6話 何かいきなり拉致された

 今日は授業2日目、予定表を確認したら竜生態学とか言うまた面倒臭そうな名前の講義を受ける...ハズだったのだが。


 学園内は通常の授業を行える様な状況じゃぁなかった。

 昨日の夜から、大貴族グランハート家の嫡男が何者かによって暗殺されかけた、とかなんとか教師連中がかなり騒いでやがった。


 オイオイ、普通喧嘩なんて負けた方はあんなモンだろ。

 王都の連中は随分と大袈裟だ。


 また、騒ぎを聞きつけたソラヒメは。

『何やら騒がしいですが、事件でもあったのですか?

 貴方は何かと巻き込まれやすい体質ですからね...まさか、また何かに巻き込まれたんですか?』


 ...巻き込まれたってより今回は主犯なんだけどな。


 取り敢えずは適当にシラを切っておいた。

 この真面目な性格をした星竜ソラヒメ様に、「気にくわない奴が居たからブン殴った」なんて言おうモンならまた説教を食らいかねない。

 面倒はゴメンだ。


 その後、教師達によってグランハートとか言う家には当然連絡が行き、すぐさま王都からグランハート家直轄の調査隊が派遣されてきた。


 本当、ガキ同士の喧嘩で良くやるねぇ。

 過保護な事で。


 しかも、聞いた話だとあの坊ちゃんは記臆が混濁してるとか何とかで、俺がボコした時の記臆が無いらしい。


 ありがてぇ事に、どうやら学園長が手を回して魔法か薬であの坊ちゃんに何かをしたらしい。



 さて、本人は何も分からず目撃者もいない。

 事件は永久に闇の中......だと思ったんだが。



「オイ、お前はレオニス様と一緒に最後までクラスに居たそうだな。

 お前のクラスメイトからの証言でそれは完全に割れているんだ。

 何か知ってるだろう?」


「いや知らねーよ。

 とっとと解放してくれや」


 クソ、こんな事ならソラヒメにだけは本当の事を伝えて助けに来て貰えば良かった。


 俺は勘のいい調査隊さんに目をつけられちまったらしい。

 現在俺は調査隊に拉致され、後手に縛られながら軟禁されている。

 つまり、詰問中だ。

 その上ここに来るまでは目隠しをされててココがどこなのかも分かりやしねぇ。



 何でこんな事になったか、って思い返してみるが、イキナリ調査隊が俺の部屋に突入して来たモンだから抵抗してみれば

「お前が来なければ一緒にいた女に聞く事になる」

 何て言われちまった。

 俺は問答無用で付いてくしかなかった、って訳だ。


 はぁ、この件を何とかしてくれる、とか言ってた学園長は何をしているのやら。

 それと、俺があの坊ちゃんと一緒にクラスに残っていた事をチクッたアホは、後で調べて仕返ししに行こう。


「とぼけるなよ?

 調査の結果、一緒に居たリスフィーア氏にレオニス様をあそこまで痛めつける程の力も魔法も無い。

 よって消去法により、我々はお前が犯人だと睨んでいるんだ。

 今すぐ白状しろッ!!!」


「はぁ、だから知らねーよ」


 気だるげに返答を返す。


「ってか、リスフィーア?」


 ...もしかして、テーラの事か。

 あいつ、親が成功して王都に引っ越してったけど、苗字があるって事は貴族になってたのか。


「オイ、リスフィーアってテーラだよな?

 お前ら、テーラには本当に手を出してねーだろうな?」


「ああ。

 リスフィーア氏に用事は無いからな。

 我々も無用な捕縛はしない。

 さて、そろそろ話してくれないか?

