第14話 反自衛隊

 テロリスト教団が淡路島のパソーナ社有施設占拠した事件以降、戦後から今にかけて前例の無い治安出動をした自衛隊に対して称賛が挙がると同時に一方でテロリストを射殺した自衛官に対する批判の罵声が挙がっていた。

 志賀3曹が所属している中央即応連隊が駐屯地している栃木県の宇都宮駐屯地においても赤派、共産、社会労働党関係者、左翼団体が抗議デモを行なっている。

 「殺人集団共が〜!」

「自衛隊は完全なる違憲だ!」

「自衛隊の暴走を許すな!国内で戦争を起こす気か!」

「自衛隊はこの世にいらねえんだよ!」

スローガンの書かれた 赤いヘルメットや赤いバンダナをした左翼団体のメンバーが叫びながら駐屯地外周付近をデモ行進をしていた。

 [自衛隊反対!][軍国化反対!][命は平等!]などと書かれたりしているプラカードや布や旗を振って行進しているところをパトロール中の警察官や万が一に備えている機動隊が目配りをしながら警備している。

 警衛隊上番中の自衛官も多少なりとも緊張しているようです特に装備している自動小銃の銃口をデモ隊側に向けないように気を張らせていた。

 今回、警衛についているのは中央即応連隊の施設中隊で装備はつい最近、調達が行き届いた20式5.56ミリ小銃で海外名は「Howa type20 5.56mm」と呼ばれている最新式の採用小銃だった。

 警衛司令も気を張りつつ、万が一に備えて支給された実弾の総数を確認して各隊員にいつでも渡せるように準備をする。

 自衛隊情報保全隊や栃木県警からも宇都宮駐屯地に駐屯する部隊にもし、デモ団体が暴動を起こして警衛隊に危害を加えそうになった場合に備えるように通達があり、志賀3曹が所属する中隊も駐屯地警備に駆り出されるようになった。

 他の県でも同じようなデモ活動が行われているが今回は何故か中央即応連隊が駐屯している宇都宮駐屯地の前に現れるようになっている。おそらくパソーナ社有施設占拠事件においてマスコミの影響で宇都宮駐屯地がターゲットになったのだろうと志賀3曹は悟った。

 「よりによって今度は左翼連中かよ。俺ら随分と何かしら共産だか赤旗に変なところにつけ込まれるようになりましたよね。」

実戦を共にした中島3曹は志賀3曹に愚痴を吐く。

 「まあ、奴らが無双するように暴れた所で外にいる機動隊がどうにかするだろうさ。よほど部屋に飾ってるガンプラよりただ突っ立てるだけなんてことがない限りはな。」

志賀3曹は軽々しくふざけた例えで言葉を返した。

 まあ、中央即応連隊はまだしも問題は他の部隊だった。もし治安出動や国民が暴動を起こした際に対処する訓練を受けてないからである。特に後方支援や戦闘支援職種がそれに該当するが各普通科連隊を含む戦闘職種の部隊も同じように言える。

 60年代から70年代当初はまだ国内情勢が不安定で陸上自衛隊がOD(オリーブドラブ)と呼ばれるカーキ色の戦闘服を着て機動隊のようなプロテクターや防具のようなのを身につけて暴徒を鎮圧したりする訓練をしていた様子が教材ビデオや資料に載っているほど盛んに行われていたみたいだがバブル期に昭和末期となるとほとんど初歩的な戦闘訓練や野戦訓練、たまに市街地戦闘訓練があるかないかの程度でそういった訓練はほとんどされていなかった。

 それが問題点だと2等陸士や自衛官候補生の入りたてでも充分に分かりきったことだったが、その訓練がされていないのが何十年も続いているほどだった。

 「何かの戦記漫画みたいにデモ隊の中から猟銃や小銃持ってきたりなんてことはないよな。」

他の自衛官は他の隊員とダベり続けている。

 「油断はするなよ。はるか昔に警衛上番中の隊員が左翼団体のひとりに刺殺された事件が起きてるからな。」

1等陸曹と思われる中堅ぐらいの自衛官がダベる若い自衛官に注意した。

 現在、反政府団体や反自衛隊団体、左翼団体によるデモ活動は栃木県をはじめとして東京都、埼玉県、神奈川県などの首都圏から大阪府や広島県、愛知県、福岡県、沖縄県を含む南西諸島で行われているが今のところは警察機動隊の存在が抑止力になっているのか暴動までには発展していなかった。

 

 カシャ!カシャ!パシャ!


 カメラのシャッター音が響き、テレビカメラや新聞記者のカメラマンがいたるところからネタ作りに集まってくる。もちろんマスコミ関係者もいるが警察官がデモ隊に近づかないように注意を促す。

 相変わらずシャッター音が鳴るが遠くから望遠レンズで撮影している者がいた。それは公安である。公安は簡単に言うと政治団体や宗教団体、テロ組織、犯罪組織を調査する機関で正式にいうと公安調査庁。その公安調査庁の捜査員は何かを探すように望遠鏡や望遠レンズのカメラで見渡してめぼしいネタが見つかればすぐに撮影を始めた。

 「今のところは正式な団体で反社会的な面が見られるところはないな。まあ、どのみちこれからは監視対象になるだろうがな。」

捜査員は同僚にそう言ってすぐに引き上げる準備をする。

(あのカメラ小僧は公安の連中だな。)

志賀3曹は公安捜査員を見て心の中でつぶやいてデモ活動をしている団体の警戒を再開した。

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