8話 ワイバーンについて色々聞いてみる
「それじゃぁ、竜生態学教科書の56ページを開いて。
今日の授業内容は第2章 竜の飛行力学についてだ」
教壇の上のハゲが教科書のページを指示すると生徒達はすぐに教科書を開き始めた。
パラパラと言う教科書を開く紙の音が教科書中に響く。
「さて、我々がドラゴンライダーとして乗るドラゴン、もといワイバーン種は火竜、水竜、地竜、翼竜の4種が一般的であるが...シムル君のためにも一応この辺もおさらいしておこうか」
そう言うとハゲは持ってきた紙を黒板に貼り付け始めた。
どうも竜の全身図らしい。
ちなみに、俺としては竜についてはソラヒメが星竜で他がワイバーン、位にしか分からないしこの説明はかなりありがたかったりする。
この手の竜についての知識は一応知っておいて損はなさそうだし、ちゃんと聞いておくかな。
「まずは火竜。
生息地は火山から草原までの幅広く。
この図の通り、まず他の3竜と比べて外観上で違う点は魔力結晶を飛膜前部に爪のような形状で持っている事だ。
この魔力結晶は体内のコロナと呼ばれる火竜特有の魔力を貯める器官から生成された炎の魔力が純度を高め、幼体から成体になると同時に体外に放出される形で生成される。
火竜は喉奥で、他の竜も体内に持っている飛行用の水素とコロナから生み出される魔力を混ぜて火炎放射を行うだけでなく、この爪状の魔力結晶から噴出される炎を使って戦う」
ほんほん、このハゲの説明、実に分かりやすいわ。
そう言えばあの図、前にソラヒメが寝床でゴネた時にソラヒメに脅されてた竜とよく似てるわ。
アレが火竜か、何か拍子抜けだけど。
「次に水竜。
彼らは水中を基本的な住処とし、空中では泳ぐように移動をする。
呼吸に関しては図の通りエラも持つが、肺も持つ。
呼吸方法の使い分けにより、最も環境変化に対する適応力が高いと言われているのも水竜の特徴の一つだ。
また、この通り飛膜は退化して泳ぐ事に適した形状となっているが、体内に水素と特殊な魔力の混ざった気体を生成する器官をもち、体内にそれら特殊な気体を溜め込んでその浮力で飛行すると言われている。
しかし、詳しい事は分かっていない。
ユグドラシルの憲法制度で「死した竜を切り開き、辱める事は如何なる場合はでも赦されない」と言う決まりがあるからね。
その気体を生成する器官そのものについては殆どの人がその実物を見た事がないから、研究が進んでいないんだ。
実はワイバーン種の中で一番研究が進んでいないのは、この水竜種だと言われている」
次にハゲが棒を指しながら説明を始めたのは、パッと見た感じ、魚と竜が合わさった様な感じの生き物だった。
翼がヒレっぽくて「本当に飛ぶのか?」と突っ込みかけるほど竜と呼ぶには不恰好だ。
ここの連中にとっては普通かもしれないが、ここに来るまで竜とはソラヒメ、みたいな感覚だったこっちとしては中々に受け入れ難い姿をしている。
「3つ目に、地竜。
彼らが住むのは深い樹海の中。
基本的には地面に潜っている事が多く、野生の地竜とはよっぽど運が良くないと巡り会う事は出来ないとされている。
地竜の特徴は小さな翼とは対照的な頑丈な後ろ脚だ。
地竜種は基本的には温厚とされているが、いざとなれば強靭な脚力と退化しつつあるものの、ある程度は残っている飛行能力による猛反撃に出る事がある為、怒らせた時の危険度は最も高いと言われている。
また、体内に持つ魔力量も4竜種中もっとも高く、体内に持つ魔力と肺に溜め込んだ空気、飛行用の体内の水素を混ぜ込んだブレスは地形そのものを変化させる程に強力であるとされる」
ハゲがずんぐりとした地竜の図を指しながら説明する。
ガタイが良く、捻れた角を持つその姿は牛を竜としたような姿を連想させるものの、そのガタイの良さは伊達では無いらしい。
筋肉質そうなその体から繰り出される一撃は確かに強力だろう。
