第21話 クルド人民革命軍

 アブナーイは中東のクルド自治区でYPG(人民防衛隊)に協力する外国人義勇兵を募集していたように日本国内に住む外国人や現地人を密かに募集して勢力を拡大することを考えていた。

 YPGにいた時も実際にイスラム国やその他対立勢力と戦う際にアメリカ人や中国人、イギリス人、フランス人など各国から義勇兵が集まったことで今回も同じような発想が思い浮かんだのである。アブナーイはYPGの日本支部と言わんばかりにクルド人民革命軍を結成を決心しており、そのことは当然、日本社会解放軍と同じクルド人の仲間も知っていた。

 「ところで同じクルド人とはいえ、川口市とか至る所でデタラメなことしてる同胞だったらどうするつもりか考えているのか?」

 宇野はアブナーイに人選のリスクについて心配し出した。

 「こっちが用意した諜報要員を各業界の派遣社員やらバイト、住み込み労働などに潜り込ませて真面目だが日本社会や国際社会に不満を持つ奴らを探し出して勧誘しているさ。何かと心理を突くのが上手い奴らさ。まあ、中に敵のスパイが潜り込んでたらどうするかは言わずしても分かりきってるだろ?」

アブナーイは宇野に人選する際の概要もリスクの対処も話す。

 そして何年ものスパンをかけて作り上げた地下トンネルと旧防空壕跡をさらに密かに工事して構築した地下アジトへ案内を始めた。そこには旧式のAK47やAK74などの自動小銃やUZIサブマシンガンを装備して迷彩服やカーキ色の戦闘服を着たクルド人民革命軍のメンバーが一斉に敬礼を始めた。

 「ガッチガチの軍隊ではないんだからそこまでしなくて良い。それより何か収穫はどうかな?」

アブナーイは仲間達に近況の確認を始める。

 「数年前から金で釣れた日本人協力者が買収した奥地の山に新しくアジトができたみたいです。」

 経済・経理を担当するロンダー・リングがアブナーイに報告をした。

 「ジャックライアンシリーズの小説みたいに豪快な秘密基地ではないだろうけど少なからずベトナム戦争時のベトコン式の戦術が出来るかもな。ところでその協力してくれる日本人とやら信用できるのか?」

アブナーイは軽口を言った後にロンダーに日本人の土地売人のことについて信用の有無を確認する。

 「まあ、金さえ積めば誰これおべっか使うところは外野から見れば金の亡者感でてて難ですがこないだだって中国人にも平気で土地を売ったりしてましたし、まあその点土地売ってくれるだけでありがたいですが。」

ロンダーはアブナーイに話した。

 「まあ、俺もあんたらも調達してきた通信機器や銃器類の一部も中国産で大陸の武器商人から買った物もあるしな。それに大陸ブローカーは質の悪い物を仕入れてしまったらしまったで言えば変えてくれる。それだけで充分というかありがたいしな。」

 アブナーイはそう言って車が停めてある場所へ向かう。

 「とりあえず新しいアジトへ向かいたい。事前見学は必要だからな。」

私服姿の部下にそう言って助手席に乗った。

 「車の名義やナンバー特定された時などは大丈夫なんでしょうか?」

部下がアブナーイに質問する。

 「問題ないよ。ツテに手続きしてもらったり、表に出せないものは偽造のプロに任せてある。先祖代々、日本に住み着く朝鮮人の行政書類の偽装手続きも何十年も遂行してきたプロだからな。」

不安そうに質問してきた部下にそう答えて不安解消させた。

 「それにしてもかなりツテやコネが多いみたいですね。」

 部下はハンドルを握り絞めながら相変わらず話す。

 「そんなものがないと革命は出来ないさ。ところでメキシコの麻薬カルテルはどのようにして出来たか分かるか?」

「いえ、その辺の知識は疎くて…」

「カルテルを束ねるボスは元々警察官で潜入捜査官だったのさ。それが麻薬ビジネスの世界に入って警察官でいるよりビジネスする方が金になることから味を占めてかつて軍人だった者や警察官、法執行機関の特殊部隊出身者で同じ境遇の知り合いや同期、後輩をリクルートして大きくなった。そんな感じだな。」

アブナーイは部下が居眠り運転しないように裏社会ネタを独りよがりのように話して緊張と不安を紛らわせるようにしていく。

 アジトに到着してから先に向かわせていたメンバーの元へ向かい視察を始める。

 「おおー!これは立派なこった。天然の要塞とベトコン陣地みたいで素晴らしい。よほど陸自の特殊作戦群や空挺団、中即連、レンジャーみたいなのが来ない限り持ち堪えられそうだな。夢が広がる。」

アブナーイは思い描いた物を遥かに凌駕していたのか、かなり興奮していた。

「公安の尾行は無かっただろうな?あと内調や別班のやつらとか。」

先発でアジトに向かったメンバーの1人に確認する。

 「はい。問題はありません。それにこのご時世で我々が動いているとは思いもしないでしょうから。」

アブナーイに確認の質問をされた1人はそう答えた。

 あの暴力団壊滅事件に関しては、まだ警察もアブナーイ達の犯行と気づいていないようでクルド人民革命軍の動きもまだ把握されていない。70年代の赤軍や中核派みたいに目立つことをしない限り当分はなんとでもなるだろうとアブナーイは感じ取っている。

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