転成
物質強化
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ジーッと見ていくが...大体ソラヒメに前教えて貰ったのとほぼ同じだな。
俺が使える魔法がこの中にある訳じゃないが、一応聞いておくか。
「まず、魔法は基本的には1人辺り1要素1属性しか使えません。
これは自分の生まれた環境、月日、星座等が複雑に絡み合いこの世に生まれた直後に1要素1属性に絞られるからと言われています。」
ソラヒメが言ってた星座占いの延長線みたいな話が出てくる。
生まれた時、つまり体内の魔力が少ない時は周りの魔力の影響を受けやすい、だったか。
どうやら自分の星座と一緒に使える魔法も生まれた時に決まってくるって話をここではしているらしい。
「さて、それでは魔法の要素、属性の話に移ります。
1つ目に
その中の属性は炎、水、地、風とありますが、この4属性について、誰か共通点を言える人はいますか?」
マール先生がクラスに質問を投げかける。
流石にクラスの大半は気がついていて当たり前みたいな質問だ。
最近入った俺ですら分かる。
「はい、先生」
クラスの1人が手を挙げる。
「どうぞ」
「その4属性は、火竜、水竜、地竜、翼竜の4種の
「そう、正解です。
自然現象の化身である
なのでこの属性の種類はワイバーンの種類と同じく4属性になります。」
素晴らしく分かりづらい言い回しだ。
教科書をパラパラとめくると...同じ言い方をしているから困る。
ま、取り敢えずどんな感じかイメージは掴めたから良いんだけど。
「また、
用途が転成と強化の2つしかないので使用方法は非常に狭い範囲となってしまいますが、極めれば凡そ人々の暮らしに莫大な利益を与えることができるため重宝されています。
また、この技術を使って戦闘を行う魔法使いも
転成か、聞いたことがある。
ある程度重さを持つ物体を別物の物体に組み替える事が出来るとか何とかで、この国の火打職人は大体がこの魔法の使い手で鉄を自由に生成してるとか。
また、王宮に使える転成使いは金すら生成できるってのがもっぱらの噂だ。
強化は...確かそのままだったはずだ。
魔力を通して物体の強度を変更できるとか。
その特性を生かしやすいからか、大体建築系の職人に多い魔法だった筈だ。
「さて、ここまでは魔法の種類について説明しましたが、皆さんが知っての通り魔法には《ランク》と言うものが存在します」
ん?ランク?
聞いたことのない単語に意識が思考から黒板へと向かう。
「ランクについて授業で取り扱うのは初めてなので一応説明をしておきますね。
ランクとは端的に言えばその魔法がどの程度の性能を持つかを魔力量、連続発動時間、魔法の発動結果などを総合的に分析して導かれる言わば魔法の格の事です。
一般にはD〜A+ランクが有名ですね」
そう言って先生はランク毎の説明を黒板へと書いていく。
その板書内容はザッとこんなもんだった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
魔力量:魔法使い自身が魔法発動に必要な魔力の量。 消費が少なければ少ない程良いとされる。
連続発動時間:どれだけ連続してその魔法が発動できるか、その継続時間。当然長時間に渡って発動できた方がよく、凡そこのパラメータで魔法そのものの燃費を伺うことができる。
発動結果:
レート
D:魔力量、連続発動時間、発動結果全ての質が悪い
C:魔力量、連続発動時間、発動結果の中の1つがある程度秀でている
B:魔力量、連続発動時間、発動結果の中の2つがある程度秀でている
A:魔力量、連続発動時間、発動結果の中の全てがある程度秀でている
A+:魔力量、連続発動時間、発動結果の全てが非常に秀でている
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ほーん成る程、まんまじゃん。
要するに魔法使い本人について逐一説明するのが面倒だから適当な文字に当てはめたものらしい。
「そして、皆さんもたまに聞くと思いますがランクにはD〜A+の更に上があります。
それはSランクと言われ、そのランクに達した魔法使いは
聞いたことがある。
確かユグドラシルを建国した、歴代最強のドラゴンライダーと名高い初代国王の2つ名だった筈だ。
「この
マール先生が再び黒板へと板書を始めた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
使用魔法の発動結果が魔法の枠組みを超えた性能を発揮すると判断された場合に襲名される。
具体的には死者蘇生、天災を引き起こす等人の手で行えば奇跡とも言える程の力を行使した場合である。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
おいおいなんだこりゃ。
流石の
こんな化け物が本当に存在するのか?
「また、
しかし、理論上魔法を極めれば皆さんにもなれる可能性があるので、是非とも皆さん頑張ってください」
先生がクラス全体に微笑みながらとんでもない期待を口にする。
やっぱ
「とは言え、皆さんはまだローナス尾段。
竜操術の基礎以外は魔法をしっかりと使える人の方が少ないので、皆さんまずはしっかりと魔法の基礎を身につけるように」
「!?」
ズルッ、ドン。
驚きのあまり頬杖をついていた頭を落としてしまった。
「あの、シムル君、どうしたんですか?」
マール先生の問いかけにクラス中の視線が集まる。
「いや、その...。
すんません、何もないっす」
適当に誤魔化す。
おいマジか。
まさか魔法を使えん奴が大半とは思わなかった。
あのレオニスとか言う坊ちゃんみたいなのは実は少ないらしい。
と言うか、昨日竜が暴走した時抑えようとした奴が俺以外にいなかったのはそういう事か。
などとシムルは納得してみるが、そもそも魔法が使えた所で竜を抑えられる方が稀なのだ。
そう言ったことを知らずこの
「さて、それでは今回の授業はこれで終わりたいと思います」
ゴーンゴーン。
マール先生の授業が終わると共にチャイムが鳴る。
さて、それじゃ昼飯を食いに行きますかね。
それにしても授業を聞いても頭が痛くならねー辺り、大分俺も
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