 こちらも時間が押してる」


「いや、だから知らねーっての」


 只管にシラを切り続ける。

 学園長がどうにかしてくれる事を信じて辛抱だ。

 ここで俺が犯人だとバレればロクな事にならないのは、既に雰囲気が語っている。



「...そうか、本当にお前は知らないんだな?」


「あぁ、知らねーよ」


「なら、仕方があるまい。

 オイ、アレを持ってこい」


 俺を詰問していた男がドアの前に立っていた男に指示する。


「何するつもりだよ?」


「お前の態度があんまりにも胡散臭いから、お前の本心に聞いてみるんだよ。

 本当に今回の件と関係なければ、後日詫びを入れよう」


 男がニヤリと口角をあげた。

 マズイな、自白剤的な何かでも使う気か。


 部屋は見た所煉瓦造り。

 先ほど男が自白剤らしき物を取りに行った辺り、小屋って程小さくはなさそうだ。

 ココでひと暴れしようにも手を縛られてる上に、恐らくは今分かってる二人以外にも調査隊が居るだろう。

 単身で逃げるのは不可能に近い。


 ......が、しかし。


「お前らさ、自分たちが誰に何しようとしてるか、分かってんの?」


「あぁ、分かっているとも。

 別に、我々がお前に何をしようが問題ではない。

 幾らローナスの生徒といえど、グランハート家の力で全てを隠蔽できる。

 お前に後ろ盾が無いのは既に調査で判明している。

 今からお前に使うのは副作用で発作が起きるかもしれない代物だが...問題はない。

 食中毒にでも見せかける」


 勝者の余裕とも言える雰囲気で長々と語る目の前の男。

 この調査隊の方々は、俺の全てを把握しきった気でいるらしい。

 でも、一番肝心なことが抜けている。


「なぁ、お前ら俺の相棒についてはどうする気だ?

 また暴れたらアンタがどうにかするのか?」


「何を言っている。

 お前を助けに来るような相棒など、報告書にはなかった。

 ハッタリなど効かぬぞ」


「えっ」


 ちょっ、流石に変な声出しちまったよ。

 貴族の情報網ってどうなってんだ?

 こりゃ網ってよりザルだろ。


 ソラヒメは今頃隠れてる訳でもなく、ローナスのどこかで鎮座ましましてる筈だろ?

 それにソラヒメがローナスを襲撃した事はそもそも外では有名になってると思ったんだが...実際そうでもないらしい。


 てか、ローナスの連中も最初はソラヒメについては知らなかったな。



 ......ん?何だこれは。



 いや待て、今回の件と言い、あまりにもおかしい。

 情報が出回ってなさ過ぎる。


 そもそもこの前の件は、何故ローナスの学園長にすら俺が来る理由を知らされてなかった。

 ローナスはドラゴン関係の事件も扱っている筈だ。

 なのに何故、俺がその絡みでローナスに送られてきた事以外知らされていなかった。


 思い出せ、学園長の爺さんは確か何と言っていた?


「君の話を聞いた後にこの学園に編入させろ、と王宮議会からのお達しは受けているがの」


 そうだ、王宮議会。

 そもそも俺がローナスに送られたのは王都、もとい王宮直轄の部隊サーヴァントにソラヒメの存在がバレたからだ。


 ...まさか、全部王宮の連中が根回ししてやがるのかーーーーーーー


「隊長!!!」


 けたたましい声と共に部屋に入ってきた男のお陰で我にかえる。


「どうした、騒がしいぞ。

 それに、自白剤はどうした。」


 本当に自白剤持ってくるつもりだったのかよ。


「それどころではありません!

 騎士が、騎士が乗り込んできます!!!」


 ん、騎士だと?

 多分、俺を助けに来たのだろう。

 ...今となっては最早どこの騎士かは察しがつくんだが。


「何だと!?

 ...まぁいい。どこのボンクラ共かは知らんが、ココに居るのは誇り高きグランハート家に仕える者達だ。そう伝えて追い払え。」


「無理です!

 乗り込んで来たのは、王宮直轄特殊攻撃第2連隊、サーヴァントです!!!」


 やっぱりな。

 こいつら終わったな、御愁傷様だわ。


「何ィ...!

 馬鹿な、この男には王宮に通ずる後ろ盾なんぞなかった筈だ!

 ...ええい、やむを得ん!

 今すぐに全員撤収する様に伝えろ!」


「はっ!」


 命令を受けて部屋から飛び出す男と、慌てて帰り支度をする坊ちゃん邸の隊長。


 あー、コレはアレだわ。


「あっるぇ〜?

 俺に自白剤を飲ませるんじゃなかったんですかぁ〜??

 全て隠蔽するんじゃなかったんですかぁ〜???

 コレだと全部バレちゃいますねぇ〜????」


 流石に仕返しで煽り得だった。


「こ、コイツ...!

 貴様、覚えていろよ。

 必ず尻尾を掴んでブタ箱にブチこんでやるッ!」


 そう言い残し、坊ちゃん邸の隊長さんはドアを全開に開け放ち、どっかに逃げた。


 何かがドタバタとコッチに近づいてくる足音が聞こえる。

「一人も逃すな、全員捕縛しろ!」

 とか言う物騒な声のオマケ付きで。


「動くな!!!」


 そう言って白銀の鎧と双竜の紋章の剣を携えた騎士が入ってくる。

 前にみた旗と同じ紋章、間違いなくサーヴァントである。


 サーヴァントの一人の隊長格らしき男がこちらを確認するや否や。


「彼だ!彼こそが先のルマルス渓谷にて我々をキマイラから救った恩人にして今回の被害者だ。

 安全を確保し、急ぎ宮廷にお連れしろ!」


「「「了解!!!」」」


 どうやら、俺が助けた騎士だったらしい。


「大丈夫ですか?」


「あぁ、大丈夫だ。

 それと、できればこの縄を解いてくれるとありがてぇ」


 俺は手に巻かれた縄へと視線を落とした。


 縄を解かれた俺は、直ぐにサーヴァントにより外へと連れ出された。

 俺が拉致られたのはどっかの廃城だったらしい。


「王都にこんな所があるのか。」


「ここは旧宮廷跡です。

 まさか、こんな所で詰問をしようとしていたとは...。

 グランハート家も少々やり過ぎましたね。

 この報いは必ずや、ユグドラシル王国の名に懸けて我々が果たします」


 サーヴァントの一人が俺の独り言に答えてくれた。


「あぁ。

 こんな事する連中、是非とも根絶やしにしてくれ。

 俺のお友達曰く、ローナスでもグランハートの坊ちゃんが色々やったらしいから、そっちもな」


「御意に」


 あー、やりずれえ。

 ガキに命令されてもヘコヘコ頭をさげる辺り、サーヴァントの方々はかなりお堅いらしい。


「では、こちらの馬車にお乗りください」


「へいへい」


 これから行くのはさっきもコイツらが言ってた事から察するに、多分王宮だ。

 はー、助かったのは良いけど、また面倒になりそうだ。


 ローナスに連れてこられた時の様に馬車に揺られて暫く。

 夕暮れ頃に王宮に到着した。

 馬車から降りて凝り固まった体を伸ばす。

 体からボキンベキン、と言った快音が聞こえる。


 夕陽を見上げながらふと思った。


(あー、ソラヒメにまた何も言わずにこんなとこまで来ちまったけど、あいつまた暴れなきゃいいなぁ...)


 ...まぁ、良いか。

 今の俺にはどうする事もできないし。

 世の中なる様にしかならないよなー。


 それにしても、目の前にある王宮はthe 王宮って感じの王宮だ。

 誰がどう見ても王宮だろう。

 おとぎ話か何かにでも出てきそうだ。


「シムル様、こちらへどうぞ」


「はいよ」


 突っ立ってたら催促されちまった。

 俺は騎士に連れられ、王宮内へと案内された。



 ふむ、流石王宮。

 廊下とかも豪華な事で。

 魔力灯が馬鹿デカイ廊下に付いているが、これだけの数があると、1日でとんでもない量の魔力を消費するだろうに。

 それを維持してると言うのだから驚きだわ。

 この王国の国力を感じるね。


「シムル様、ここから先は騎士に代わりまして、我らが御相手を務めます」


「ん?あぁ、りょーかい」


 城の中程まで進んだ辺りで俺の案内は騎士から使用人達へとバトンタッチ。


 客間にでも連れてかれるのか、何て思ったのだが、予想外にまず風呂へと案内された。


 横にいたショートで可愛いいメイドさん曰く、


「陛下と姫殿下が貴方様にお会いしたいとご所望です。

 急な話で申し訳ありませんが、まずはお体を清めていただく様、お願い申し上げます」


 だ、そうだ。

 まさかの王様とお姫様直々の面会がこの後に控えているらしい。

 正直王宮議会とやらをやってそうなオッサン共に会うと思ってたんだが......


 まぁ良いか。

 王様にコッチも色々と聞きたい事あるし。

 取り敢えずは言われた通り風呂に入ってスッキリするか。



「わーぉ、広れぇな」


 目の前には巨大な温泉を丸ごと建物に囲って出来た様なモノが広がっていた。

 と、言うかきっとそうしたのだろう。


 浴場内には所々宝石や金銀の装飾まで見られる。


 適当に体に湯を掛けて、デカい風呂に浸かる。

 ザブンと入るが、風呂が広すぎてお湯が溢れる気配がない。


「いやぁー、一生に一度あるかないかの極楽だわぁー」


 湯加減も最高だし、こんな広い風呂を独り占めした事はない。

 あー、ずっとこのまま居てぇわぁ。




 ...本当にそのまま浸かってたら、催促しにきた使用人に叩き出された。

 チェッ、もーちょい居たかったわ。




 次に俺は、間髪入れずに衣装室に通された。

 王様やお姫様の予定は結構詰まってるらしい。

 ここに着いてから休む暇も無しとは、王宮の方々は慌ただしいですなぁ。


 次々に俺の体を採寸する使用人達。

 正直くすぐったい。

 そしてすぐさまマッパにされて、俗に言うスーツを着せられた。


 ...蝶ネクタイがウザいし動きづらい。

 姿見に映る自分はどう見てもアレ。

 こう......うん。

 無いわ。


「なぁ、これ本当に着なきゃダメ?

 似合ってないだろ??」


 横のロングで可愛いメイドに聞く。


「はい、着なきゃダメです。

 それと、凄くお似合いですよ」


「あ、どうも」


 お世辞キッツ。


「では、これより陛下と姫殿下にお会いしますが、くれぐれも粗相のない様お願い致します」


 ......。


「では、付いてきて下さい」


 大量の使用人と共に、豪勢な扉の前に連行される。


 そうして2人の使用人が扉の左右を掴み、タイミング良く扉をあけるそこは。


 うん、the王室、って感じ。


 赤い絨毯にデカいシャンデリア、更に部屋の真ん中には一段と高い所に王様とお姫様が鎮座していた。


 そして脇に控える妙に高そうな装備の騎士達。

 いや、成金貴族っぽいな。

 装飾の施された装備からは微弱な魔力しか感じない辺り、アレらは全て飾りみたいなモノだろう。


 俺は使用人達に連れられるまま、王様の御前へと引き出された。


 横の姫様へ目がいく。

 本当に可愛いなオイ。

 やべぇ、そんな顔で微笑みかけないでくれ。

 にやけちまう。


 ...っと、ここからだな。


「ふむ、お主が星竜を御する者、シムルだな?

 先程お主が拉致されたと聞いて迎えを寄越したが...無事そうで何よりだ。

 グランハートの連中にはそろそろ、キツイ灸を据える必要がありそうだ。」


 王様が口を開く。


「ウッス、そうっスよ。

 先程は助けてもらってどうもっス。

 ...して、一介の田舎者の俺に、王様直々に何の用でしょうか?

 ついでに王宮議会とやらが俺を呼び出したと思ったんすけど...」


「痴れ者が、貴様陛下に向かってどの様な口を利いている!」


 王様の横にいた成金貴族がイキナリキレた。

 将来高血圧で憤死しそうだなコイツ。


 それに加え、先程俺に注意を促したメイドが目で「何をしているんですか!」って訴えかけてくる。


 すまん、よく分からねーがそんなにやばかった?


「ふっふっふっふ」


 ん?王様が笑いだした。


「我が御前でこの数の貴族を見ても臆さずに話をしたのはシムル、お主が初めてだ。

 お主の豪胆さに免じ、今日は無礼を許そう」


「ありがとうっす」


 流石はこのユグドラシルの主、その器は極めて大きい様だ。


「陛下!!!」


 オイ貴族、怖い目でコッチを見ながら訴えるな。

 俺はついさっきお前の貴族おなかまのお陰でえらい目に遭ったばかりなんだからよ。


「良い良い。

 ちなみに、お主はアルバヌス学園長から王宮議会、と聞いたのだと思うのだが、アレは名目上『王宮議会』と言っておいた方が物事が運びやすいからあの名前を使っただけだ。

 お前をローナスに入学させたのは王宮議会の勅命だとアルバヌス学園長には伝えたが、実際には余の指示でお主をローナスに入学させた。

 星竜を操る者など、片田舎に放置する訳にもいかないのでな」


 何だ、そういう事か。

 結局小難しい議会が絡んでいるのではなく、この王様が1人で俺を掻き回した、と言うのが本当の所だったらしい。


「さて、シムル。本題に入るとしよう。

 サーヴァントによる救出後、ローナスへ直接返されず何故ここに呼ばれたのか、心当たりはあるな?」


星竜ソラヒメが俺の相棒だからだろ?

 全く、こんな事になるならサーヴァントなんぞ助けなけりゃ良かったわ。

 てか、よくもここまでソラヒメについて上手く情報隠蔽できたな。

 あんたらスゲーよ」


 王様は少し目を細めて。


「...ほう。貴族に手を出したから、と言った返答が返ってくるのだと思ったのだが......。

 その通りだ。今回の件はお主を宮廷に連れてくるのに丁度良い口実だったのでな。利用させてもらった。

 ......成る程。情報操作についてまで気がついておるとは、流石に星竜に選ばれるだけのことはある」


「そりゃどーも」


 って事は、俺の入学初日にソラヒメが壊したドーム代とかも、情報隠蔽の過程で多分王様が負担してくれてるな。

 ありがたや。


「さて、何でここまでソラヒメについて隠したがるのか、教えてくれませんかね?」


「ふむ、良いだろう。

 お前が契約を結んだ星竜は、伝説の竜王ユグドラシルの娘である事は知っていると思うがの。

 仮にも伝説上の存在である星竜、その上伝説の竜王の娘、更にそれが当代の竜王という事まで世間に露見すれば善かれ悪しかれ、国民は大騒ぎするであろう。

 現在は隣国との戦争中。

 そう言った浮足立った話題は極力隠したい。

 そして、隣国にこの事が知られれば...お主と竜姫はどうなるか、想像するのは容易いと思うのだが?」


 ほーん。

 特殊な事情とかじゃなくて、フッツーにそう言う事情からソラヒメを隠したがってたのな。


「成る程、理解っす」


「さて、この度お主をここに招いた理由はこの事情を話す事と、もう一つ伝えねばならん事があるからだ。

 ...竜姫を、これからも頼んだぞ。

 我々も最大限お主らの情報は隠すが、もし竜姫に何かあったらお主が守ってくれ」


「......そりゃぁ、モチロン。

 でもそれだけじゃぁないんだろ?

 てか、何でソラヒメの身の上を知ってるんだよ」


 どんな面倒を押し付ける気だ?


「いや、それだけだが?」


 おいマジかよ。


「それに星竜の身の上については、当然知っていると言うものよ。

 当代の竜王について、国王たる余が知らぬのは寧ろその方がおかしいとは思わぬか?」


 あー、確かにそれは言えてる。


 ...いや、そうじゃなくて。

 てっきりこの国に由緒あるソラヒメを王宮に渡せ、とか迫られるモンだと思ってたんだが.....。


「ふむ、何故こんな事を話す為にわざわざお主を連れてきたのか、疑問か?」


 俺は無言で首肯した。


「実は、これからもお前と星竜に関してはアルバヌス学園長と結託し、外部に情報が漏れない様にする、といった事を詳しく伝える為に呼び出したのだが。

 もう気がついているならば余から言える事は竜姫を任せる、と言っただけだ」


 本当に何もないらしい。

 それと、学園長の爺さんの裏には実は王様が居たのかよ...。

 通りで昨日「後の始末は任せろ」だなんて言い出した訳だ。


「ただ、現在は隣国との戦争中。

 いずれお前と星竜の力を借りる時が来るかもしれぬが...今はまだその時ではない。

 そうなったらまたココに呼び出すとしよう。

 そのつもりでいてくれ」


「......了解っす」


 今オマケみたいな言い方したけど、実はコッチが本題だろ。

 要するに必要な時が来るまでソラヒメを頼む、って事らしい。

 流石は王様、言い方上手いな。



「ぬっ、どうした?」


 どこからか現れた使用人が王様へと耳打ちする。


「成る程な...シムル、別れの時間だ。

 お前に迎えが来たらしい。

 全く、良い相棒を持ったな」


 ...マズイ、ソラヒメが迎えに来たらしい。


「アイツ...暴れてないっすよね?」


「問題ない。

 ローナスとは違いここは王宮だ。

 竜王の娘なら弁えておろう。

 ここの者達に説明もさせてある。」


 あー、良かったわ。

 なら安心か。


「再び竜王の娘が怒る前に、そろそろ行くが良い。

 お前の事となると、あの竜姫は我を忘れるそうだからな」


「それは確かに。

 それじゃぁ、また会えたら会いましょ、王様」


 王様へと礼をした後で最後にもう一度姫様と目を合わせる。

 あー、スゲェ可愛い。


 さて、ソラヒメがキレ出す前にここから出るか。

 俺は元来た道を走り出し、王宮の出口を目指した。


 王宮から出ると、すっかり夜だった。


 おっ、ソラヒメ発見。

 分かりやすく王宮の門の前にいる。

 ...と、王宮の使用人が大勢ソラヒメに群がっている。

 何かモメてるらしい。


『シムルはまだですか?

 さては、彼に何かをしたのではないでしょうね......!?』


「い、いえ!

 もう少々お待ちください!

 そろそろお出でになるはずですから!」


『それはもう何度も聞きました。

 本当に無事なら、今すぐシムルを連れてきなさい。

 そうでなければ...』


「ちょっ、だからお前は事あるごとにブレスを出そうとするのヤメルォ!!!」


 コイツは王宮を破壊するつもりか!?

 口に電撃を溜め始めたソラヒメを止めるべく、俺は使用人達を押しのけながらソラヒメの元へと近づいた。


 こちらに気づいた使用人達が安堵の息を漏らしている。


『シムル、無事で良かった!

 全く、貴方と言う人は。

 一度じっくり話す必要が...』


「待ってくれ、取り敢えず帰ろう。

 帰ってから話そう」


 無理やりまくし立てる。

 ここにいつまでも居られちゃ王宮の連中も迷惑しそうだしな。


「ではシムル様、お気をつけて!」


 俺は使用人達に見送られながらソラヒメに跨り、王宮を後にした。


 一瞬体が沈み込む様な感覚に陥った後、ソラヒメが空へとグングン昇って行く。

 ソラヒメの体にピッタリとくっ付き、夜の空を滑空する。

 ソラヒメの体に備わる強靭な背筋が翼と連動して動くのを感じる。


 あぁ、こうしているこの瞬間は最高だ。

 こうしているこの瞬間だけは、本当に誰にも縛られない。

 思考が冴えてくるのが感じられる。


 ...そう言えば、気になったことがあった。

 この際だから聞いてみるか。


「なぁソラヒメ。

 お前さ、何で俺の居場所がこの前といい今回といい分かったんだ?」


『この前とは...あぁ、ローナスにシムルが連れ去られた時のことですね。

 貴方の胸にあるルーンが、私に貴方の位置を教えてくれるのですよ。

 そのルーンはタダの印ではなく、お互いを繋ぐ回線パスなのです。

 ちなみに、今こうして念話ができるのもそれのお陰ですよ』


 そう、俺はソラヒメと飛んでいる時は基本的に念話で話をする。

 ソラヒメが飛んでいる中で口を開いても、何を話しているか伝わらないからな。


「ほーん、そうなのか。

 ...つーか、俺の位置が分かるならさ、この前も今回ももっと早く助けてくれよ...」


『いえ、そんな事をすれば貴方が連れ去られた時以外にも私が駆けつけることになりますよ?

 例えば、プライベートで遊びに行った時とか。

 私もその辺を配慮したつもりだったのですが......』


「前言撤回。

 気遣ってくれてありがとうソラヒメ。

 これからもそーゆー事でよろしく。」


『シムル、ローナスが見えてきましたよ』


 おっ、本当だ。

 あの正門はどう見てもローナス......は?


「オイソラヒメ。

 俺は帰ろうぜ、って言ったんだが。

 またローナスに戻るのかよ!?

 どうせまた面倒に巻き込まれそうだし、3日後には模擬戦デュエルが控えてるし。

 嫌だ、嫌だぞ俺は」


『シムル、諦めなさい。

 貴方は私のパートナーに相応しい人になって貰わなければならないのですから。

 いざとなればこうやってまた助けますし、問題は無いです』


「......ハァ、へいへい」


 ソラヒメを説き伏せる事は現在の俺の語彙力では不可能だ。

 あーぁ、困ったモンだ。



 ソラヒメがローナスの竜舎前に降り立つと、教師陣やらテーラが駆けつけてきた。


「シムル!大丈夫だった!?

 グランハート家に攫われたって...!」


「問題ねーよ。

 この通りピンピンしてる」


 そう言って体を見回す。

 どこも怪我はしていな...あっ、スーツ着たままだわ。

 オイテーラ、俺のスーツ姿を確認した途端に吹き出すんじゃねーよ。

 俺だって似合ってねぇ自覚はあるんだしよ。


「シムル君、君の事は魔石通信で王宮から聞いているよ、災難だったね。

 グランハート家は陛下自らの手による断罪が決まった。

 もう安心だよ」


 流石学園長、耳が早い。


「それはよかったっス」


 坊ちゃん家はとっとと根絶やしにされろ。


 と、まぁガヤガヤと色々聞かれようとしていた時。


『皆さん、シムルは疲れています。

 聞きたいことがあるなら、また明日にして頂けませんか?』


 ナイスソラヒメ。

 何かを聞こうとしていた教師陣も、ソラヒメによる鶴の一声で静まった。


「それもそうね。

 シムル、今日は休んで、また明日ゆっくり聞かせてね」


「おう、分かった分かった。

 ソラヒメ、戻るぞ」


『ハイ、シムル」


 そう言ってソラヒメは、昨日と同じ様に人間の姿へと変身した。

 今回は服を着ている。

 オイそこの男性教員、肩を落とすなよ。

 その気持ちはわかるけど。


「なっ、シムル!

 コレどういう事!?」


 あっ、テーラはコレ知らないんだっけ。

 まぁでも。


「また明日話すわ、お休み〜!」


 疲れたし、明日で良いよな。

 俺はソラヒメと共に小走りで逃げる様に寮へと戻った。




「疲れたわぁ...」


 部屋のベッドに横たわり、ダラける。

 その横にソラヒメが座って、ニッコリと微笑みかける。

 ...ん、この笑い方は。


「さて、今回の話を聞かせてくれませんか?

 当然私には聞かせてくれますよね?」


 だよなぁ。

 知ってた、分かってた。


「えーと、簡単に説明するとだな...。

 坊ちゃんを殴ったら、ここの連中が大袈裟に騒ぎ出したせいで坊ちゃんの家に拉致された。

 その後王宮の騎士に助けられて王様とエンカウント。

 学園長と王宮のお陰でお前の存在は情報操作されてる、って話だったわ。

 王宮は隣国との戦争中、って事もあってこれからもお前の事を隠し通すらしい。」


「...成る程。

 国王に会ったり私の存在が隠されていたりと、色々と言いたいことはあるのですがそんな事よりも。

 つまり、今回の件については貴方が引き起こした事である、と」


「.....はい、そうです」


 ソラヒメの絶対零度の声音に思わず敬語になっちまった。

 あー、怒られる。

 そう思った俺は布団をひっ被ってくるまった。


「全く、やはり貴方と言う人は......。

 ただ、私は貴方は理由も無く人を傷つける様な人ではないという事を知っています。

 敢えて誰を庇ったかを隠すのであれば、私もこれ以上言及はしません」


「......。」


 流石はソラヒメ様だ。

 全てをお見通しでいらっしゃられる。


「でもですね......」


 ソラヒメが布団へと潜り込んでくる。


「次からどこかへ行く時は必ず断りを入れてください。

 私がどれ程心配したか......」


 ソラヒメが俺の胸に顔を押し付けてくる。

 ちょっ、そんな至近距離で涙目にならないでくれよ。

 コイツ自分の破壊力を分かってないだろ。


 でも、ちょっと意外だったわ。


「...悪かった、次から気をつける」


 ソラヒメを抱きしめながら、平謝りする。

 まさか、ここまで心配されてるとは...。

 今までは竜だから大丈夫だろ、みたいに扱ってた所あったけど、これからは態度を改めるとしよう。

 相棒とは言え女が泣くのは何度見ても慣れないしな。




 その晩、俺たちは抱き合ったまま眠りについた。


 願わくば、この美少女ソラヒメをこれ以上泣かせませんように。

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