1話 入学する気はサラサラ無い

 機動竜騎ドラゴンライダー

 それは、この国ユグドラシルにおける上級官僚職に並ぶ程の誉れ高い一級職である。


 飛竜に跨がり空を駆け、竜の力と自らの魔法を行使してあらゆる任務を遂行するその姿は、正に人々の憧れにして英雄そのものである。


 そんなドラゴンライダーになろうと毎年、国中から王都にある王立ドラゴンライダー育成学園【ローナス】へと多くの若きドラゴンライダー志願者が集う。


 そうして受ける入学試験は以下の3つ。


 操竜術に関する筆記試験

 基礎体力試験

 基礎魔法概論試験


 また、先ほども述べた様にドラゴンライダーは一級職であると同時に、試験にさえ合格すれば身分を問わずになれる為、平民からの志願が後を絶たず倍率は常時3桁以上である。


 よって、ローナスの門は非常に狭く。

 普通の人間ではくぐる事すらままならない。


 ...筈なのだが。


「はぁ......。

 本当、何で俺が王都なんつー都会の学校に居るんだかなぁ.....」


「ここまできて今更そんなしょうもない事呟かないでよ。

 何でアンタみたいなアホがココに通える事になったのよ!理不尽よ理不尽!!!!

 一生懸命頑張った私がアホみたいじゃない!

 その上学園長直々に面接官をお務めになられるなんて...アンタ、本当はかなり凄いバカなの?」


「うっせ、知るかよ」


 そう、この俺シムルは現在、かの有名なローナスにある学園長室の前にいる。

 今は、このローナスへの特別編入学前に行われるらしい最終面接の待ち時間、って訳だ。


 ちなみに、横でギャァギャァ騒いでるのは幼馴染のテーラだ。

 6年ほど前に親父の事業が成功したとかで、俺の住んでる田舎から王都に引っ越していった。

 その後はかなり努力したらしく、俺とは違い、真っ当な試験を受けて今年ローナスへの入学を決めたらしい。


 また、王都の役人と一緒に、俺をのどかな楽園いなかからここに引っ張ってきた張本人でもある。


 更に驚くことに、この幼馴染に6年振りに再開したかと思えば開幕一言


「シムル!アンタ何やったの!!王都の役人が出てくるなんて只事じゃないわよ!!!」


 であった。


 いや、王都の役人をあそこまで案内してきたお前が言うのかよ。

 6年前は綺麗でおしとやかな美少女だった筈なのに、こんなにやさぐれちまって...


「あっ、今なんか変な事思ったでしょ!!!」


 おっと、顔に出ていたらしい。


「相変わらず勘だけは鋭いなオイ」


「いや、普通に見てれば分かるわよ。

 それに、他に取り柄がないみたいな言い方はやめてよ!

 こう見えてもアンタとは違って、私は自力でローナスに合格した秀才なんだから。

 その上筆記試験は堂々の1位よ!

 アンタみたいなアホとは違うんだから少しは見習って......」


 何かテーラが横でゴチャゴチャ言い出したので、無視して考えにふけることにした。


「んにしても、こんな面倒な事になった理由って...アレか」


 俺のような田舎者がこんな所に連れてこられた理由。

 まぁ思い当たる節は確かにある。


「ここの連中は、ガキが竜に乗っかるだけで騒ぎ出すのかよ...」


「お待たせしました、中へどうぞ。」


 学園長室の扉が開いて、中から青い髪を腰まで伸ばした女の人が出てきた。

 服装から察するに、用務員、ってよりはここに勤める教師であろう。


 取り敢えずは女の人に従い中に入る。


 するとテーラも一緒に入ってきた。

 所で、何故お前はさっきから一緒に居るんだ、とツッコミかけたが、流石の俺も場の空気的にそうは言えなかった。


 自分の前に座る偉そうな爺さんが多分学園長。

 そしてその左横には難しい顔をしてる婆さんが居て、先程ドアを開けてくれた女の人が爺さんの右横に座った。


「ふむ、君がシムル君か。

 遥々セプト村からよく来てくれたね、ようこそローナスへ。

 歓迎するよ。

 私が学園長のアルバヌスだ。

 それと、テーラ君。シムル君のお出迎えご苦労様。

 2人とも長旅で疲れてるだろう。立ち話と言うのも何だし、まずはそこの席に座りなさい」


 学園長のアルバヌスと名乗った爺さんが俺の目の前の椅子を指で指すと、椅子がクルリと回転して俺やテーラの方へ向く。

 遠慮する事もないので俺は椅子へドッカリと座り込むと、テーラが何とも言えないような凄まじい形相になった。


「ちょっと、アンタね!どれだけ礼儀知らずなのよ...!

 普通こういう時は、まずお礼を言うものでしょ!!」


「あっ、そうなの?

 知らなかったわ」


「いやいや、良いんだよテーラ君。

 シムル君も別に気にする必要はない。

 そもそも今日、こんな所に呼び出したのは私なのだから」


 テーラに押され気味でちょっとだけ苦しかった俺に、学園長がフォローを入れてくれた。

 どうやらあの爺さんはテーラの何千倍も寛容な様だ。

 ありがてぇ。


 テーラに向かってニヤけてみると、テーラは「むぅ〜っ」とか言いながらこめかみに青筋を浮かべ始めた。

 可愛い奴だ。


「さて、学園長。

 時間も押してます、そろそろ始めても良いかと」


 そう学園長を催促し始めたのは学園長の左横に座る婆さんだ。


「シムルさん、自己紹介が遅れましたね。

 私はドーラ。

 今日学園長と共に君がこのローナスに入学するに値する人物かどうかを審査する者です。どうぞよろしく」


「ウッス、よろしくお願いしますわ」


 そう返すと、あの婆さんは俺を睨みつけ始めた。

 うっわ、怖え。


「ふむ、ならマール君。

 君も彼に自己紹介をしたまえ」


 そう学園長に言われて立ち上がったのは学園長の右に座ってた女の人。


 あぁ、立ち上がるとどこぞの幼馴染なんかよりもよっぽど大きな胸が揺れて眼福...って椅子の影から俺を抓るなよお前、痛え痛えよっ!!!


 俺の目線に目ざとく気がついたらしいテーラが、前の3人に気づかれない様に俺の足をつねる。


 コイツ、後で覚えてろよ。


 女の人の自己紹介に水を差さない様、顔だけは必死で平静を保つ。

 あんなに美人なら後で絡みたいし、ちゃんと聞いておかないとな。


「初めまして、シムル君。

 私はローナス尾段の担任を勤めるマールと言います。

 学園長やドーラ副学園長と同じく今日はシムル君の面接官を務めさせて頂きます。

 もし、今日の面接に通ればシムル君はそこのテーラさんと同じく私のクラスに配属される事になりますので、よろしくお願いします。」


「ハイ!

 よろしくお願いします!!!」


 先ほどとはうって変わり、元気な挨拶を返す。

 オイ、テーラも婆さんもそんな目で俺を見るな。

 そりゃあんな美人に挨拶兼自己紹介されれば流石に男なら誰でも元気にもなるわ。


 はぁ、ここの女性陣は男心が分かってないねぇ〜。


「さて、自己紹介も済んだ事だし。

 そろそろ面接を始めようか、と言いたいのは山々なのだが。

 そもそも君は、何でここに連れてこられたのか分かっているのかな?」


 学園長がそう切り出す。


「いや、正直全く分からないっす。

 俺を連れて来た役人や横にいる奴やらから「今からここに編入する為の面接を受けてもらう」としか聞いてないんで」


 ジト目で横の幼馴染を見ながら返答する。

 テーラは「はぁ?何でアンタが分かってないのよ??」

 と言った顔で見返してきた。

 分からないからマジで教えてくれよ。


「ふむ、それは災難だったね...。では、まずはそこから説明を始めよう」


 おっ、やっとマトモな説明タイム?

 待ってました。


「ここローナスは、次代のドラゴンライダーを育成する為の学園であると言うのは、君も知っての通りだ。

 しかし、それは表向きの話であり、裏ではドラゴン絡みの事件の解決にも当たっている。

 おそらくは君も、ドラゴン絡みの事件を起こしたのだろう?」


「いや、事件は起こしてないけど、ドラゴン絡みでならある。

 ......なぁ、実はあんたらも俺が何でここに連れてこられたか知らない様な口ぶりなんだけど、どうなってんの?」


「うむ。実を言えば我々も詳しい事は知らなんだ。

 ただ、君の話を聞いた後にこの学園に編入させろ、と王宮議会からのお達しは受けているがの」


 あー、理解理解。


「つまりは、面接なんてモノは出来レースで。

 面接って名前の事情聴取を今からする、って事か?」


「左様、理解が早くて助かる」


 うっわー、マジかよ。

 一から説明とか面倒くさすぎんでしょ。


「さぁ、説明してはくれぬかの。

 君がここに連れてこられた理由を。」


 そう学園長が言った時、一瞬だけその目が光った気がした。

 こりゃ、ごまかしきれねぇなぁ。

 そう本能的に判断した俺は、仕方なく事の顛末を説明する事にした。


 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


 1ヶ月前、俺はいつもと同じ様に相棒と一緒に空を飛んでいた。

 相棒と、そして風と一体になった様な感覚。

 そんな時が、俺にとってはたまらなく至福だった。


 そうやっていつも通り村の近くの渓谷を滑空していた時、聞きなれない遠吠えが聞こえた。


『シムル、あちらに何か珍しそうなものが居る様ですが、少々様子を見に行きませんか?』


「あぁ、良いねぇ。

 暇だしちょっかい出しに行くか」


 意見が一致した俺たちはそのまま渓谷の奥深くに向かって行くと、そこには奴が居た。


 獅子の顔と山羊の頭の双頭、更に尾は蛇で、体は色々な生物が混じり合った様な外見。

 何より、その一際目立つ黒い羽。


 間違いなく、噂に聞く隣国バーリッシュの生体兵器であるキマイラだった。

 何でこんな田舎の渓谷に出てきたのかは知らないけど。


 見れば王都の部隊が必死に相手をしているようだった。

 旗で分かる。


『シムル、私はあのキマイラの相手をしようと思います』


 藪から棒に相棒がとんでもない事を言い出した。


「はぁ!?

 お前、あの旗が見えないの?

 王都の連中だよ、王都の連中。

 しかもあの旗は、関わると面倒な事で有名な王都直轄の部隊、サーヴァントだよ!?!?

 しかもあいつら、戦闘に夢中でコッチに気がついてない。

 面倒になる前に撤退しようぜ」


『いや、ダメです。

 どう見ても彼らは劣勢にある。

 加勢しなければ全滅するでしょう』


 いや、確かにかなり押されてて危なさそうだけどさ。


「関係ねーよ。

 寧ろ面倒事に巻き込まれる方が問題だよ!

 俺は平和に暮らしてぇんだよ!!」


『なら、貴方をココで降ろして私だけで戦います。

 彼らを見捨てる事は私にはできない。

 私と付き合いの長いシムルなら、分かっているでしょう?』


 ......ハァ。

 オイオイ、そんな事言われちゃぁ俺の答えは一つだよ。


「仕方ねぇ、俺もやるわ。

 俺とお前は一心同体、相棒だろ?

 お前1人で行かせるわけないだろ」


 全く、慈悲深い俺の相棒に感謝しろよ、王都の連中共。


『ありがとう、シムルならそう言ってくれると思いました。さて、行きますよ』


「あぁ、行こうぜ」


 そう言って俺たちは。


「『ハァァァァァァァ!!!』」


 キマイラへと突っ込み、それなりに奮闘。

 見事に討伐に成功した。


 しかし、それを見ていた王都の連中に俺や相棒の存在がバレ、この一件は王都に通報されたらしい。

 そして俺は、王都へ連行。


 こうして今に至る。


 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


 全く、こうなったのも全部王都に報告しやがったサーヴァントのせいだチクショウめ。

 折角助けてやったのに恩を仇で返しやがって。


 あ、そうだ。

 相棒に何も言えずに村からここに連れてこられちまったけど......ま、いっか。



「まぁ、取り敢えずはこう言う事ですわ」


 俺は、全てを話終えた。

 すると学園長達も横に居るテーラも目を見開いていた。

 ん?何か変な事言った??


「ちょっと...まさかシムル、あのキマイラを一騎打ちで倒したの!?」


「いや、そう言ってんじゃん」


 人の話聞いてんの?


 てか、その話ってマジでココまで回ってないのかよ。

 王都の連中仕事しろよ。


 バンッ!!!

 何かデカイ音がしてるので振り向くと、婆さんが机を叩いて立っていた。


「学園長!彼を今すぐにこの学園に入学させるべきです。

 言動や態度に難アリですが、それは後に矯正させれば良い事。

 この若さで操竜術を使いこなし、あの飛竜数騎でも太刀打ちできるかどうかと言われているキマイラを一騎で討伐するだなんて、彼は100年に1人と言われる天才ですよ!!!

 その上、もうパートナーとなる竜を自力で見つけているだなんて......!

 将来有望な事、間違いなしです!!!」


 妙にテンション高いな、婆さんや。

 後、俺はこの態度言動を改める気はサラサラねぇよ。

 褒めてくれるのは嬉しいけど。


「ふぅむ、確かに。

 この一件が真実なら、彼はこの学園に入学するに値する実力があるだろう。

 所で副学園長、シムル君の竜はどうしているのかな?」


「報告では現在捜索中で、まだここには連れてこられていないそうです」


「ふぅむ、ならば後はシムル君の竜をここへ連れてくるだけか」


 と、ポンポン話が進んでいく。


「いや、待てよ」


 マジで待て。

 そもそも、だ。


「俺は役人に連れられて仕方なく面接は受けに来た。

 でも、俺は一言もここに入学したい、だなんて言ってないぞ?

 話は終わったし、とっとと返してくれ」


「それは無理だよ、シムル君。」


「はぁ?何でだよ。」


「隣国との小競り合いが絶えない中、突如として現れた、キマイラを単騎で討伐できる程強力なドラゴンライダーである君を国が見過ごす訳がない。

 この学園への入学を拒否したが最後、恐らく君を待つのは軟禁生活がいい所だろう」


「...つまり、俺に拒否権は?」


「無い。」


 あぁ、何てこった。


 俺の平和な田舎暮らしが遠ざかって行く。


 そう悲観していると次の瞬間。


 バァンッ!

 ノックもなしに、その上ドアが破れるんじゃないか、って勢いでメガネを掛けた教師が部屋に転がり込んできた。


「貴方、今は編入学の面接中ですよ?

 用があるなら後にでも...」


「た、大変です!竜が、竜が1体学園内アリーナに突入してきました!!

 幸い、まだ生徒への被害は確認されていないのですが...」


 報告を聞くや否や、婆さんはフンッ、と鼻を鳴らした。


「生徒に被害は無く、侵入してきた竜が一体ならば、狼狽えることはないでしょう。

 ココには50体を超える竜が居るのですよ?

 その上、知っての通りその中の2体は真竜です。

 竜暴走時の非常マニュアルに従い、上級首段生に即時連絡。

 事態の収拾に当たらせなさい!」


「上級首段生達には既に行動させています!

 しかし、進入してきた竜には傷一つ付かないどころか、上級首段生達が完全に押されているのです。

 このままでは危険です!!!」


「なっ!一体、どんな竜が現れたというのですか!?

 たかが竜一体に、複数の上級首段生と真竜が遅れを取るだなんて...」


「侵入してきたのは、白い星竜です!!!

 学園長に副学園長、指示を!

 指示をお願いします!!

 ここで食い止めなくては、この学園だけでなく、王都まで危険に晒されます!!!」


「なっ...!」



 何か騒いでるなぁオイ。

 その上あの婆さん、腰抜かしてやがるよ。

 学園長も黙り込んじまったし。

 何か只事じゃなさそうだ。


 聞けば、ここに白い星竜とやらが入り込んで騒いでるらしい。


 ......白い竜?


「おい、そこのアンタ」


 ドア付近で立ち往生しながら、けたたましく報告していたメガネに声をかける。


「何だい?

 ...そうか、君が編入予定のシムル君か。

 すまない、今忙しいから質問は後にしてもらえると...」


「その白い竜、まさかとは思うけどデカい角が1本生えてて、口から電撃のブレス吐いてない?」


 メガネは目を丸くしながら


「まぁ、電撃を吐くのも星竜の特徴の一つといわれているが......って、なっ!

 何故襲ってきた星竜が一角だと知っているんだ!?

 君はあの竜を知っているのか?」


 うん、よーく知ってるよ。


 そりゃあだって、ねぇ。


「今この学園を騒がせてるの、多分俺の相棒だわ」


 心配性なあいつの事だ。

 どうせ俺が攫われた、とか騒いでここに突撃して来たに違いない。


『!?』


 部屋中が衝撃に包まれる。


「学園長、入学の話はまた後でな。

 ちょっと相棒止めてくるわ」


 そう言って学園長室を後にする。


「あっ、ちょっと待ちなさい!」


 誰かが何か言ってた様な気がするけど、無視してツッ走る。


「相棒が居るっていうアリーナは...あのデカイ建物か」


 廊下にある窓の外にそれらしき建物が見えた。

 そのまま急行する。


 ガシャァン!

 という聞き慣れた音が響いてきた。

 相棒がブレスを放ったらしい。


 ......人、死んでないよな?


 更に急いでアリーナの中に入ると、真っ先に複数の竜が目に入った。


 ドームの天井をスレスレで飛行しながらブレスを放ち、他の竜をなぎ倒しているのはどう見ても俺の相棒であるソラヒメ。


「で、ソラヒメにボコボコにされてるのがこの学園の......竜?」


 色々と予想とは違って少し驚いた。


 ソラヒメには手足があり、背中から翼が生えている。

 しかし、この学園の竜は手がない。

 代わりに手がある所が翼となっていて、背中から翼が生えてない上、えらくトカゲっぽい顔をしている。


「背中に翼がない分、結構乗りやすそうな竜だなオイ」


 現に、竜操術とやらで竜に跨っている人は俺からしたら、割と乗り心地がよさそうに見えた。


 ...ソラヒメのブレスで所々コゲてはいるけど。


 生まれてこのかた、竜と言えばソラヒメしか見たことがなかったけれども。

 世の中にはこんな竜も居るんだなぁ...っていかんいかん、感心してる場合じゃないな。

 ソラヒメを止めねーと。


 これ以上ここにいる人や竜に危害が加われば恐らく、その責任は俺に回ってくるのだ。


 一刻も早く止めなくては。


 このままだと、ブタ箱に入れられる可能性まで見える......!!!


「ソラヒメ落ち着けェ!

 俺はここにいるぞォ!」


 全力で叫びながら、ソラヒメの方へと走り寄る。





『下等なワイバーン共め。

 我が相棒を攫っただけでなく、これ以上私に逆らうと言うのならば、今この場で消し炭に....!』


「だから、やめろっつってんだルォ!?

 聞こえてねーのかソラヒメェ!!!」


 思い切り叫ぶ。


『はっ、この口の悪さは......!

 おぉシムル!無事で良かった!!』


 間に帰るソラヒメ。

 そして見れば下に転がる哀れな竜と学園のドラゴンライダー達。


 遅かったか.....!?


 いや、見た感じ誰も死んでなさそうだ、本当に良かった。


『さぁ、迎えにきましたよ!早く乗って下さい。

 こんな所から、早く飛び立ちましょう!!』


 あっ、もしやこのまま逃げれば俺は学園への入学を回避して、またのんびり田舎暮らしを満喫できたりする?


 でも、ソラヒメがこれだけ荒らしちまったこの建物ドームやらボロボロにした人々や竜については...ま、いっか。


 やったのは俺じゃないし。


「それじゃ、行くぞソラヒメ!」


 そうしてソラヒメに跨がろうとした所。


「あっ、シムル、居た居た!

 こんな所に逃げて。今更逃げようって言ったって、そうはいかないわよ!

 アンタを連れてきた私のメンツにも関わるし...って、四肢と背に翼のある竜?

 まさか本当に、本物の星竜!?」


 怒るのか驚くのかどっちかにしろよ。


「てかソラヒメ、お前星竜って言うの?」


『そうですよ、言ってませんでしたっけ。

 ちなみに、世間一般で竜と言われているワイバーンとは格が違いますよ。』


 だ、そうだ。

 さっきの言動と言い、妙にワイバーンって言う竜の事が嫌いなのだろうか。


 ソラヒメと話をしていたら、学園長達が駆けつけた。


「なっ、本物の星竜!?」


 揃いも揃って、お前らもか。


「待て、逃がすものか......!」


 先程ソラヒメが倒したドラゴンライダーも起き上がってきた。


「人も増えてきたし、これ以上面倒になる前に行くぞ、ソラヒメ」


『はい、シムル』


 と、逃げようとした所。


「待ってくれ星竜よ!

 私達は貴方の相棒に危害を加えようとした訳ではない!!

 寧ろ我々は貴方の主人に高い教養を与えようと言うのだ!!!

 怒りを静め、せめて話だけでも聞いて欲しい」


 チッ。

 学園長め、しぶといな。

 王都の連中から何か言われてやがるな?

 でも、もう俺はソラヒメに跨っちまってるし、一足遅かったみてーだな。


「ソラヒメ、無視して行こーぜ。

 ......って、ソラヒメ?」


 何で学園長の方向いてんの??


「おい翼を畳むな、飛んでくれよソラヒメさぁんっ!!!」


 そんな俺の叫びを無視して。


『分かりました。話だけならお聞きしましょう』


 ソラヒメは、背後の学園長に向き直った。


 そして、他の誰にも読み取れないかもしれないが、俺はソラヒメのこの顔を知っている。

 この顔は......この後絶対に俺の思い通りにはならない顔だ。


 で、ついでに。


「り、竜が喋った!!!」


 再び驚くギャラリー。

 いや、今更かよ。

 てかお前らのワイバーンとやらは話さないのかよ?

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