12話 気がつけば明日が模擬戦だった
食堂で昼飯を平らげてからクラスへと戻る。
ガラッとドアを開けるとガヤガヤと騒いでいたクラス中がぴたりと静まり返った。
相変わらずだなこの反応は。
朝の食堂でもそうだったが、どうも俺は妙に目立つらしい。
坊ちゃんとの喧嘩以外にも昨日の事が明らかに噛んでそうな雰囲気だ。
つーか、仮にも命の恩人に対してこのクラスの連中は酷すぎじゃね。
周りを無視して席に座る。
そう言えばと思い出して、初めて授業を受けた時に周りに寄ってきてくれた連中に目を向けてみる。
「「「ヒッ」」」
あーあ、ダメだこりゃ。
全く、俺は静かに受け身になって生活してんのにどうしてアッチから面倒が飛び込んで来るのかねぇ。
お陰で俺は腫れ物扱いだぜチクショウ。
で、テーラの方はどうだ。
「プイッ」
相変わらずおかんむりの様で。
ゴーンゴーン。
予鈴がなると同時に黒板側のドアから誰かが入ってきた。
あ、確かこの前竜の骨格について熱弁してたリチャードとか言う
「はい、それでは竜生態学の授業を始める...と、言いたい所だが。
シムル君、アルバヌス学園長が呼んでいるからちょっと行って来なさい」
「ん、俺っすか?
また何で」
あのジジイが絡むと大体面倒な事になるから行きたくないのだが。
「うん、私にもよく分からないが、恐らく昨日の一件についてじゃないかな」
あー、嫌な予感しかしねぇ。
俺が
クラスの様子を見るに、間違いなくこの学園に居づらくなるんだが。
えーと、あのジジイ曰く俺がこの学園に居なきゃ王宮の連中に軟禁される、だったか?
...オイ、これ軽く詰んでね?
「さ、シムル君、兎に角行って来なさい。
大丈夫さ。
昨日の一件は君が居なきゃクラス全員が危険だったんだし、学園長も君を咎めはしないだろう」
「いやぁ、そう言う事じゃ...はぁ。
了解っす、行って来ますわ」
ダルく返事を返して席を立ち、廊下へと出る。
願わくば面倒になりませんよーに。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
学園長室前に到着。
はてさて、とっとと入るか。
「シムル君、居るのはわかって居るから早く入って来なさい」
チッ、学園長め。
もう勘付いたか。
とっとと要件だけ聞いて帰るか。
ノックもせずにドアを乱暴に開けて部屋に入る。
「ウッス学園長、俺に何か用っすか?」
「ふむシムル君、授業中呼び出して悪かったね。
今回は君に用事というか、君の事が心配になってね」
「心配?
まぁ、最近ヤケに忙しいですしねぇ。
王都に連行されて喧嘩ふっかけられて王宮に連れてかれて
それでももし心配なら田舎に帰して欲しいっす」
嫌味全開でまくし立てる。
「ふむ、それだけ元気なら問題無いじゃろう」
オイ学園長、人の話聞いてたか?
「実はワシが心配しているのはそんな所では無くてだな」
いや、一つ一つ大事件だし大問題だろ。
生徒の気持ちになってくれやこのクソジジイ。
「シムル君、明日の
アッ。
「アッ」
「ふむ、忘れていた、と」
うっわ、何かもう色々ありすぎて忘れてたわ。
今朝何か忘れてるなーとか呑気に思ってた俺を引っ叩きてぇ。
明日の準備もクソもしてねぇや。
何てこった。
「仕方ない、午後の授業については私からリチャードに言っておく。
君は今すぐソラヒメ様と合流して明日の対策に充てなさい」
「マジっすか?」
このジジイたまにはやるじゃん。
ありがてぇ。
「マジも何も、学園としては相棒が星竜とは言え何の準備させずに生徒を戦闘させる事は避けたい。
次からこういう事がある時はしっかりと気をつけなさい」
「ウッス、了解っす」
最も、次もクソももうこんな
あの
俺は誓いを新たに学園長室を出て、竜舎へと向かうのだった。
ガチャン、と入って来た時と同じように乱暴にドアを閉めてシムルが退室したのを確認すると、アルバヌスはふぅと言いながら椅子に深く腰掛け直した。
今日シムルを呼んだのは他でも無く、彼の様子を見るためだった。
正直な所、
まさか、シムル君が
昨日アリスからの報告を聞いた時は正直驚いた。
星竜の相棒が
「丸で、初代国王のようじゃのぉ...」
偶然か、それとも必然か。
いや、それは彼の相棒が竜王の娘であった時点で必然だったのかもしれない。
歴史は繰り返す...か。
「ソラヒメー、いるかぁー?」
間の抜けた声が竜舎に響く。
しかし、問いかけに答える声は無い。
竜舎の中に居るのは丸まっているワイバーンばかりでソラヒメの姿が無い。
...あ、昨日暴れてぶっ飛ばしたワイバーンも居る。
3頭とも全身包帯でグルグルだった。
ワイバーン達は俺を見つけると『クゥン...』と言う哀愁漂う鳴き声を出して再び体を丸めてしまった。
「いや、ぶっ飛ばしたのは悪かったって」
アレは正当防衛の類いになると思うのだが可哀想になってきたので一応謝っておく。
さて、ソラヒメはどこに居るんだか。
と言うか、確かソラヒメ自身はワイバーンを毛嫌いしてたからワイバーンから離れた所にいる筈だ。
「って事は、グラウンドの方か」
ローナス学園敷地内には竜舎の近くに広く芝生を植えてある土地がある。
