第25話 県庁占拠②

 埼玉県県庁がクルド人民革命軍と日本社会解放軍に占拠されたことでようやく警察の特殊部隊が出動する事で県庁職員や待機中の機動隊、そして警察幹部にとって安堵の息が浸ける時が訪れたかのように思えた。

 RATS隊員はヘリからロープで降下して降りた者から周囲の警戒をしながら一通りチーム全員が降りた後に建物内に潜入を試みる。

 「奴らとうとう来たぞ。屋上から潜入を試みるのは軍、警察特殊部隊あるあるだな。ここから1発勝負になる。気を抜くなよ。」

クルド人民革命軍と日本社会解放軍の戦闘員達は連携を取りながらRATS隊員が現れる場所を予測して待ち伏せを始めた。

 そして階段から突き出た場所で戦闘員とRATS隊員が出会して銃撃戦になる。

 日本警察が機動隊、特殊部隊向けに採用しているMP5Jの銃口から激しい音と共に硝煙があがり続けて戦闘員が撃ち放すAK74の銃口から飛び出る銃弾が交差するような激戦となり、お互いに犠牲者が出た。

 戦闘員達が致命傷を負ったり死亡している一方でRATS隊員にも死傷者が出ており無事に無傷だった隊員が生死が分からない隊員の身体を引きずり込みながら安全な場所へ移動する。

 外部にはマスコミなどの報道関係者が機動隊を押し除けようとしてでも取材に向かおうとしており足止めされており、応援に駆けつけた警察官も必死に食い止めようとして、それでも言うことを聞こうとしない関係者を拘束していた。

 県庁の付近を包囲した機動隊車両の裏側から近況を調査している埼玉県警察公安部の元に黒色の防弾チョッキを来た眼鏡の男が交代で休憩している捜査員の元へ現れる。

 「防衛省情報要員の金創です。」

メタルソーセージというコードネームを持つ金創誠司が防衛省職員を示す証明書を見せた。

 「お時間があまりないようですし詳しいことと疑わしい事は防衛省へお願いします。」

金創はあらかじめ用意した身分証をさらに見せる。

 「防衛省…ってことは自衛隊か?自衛隊に出動命令はまだ出てないぞ。」

他の捜査員が金創に軽々しく口を開く。

 「うん。確かに出てないよ。でも僕は詳しいことはあまり話せないけど特命受けて来てるんですよ。別に遊びに来たんでは無いですから。」

金創は捜査員を逆撫でするような物の言い方で論した。

「まあまあ、口論はそこまでにして本題に取り掛かりましょうよ。」

班長お思われる捜査員が金創と口数が多い捜査員の間に入る。

 「とりあえず情報本部から我々、特務情報部に回された資料になります。不覚にもこのような事件を起こされましたがそれ以前からも調査しておりましたので。」

 金創は班長にコピーしてまとめた資料を渡した。

 「話はだいたい分かる。日本社会解放軍と呼ばれる過激派とクルド人で編成された革命なんたらと言う奴らだろ?」

班長も大抵の情報は把握してるようだった。

 「その通りです。首謀者はアブナーイ・キケンダーと日本人の宇野大樹。アブナーイは中東とここではやばいですが、宇野も宇野でやばいですよ。特に宇野は海外での訓練経験だけではなく、6年間軍隊入る前は空手、テコンドーの武道も習得しておりますので。」

 金創は宇野の経歴をまとめた資料をさらに出した。

 そしてしばらく時間が経った頃に県庁の一部で爆発音が鳴り響いた。金創と他の捜査員も驚いて咄嗟に車の影に身を隠す。

 アブナーイの部下が爆薬付きのラジコンで潜伏していたRATS隊員の何人かを爆殺したのだった。

 廊下一直線なら辛うじて対処はできていたのだろうが死角からいきなり現れて動揺したのか何人かの隊員が対処できずに爆発に巻き込まれてしまった。

 「栗山、澤谷、田中、鞍島死亡。」

RATS隊員の生き残りが死亡隊員の報告をしていく。

 引きずって退避させた遺体を確認するとほとんど足が吹き飛ばされ、中には手の指や腕ごと吹き飛ばされている遺体まであった。

 ラジコンはランドクルーザーを模型風に再現したタイプで使われたのはおそらく高性能爆薬だと思われる。C4かTNTかよく分からないが爆弾ラジコンは2台器用にRATS隊員の元へ向かった為に致命傷を与えられたのだろう。

 銃撃戦はパソーナ立て籠り依頼で警察庁も流石に頭を抱えている。

 アブナーイが拡声器を持って物陰からRATS隊員がいるのを見計らって呼びかけの準備をする。

 「今、潜伏している警察の皆さん。バカなことは考えずに投降してきてください。こちらには人質が多数おります。これ以上、交戦を交わそうとするなら人質を殺していきます。1人2人殺しても足りないぐらいなので。」

 アブナーイは拡声器でRATS隊員に呼びかけた。

 しかしRATS隊員も警察官だけにアブナーイの呼びかけに応じようとしない。人質は確かに取られているがここで引き下がっては厳しい訓練を乗り越えた全てが水の泡になることが分かっていたからだった。

 「とりあえず俺が投降するからお前らは違う場所へ迂回して任務を続行してくれ。」

RATS隊長は部下にそう告げて装備していたMP5JとUSPハンドガンを置いてアブナーイの元へ向かう。

 「隊長、俺も行きますよ。流石に1人だけだと人員を炙り出されるのも時間の問題ですし。」

2人の部下も投降に応じた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る