それにしてもよ、ソラヒメ。
世の中には色んな竜が居るんだなぁオイ。
自らの常識からすればやはり異形の姿であるワイバーンについて、こう思わざるを得ないシムルであった。
「最後に翼竜だ。
翼竜は前脚だけでなく後脚にも飛膜を持つ、飛行特化型の竜だ。
その上、この翼竜は他の3竜とは違い群れる傾向がある。
他の3竜もある程度編隊を組ませる事は出来るが、5龍騎よりも多い編隊にすると相食む、つまりは野生下には無い集団密集によるストレスで縄張り争いを始める事が多い。
しかし、この翼竜は群れる事が野生下でも珍しく無い為、大きな編隊を組む事ができる。
現に、ドラゴンライダーの多くは翼竜を相棒とし、100を超える編隊を組む事も珍しくはない。
最も、そんな事があるとすれば敵国への総攻撃の時であろうが...話を戻そう。
また、翼竜は飛行特化型である為、機動力が非常に高く、作戦行動に非常に適していると言える。
とは言え、攻撃能力は他の3竜に比べて劣る為、攻撃手段は竜とドラゴンライダーの連携魔法による
左の火竜から始まり、一番右の翼竜の図を指すハゲ。
ハゲの言う通り、確かに翼竜の後脚には飛膜が付いていて、脚は鉤爪が多少あるだけのように見える。
基本的には飛行しつつ暮らしている様だ。
しっかしなぁ。
「...似てやがる」
シムルはそう独りごちた。
そう、顔がソラヒメによく似ている。
一角こそないが、鋭い目のつき方、細めの顔つき。
今まで説明された竜の中で、一番ソラヒメらしい、シムルの知る竜に近いのは紛れもなく翼竜だった。
最も、ソラヒメの様に四肢は無いが。
「シムル君、君の星竜とこの翼竜図、少し似ているとは思わないかい?」
唐突に話題を振ってくるハゲ。
折角なので聞いておくか。
「ウス、丁度今それを思ってた所っす。
何でなんすか?」
するとハゲは少し真面目な顔になった。
「実はね、これは私の持論なんだが、星竜と翼竜は祖先が共通してるんじゃないか、と思うんだ」
「「「!?」」」
クラス中がどよめいた。
シムルは知る由は無いが、このユグドラシル王国の建国神話の根幹に大きく関わる星竜の先祖が渓谷を歩けば見る事のできる翼竜と祖先を共通するなどと言う事は、一般的には最早妄言に近かったのである。
そしてクラス中の視線がシムルに集まる。
星竜程の相棒をそこいらの竜と同系列に扱われたのだ、怒り心頭であっても不思議ではない。
...それがクラス中の生徒の心情だったのだが。
「おっ、そうなの?
ソラヒメについても詳しく分かりそうだしちょっと詳しく教えて欲しいっす」
などと、シムル本人があっけらかんとした態度で、それも更に教えを請う態度だったのでクラス中が仰天したのは言うまでもない。
「ふむ、君ならそう言うと思ったよ」
もっとも、事の元凶のリチャード教諭はこうなる事は想定内だったのか、澄ました笑顔であったのだが。
「それなら、星竜と翼竜の祖先が共通していると言う理由を3つ話そう」
するとリチャードはゆっくりと持論を語り始めた。
まず一つ目の理由
それは竜の化石を発掘していると、火竜、水竜、地竜は古くから居た事が化石からはっきりと分かるのだが、翼竜と星竜の化石は何故か同じ時代の層からイキナリ現れる。
これは何処かで進化が分岐し、翼竜と星竜が同時に現れたと言う証拠ではないか。
ただし、その分岐前の化石は発見に至っていないのでこの論は未だ仮説の域を出ない。
次に二つ目の理由
これは建国神話と言う不確定要素を題材に上げる話であるのだが、少しおかしいとは思わないだろうか。
建国神話では、竜王と建国王の龍騎は千を超える星竜に挑んだ、とあるのだが、翼竜以外の竜は基本的には単独行動をする。
また、千を超える竜ともなれば通常であれば、共食いを起こすはずなのに何故1龍騎を共通の敵として認識出来るほどに統制が取れているのか?
それは昔、星竜が翼竜類の一種であった事の証明である。
もっとも、この仮説も不確定要素が多く、建国神話記念碑に描かれている通り星竜が本当にこの国に攻めてきていたら、と言う前提が無ければ証明されない。
最後に、三つ目。
これは最も信憑性があるのだが、数少ない星竜の化石と翼竜の骨格を比較した結果、相同器官とおぼしきモノがある程度見られた。
例えば火竜、水竜、地竜が風に乗るように飛行する形状をした骨格の翼を持つのに対して、翼竜は星竜と同じく、どちらかといえば風を切り裂いて自らの力で飛行しようとする形状をした骨格の翼を持つ。
また、翼竜も星竜も飛行を早めるために身体も細く洗練され、顔つきはより鋭くなり、飛行時に目の乾燥を防ぐため目は細くなっていった。
「...と、まぁこんな感じだ。
どうかね、シムル君。
少しは納得してくれたかな?
まだまだ持論を出ない域の話もあるが、それなりに確証を持てる部分もあった筈だ」
自分の説明に自信があったのか、意気揚々と聞いてくるハゲ。
ま、俺が答える事は一つだけだ。
「長えっす。
半分も理解できなかったっす」
化石だの建国神話だの骨格だのまぁ予備知識が必要な事ばっか語りやがって。
ソラヒメについてもうちょっと分かるかと思ったらよ、ざっくり言えば本当に
「ソラヒメと翼竜って似てるかも?」
ってだけの話だったじゃねーかよ。
「ふぅーむ、そうか...。
ならシムル君、話のどこが理解できなかった?」
俺を納得させようと熱くなるハゲ。
教師とか教授とかってのは全員こういう時は妙に食ってかかる
ま、でもちょっくら聞いてやろうか。
「うっす、進化って何スカ?」
教室中がひっくり返った。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「...ハァ。
まさか、午前中の授業時間全部使っちゃうなんて...」
目の前のテーラが飯を食いながらガックリと項垂れている。
「オイオイ、文句ならあのハゲに言えや。
『生徒の分からない全てを分かるに変えるのが教師だ!
分からないところは全て聞きなさい!』
って勝手に燃え始めたのはあのハゲだ」
そう、あのハゲが授業そっちのけで、進化から始まり俺の知らない予備知識を次から次へと教え始めたのだ。
あのハゲた頭からどうやって繰り出されるのか、と思う程わかりやすい説明で、さっきまでは半分も分からなかったハゲ進化論が今では6割程度まで理解できていた。
最も、午前中の授業時間を全て食ってしまったのだが。
「あんたがアホ過ぎるからいけないんでしょーがァァァァ!!!!
そもそも何よ!?
何で進化を知らないのよ、一般知識よ!
挙句に建国神話を知らない、何てリチャード先生も目を丸くしてたじゃない!
アホなの?
ねぇ、アホなの!?
あんたの相棒に謝りなさいよ!!!」
「オイコラ、お前がおてんばなのは分かるんだけどよ、飯くらい静かに食わせろよ。
いいじゃねーかよ、俺の質問攻めでお前ら授業を受けなくて済んだんだぜ?
寧ろ俺に感謝しろよ」
「それは一部の考えなの!
大半の私みたいな真面目な生徒からしたら授業時間を1つでも潰されるのは致命的なの!!!」
いつも通り騒ぎ立てる自称真面目な生徒様。
全く、朝から昼までどうしてこいつはこんなに騒げるほど元気なのか。
真面目な優等生様の説教を横目で流しながら、俺は昼飯を口に放り込むのだった。
「...なぁ、このウ○コ色した食いモン結構美味いんだけど、何て言うんだ?」
食堂の空気が一瞬凍った。
無論、
「アァァァァ!!!
それはカレーって言うのよ!
...その食べ物を食べながらそんな事言わないでよ全く、何で食べ物についての一般常識も知らないのよこの田舎者はァァァァァァァァ!!!!
ウワァァァァァァァン!!!!!!」
(いや、田舎にこんなモンねぇからな)
ある晴れた日のお昼時。
少女の悲鳴が広く響き渡った。
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