通称グラウンドと言うらしい。
生徒が講義で使っていない時は専ら竜達はそこで日向ぼっこをするんだとか。
また、竜舎からワイバーン達が出たがらなさそうな所からソラヒメは
ワイバーン達もよっぽどソラヒメが怖いらしい。
そうして俺はグラウンドへと歩き出した。
歩き出してから暫く。
「お、いたいた。
おーいソラヒメェー」
ソラヒメを発見。
池のほとりで昼寝中だったらしい。
『...シムル、どうしたのですか?』
眠たそうに瞳を細目で開けるソラヒメ。
「どうしたもなにも、明日の
ソラヒメと相談して来いって学園長に発破かけられちまった」
するとソラヒメは目をパチクリさせた。
『あぁ、そう言えば明日でしたね...』
異様に覇気が無い返事を返すソラヒメ。
ただ眠たいと言うわけでは無さそうだ。
「お前、まだ元気ねーのかよ。
朝っぱらから本当に変だぞ」
『...そうですね』
どうしちまったんだコイツ。
らしくない。
マジでらしくない。
...しょうがねーな。
「なぁソラヒメ。
俺は余計な詮索はしねぇ、面倒だからな。
それはお前もよく知ってんだろ?」
『...。』
無言。
それでもコクリと頷くソラヒメ。
「ただ、俺は何も聞かねぇがお前が言いてぇ事があるなら聞いてやるよ。
言いたくなきゃ言わなくて良い。
ただ、言えば楽になるなら言っちまえ。
黙って聞いてやる」
何と言うか、朝も今もソラヒメがしおれてる理由について聞かねぇなんて言いつつも、こう言うソラヒメを見ていられなくてつい促す様な言い方になっちまった。
それでも仕方ない。
相棒に元に戻って欲しいのだ。
愚痴の1つや2つ聞いてやる。
『.....。』
無言。
ソラヒメは俯くばかりだった。
「そか、言いたくないなら」
もう本当に何も聞かねぇよ。
そう言って会話を切り上げようとした時、目の前で光が溢れた。
「うわっ、眩し...」
『シムルっ!』
ボフンと言う効果音と共に胸に飛び込んでくる柔らかい感触。
先の光はソラヒメが人間の姿になる時に発するものだったらしい。
「ソラヒメ、お前...」
胸に暖かに流れるものを感じる。
泣いてるのか?とは雰囲気的に言えなかった。
それに、何故泣いているのか、よりもしかしてまた泣かせてしまったのか、と言うショックの方が大きくて俺自身も固まってしまった。
『すいませんシムル、本当にすいません...』
「...いや、謝んなよ。
もしかして、また俺が泣かしちまったのか?」
坊ちゃんの家の連中に拉致られた時みたいに。
『いえ、貴方は悪くありません。
悪いのは私で...すいませんシムル、アリスという教師に、貴方が
嗚咽交じりで切れ切れになりながら話すソラヒメ。
成る程。
それで今朝からあぁだったのか。
本当にしょうもなくて、それでいてとても
「そっか。
ま、そういう事もあんだろ。
言っちまったもんはどうしようもねーし気にすんなよ。
それに、お前のそう言う嘘がつけない所が俺は好きだぜ」
そう言ってソラヒメを抱きしめる。
今朝のお返しだ。
「それにしても全く、こんな事なら最初から言ってくれよ。
お前が真面目な話をする時は嘘をつけないなんて事分かってんだしよ」
『...それでも、どんな顔をして打ち明ければ良いのか分からなかったのです。
それに、打ち明けるのが怖かった』
「オイオイ、俺ってそんな理解無さそうな男に見える?」
『い、いえ!そんな事は!』
反駁する様に言うソラヒメ。
こう言う反応してくれると中々嬉しいね。
「よし、ならこの話はお終いだ。
学園中に俺が
『...シムルは、本当にこう言う時サバサバしてますね。
これから私の所為で苦労するかもしれないのに』
「だから何だよ、今更だろ?
お互い1人しか居ない相棒同士なんだ、持ちつ持たれつで行こうぜ。
それによ、たった今、明日の
気楽に行こうや」
『
それは、どう言う事ですか?』
ソラヒメが首をかしげる。
「おう、俺がお前に相談したかった事ってのは【どうやって俺が
そう、実際明日の決闘で一番肝になってくるのはココだ。
正直、
しかし、その試合で俺が
また、
よって
ここが明日の
「もう学園側に俺が
明日の
それを聞くとソラヒメはフフッと笑った。
『つまり、いつも通りにやる、と言うことですね?』
「あぁ、いつも通りだ」
俺も不敵に笑いかえす。
無謀で結構、全力で上等。
俺たちの力を舐めてかかってきた奴に、この学園中の連中に見せつけてやる。
「なぁ、ソラヒメ。
都会のドラゴンライダーに見せてやろうぜ?
田舎暮らしのドラゴンライダーの実力がどんなもんかってな!」
『はい、シムル。
付き合います!』
俺たちはお互い笑顔で見つめ合う。
お互いの顔にもう迷いがない事をお互いに確認し合い、明日の
待ってろ
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
(そう言えば、テーラについても解決しなきゃな。
『シムル、ため息をついてどうしたのですか?』
「いや、何でもねーわ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます